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第172話 ユーベルが変装している執事

 ビーカーの中で合成した液体と砕いた魔石が混ざり合い眼鏡用のコーティング剤が完成した。


 シャーレで人工魔石の仕込みが終わったルネが私の隣でビーカーの中を覗き込んだ。


「これはなに?」


「ん? 眼鏡用のコーティング剤よ」


「コーティング剤?」


 ルネが首を傾けるのに併せてウェーブがかった金色の髪が揺れた。セオドアもこちらの手元を覗きこむ。


「そうよ。用意してもらった眼鏡に塗るの。刷毛はけとかある?」


「それなら物置にあるはず。シンシア」


 ルネの声に研究室の入り口で待機していたシンシアが反応する。


 シンシアは侍女でありながら城内を熟知しているのか、それともルネたちからの信頼が厚いのかよく頼られている印象だ。


「物置で刷毛を取ってくればよろしいのでしょうか」


「待って! 私も行っていい?」


「構いませんが」


 物置に何があるのか気になる。私はシンシアについて行くつもりで挙手した。シンシアが返答をうかがうようにルネとセオドアへ視線を送る。


 この二人に決定権があるのか。


「カレナが行くなら私も久しぶりに物置に行こうかな。人数がいた方が早く見つかりそうだし。セオドアはどうする?」


 ルネも行くのか。問われたセオドアがしばらく考える素振りを見せると、首を左右に振った。


「僕はここにいるよ。ウィリーがいるとはいえ、アルベールを一人にするわけにはいかないし」


 ウィリー? ああ、ユーベルが変装している執事の名前か。シンシアと同じでブラウン色の短髪の青年は黒い瞳でこちらを見た。ウィリーことユーベルが頷いた。


 ほんと見れば見るほどユーベルとは思えない。アルトト村で出会ったユーベルはレディッシュブラウン色の短髪の長身で細身の青年。


 翠眼は風の魔石のように澄んでいてきれいだった。


 姿を変えることのできる魔力の持ち主であるユーベルの目的は未だに分からないけれど、ユーベルを元のウィリーだと信じているセオドアの反応から私以外にバレていないようだ。


 それにしても姿を変えることのできる魔力か。いいな。魔石になったら何色になるんだろう。ちょっと欲しい……じゃない。今は刷毛を手に入れるのが先!


「セオドア、あなたサボろうとか思ってない?」


 ジト目でルネがセオドアに詰め寄る。眉を吊り上げているルネにセオドアが眉を下げて肩をすくめてみせた。


「そんなことないよ。僕は働き者だってルネも知っているだろう?」


「それは知ってるけど。まあいいや。私たちは物置に行ってくるから」


 片手を軽く振るセオドアに見送られて私たちはシンシアの案内の元、城内の物置に向かった。幸い物置は研究室から近い距離にあった。


 眼鏡を取りに行ったときに鍵を借りていたらしく、シンシアがポケットから鍵の束を取り出した。銀色の鍵がぶつかり金属音を鳴らす。


 目印などない鍵はどれがどれだか私には分からない。ルネも同じなのか、眉を寄せて鍵を凝視している。


「すみません、そんなに顔を近づけられては」


「あ、ごめんなさい」


 ルネが鍵から顔を離して苦笑する。シンシアは表情を変えることなく鍵を一本手にして鍵穴へと差し込んだ。開錠音が鳴り、扉が開く。


「うわぁ……広っ」


 さすが城内。物置も想像以上に広い。ウォード家の工房くらいはある。


 広いのに中は整理されていて、並んだ棚には箱が置かれており何が入っているのか細かく記されていた。


「これはシンシアが書いたの?」


 箱に書かれた文字を指して問う私にシンシアは頷いた。ということはこの物置の整理もシンシアがしていたのかな。


 だから眼鏡を頼んだ時も時間をかけずに持って来られたのか。


「そっか。シンシア、字がきれいだね。それに整頓も上手い。私の工房の整理も手伝ってほしいくらい」


 決して工房が汚いわけではないけれど、整理整頓が得意な人に頼みたいこともある。苦笑する私にシンシアは表情を変えずに棚へ視線を向けた。


「ご冗談を」


「え~。冗談じゃないのに。あ、でもここで雇われているなら安易に誘わない方がいいのかな?」


 ルネに視線を送りながら言うと、ルネはきょとんと首を傾けていた。あれ、特に気にしていないのか。


「そんなことよりも、刷毛を探すのでは?」


「そうだった! 刷毛だった」


 シンシアに指摘された私は本来の目的である刷毛探しを始めた。


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