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第168話 太古の魔石獣の瞳

 大きな岩のような体躯。鋭い爪、固く閉ざされた目。頭上には左右に二本の巨大な角が生えている。眠っている? 私は身を乗り出した。


「こら。あんまり身を乗り出して落ちたらどうするの?」


 セオドアが私のジャケットを掴んで引っ張る。


「ごめん。ねえ、今この太古の魔石獣は眠っているの?」


「そうだよ。昨日魔石を与えたからね」


「そう」


 ん? 昨日魔石を与えた? この国にはもう魔石はないんだよね。太古の魔石獣に取り込まれているからないのにどこから……。私はセオドアを勢いよく見た。


「まさかとは思うけど、私の魔石を与えたとかじゃないでしょうね!?」


 念のための確認だ。そう。念のため。セオドアが私にニコリと人懐っこい笑みを向ける。うん。それだけで充分だった。


「なるほど、私の魔石を、私の許可なく、与えたのね?」


「そうだよ」


 そうだよ、じゃない。勝手に私の魔石を与えるなんて!


「だって仕方ないだろ。これが目覚めたらまた土地の魔力を吸い上げるじゃないか。それに、魔石を与えればしばらくは大人しく眠ってくれるんだからいいじゃないか」


 いいわけあるか! ツッコミを入れようとして私は拳を固く握りグッと堪えた。セオドアはまだ下まで下りていく。私は息をついて下へと続く階段を降りた。


 途中の足場で止まった私はジッと太古の魔石獣を見る。眠っているとは言っていたけど、この氷のような水晶のようなものに閉じ込められている状態で起きるの? 


 岩のような瞼の正面で観察していた私の目の前で太古の魔石獣の瞼が微かに動いた。


「ねえ、今瞼が動いた気がするんだけど」


 セオドアの背中に向かって声をかけると、セオドアが太古の魔石獣へ顔を向けた。


「そんなはずないだろ。昨日の魔石でこいつは腹が膨れ、て……っ! カレナ! アルベールを連れてここから離れろ!」


 否定しかけていたセオドアが切羽詰まった声をあげる。私が反応するよりも前に岩のような瞼が動いた。


 ゆっくりと上に持ち上がり、水平に動いた瞬膜の奥、空のような青い瞳の中央が急に赤く光った。この感覚知ってる。私は腕を片手で擦った。


 これは私が魔力の流れを視ているときの感覚に似ている。この太古の魔石獣は今魔力を視ている。


「アルベール!」


 私はハッとしてアルベールの腕を掴んで走り出した。離れないと! 少なくともあの太古の魔石獣の眼から逃れられる距離まで! 階段を上っていたときだ。


「うっ……、ぁ! カレ、ナ……、離れ……」


 アルベールのうめき声に私は足を止めてしまった。


「アルベール?」


 包帯で覆われている目元をアルベールが押さえている。私はとっさにアルベールの魔力の流れを視た。


「っ! 魔力暴走……」


 包帯越しでも分かるほどアルベールの魔力が目元に集中していた。まずい。このままではアルベールが魔力暴走を起こしてしまう。


 ここに透明の魔石はない。


 とりあえずアルベールをここから連れ出さないと! アルベールを引っ張ろうとした私は先にアルベールに腕を掴まれて力強く引かれた。


「え……?」


 油断していた私の身体は階段から落ちる。そんなに高くないから落ちても問題はなさそうだけど、打ち身くらいはするだろうな。なんて考えながら私は落ちる。


「カレナ!」


 セオドアの必死な声と共に私はセオドアに受け止められた。


「ぐっ、……」


 落下してきた人を受け止めたときの衝撃は思いの外大きかったのだろう。セオドアが低くうめいた。


「ごめん、ありがとうセオドア」


 私は身体を起こしてアルベールを見上げた。苦しそうにうめいているアルベールはもがきながら目元の包帯に指をかけた。


「カレナ! アルベールの視界から逃げて!」


 そんなこと言われてももう手遅れだった。私たちがこの場を離れるよりも先にアルベールの目元を覆っていた包帯が階段に落ちる。


「っ!」


 アルベールの赤い瞳が私を捉えた。

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