第167話 地下洞を照らすもの
ブラッドリーとの謁見を終えて私たちは謁見の間を後にした。
着替えてくるからと足早に去って行くセオドアを見送った私とアルベールは外で待っていたシンシアとユーベルに案内された応接室でセオドアの帰りを待っていた。
テーブルを挟んで革張りのソファーに向かい合わせに座っていた私にアルベールが声をかけた。
「太古の魔石獣とやらを目覚めさせるのか?」
「……分からない。太古の魔石獣がどういった存在なのか分からないなら安易に目覚めさせるなんてしたくない」
アルベールの問いに私はうつむいた。膝の上で手の甲に爪が食い込むほど強く握った。
「目覚めればウェネーフィカたちが危険にさらされる、だったか」
「ええ。太古の魔石獣が目を覚ませば、ウェネーフィカたちの身体ごと魔力を取り込んでしまう。城主の話が正しければだけど」
ユーベルに聞こえるように伝えれば、シンシアの隣で控えていたユーベルの片眉が上がった。できればこの情報をウェネーフィカたちに伝えてほしい。
ウェネーフィカたちが太古の魔石獣と戦うにはあまりに不利だけれど、何か手立てがあるのなら知恵を貸してほしいと期待を込める。
「今から太古の魔石獣と対面でしょ。実物を見てから考えようと思う」
「そうか」
「アルベールはウェネーフィカだから太古の魔石獣に会うのは危険よね」
ブラッドリーの言うことを信じるのであれば、石化の魔力を有するアルベールが太古の魔石獣に会えば意図的に魔力暴走を引き起こして魔力を奪い、取り込まれてしまう。
「アルベールも連れていくよ」
着替えを終えたセオドアが代わりに返事をする。襟元が緩い白いシャツに黒いパンツを穿いているセオドアは正装しているときと比べて雰囲気が緩い。
丸眼鏡をかけて真っ白な白衣のポケットに両手を突っ込んだまま近づいてくる。
「どうしてよ。アルベールは太古の魔石獣に取り込まれる危険性があるんでしょ。アルベールを殺す気? 危険な目にあわせられるわけないでしょ」
「カレナに決定権はないよ」
見た目は緩いのに、はっきりと告げられて私は押し黙る。ここはセオドアたちのいる領地。捕虜である私たちに拒否権も、決定権もない。
丸眼鏡の奥に見える碧眼が私を映してすぐに笑顔に塗り替えられた。
「大丈夫。アレは昨日魔石を食らったあとだから満腹で眠っているはずだよ。目隠しされているアルベールに太古の魔石獣の気配が分かるのか知りたいし」
私が言い返す前にセオドアが応接室から出て行く。
「捕虜であるオレには拒否権がない。セオドアに従うしかないんだよ。それに、視覚を閉じられているオレは足手まといでしかないからな」
諦めたように小さく笑うアルベールに私は何も言う事ができずに黙るしかなかった。アルベールの目隠しが取れれば。
でも、見たモノを自分の意志とは無関係に石化してしまうアルベールの魔力は制御不可能っぽいし。なにかいい方法があればいいんだけど。
「何してるの? ついてきて」
立ち止まっていた私たちに振り向いたセオドアが手招いている。私はアルベールの手を引いてセオドアに追いついた。
城内を出て中庭を通り抜けた先、兵士二人が入り口を守るように立っている。男性兵士たちは手にしていた槍を傾けて道を塞いだ。
「セオドア様、中へ入られますか?」
「うん。だから通してくれる?」
セオドア様? 魔石の研究者なのに身分が高いような口ぶりだ。魔石の研究者はこの城では地位が高いのかな。兵士たちの視線が私とアルベールへ向けられる。
「ああ。彼女たちは僕の客人だよ。今からアレを見せるんだ。だから、二人も通してくれる?」
客人、ね。まあ、馬鹿正直に捕虜だよなんて言えば兵士たちに警戒されるものね。男二人は槍を縦に構え直して道を譲った。
「ありがとうね。二人とも、ご苦労様」
緩く手を振るセオドアに兵士たちは敬礼した。セオドアってホント何者なの。城主のブラッドリーにも平然と上申できるし、地下牢にも自由に出入りできる。
ただの研究者じゃないの?
地下へと続く階段を降りながら私はハニーブラウン色の髪を見つめた。どれくらい階段を降りたのか分からないけれど、ようやく足場が見えてきた。
地下に開けられた空洞が見える。地下洞を照らすのはなんだろう?
「気になるの?」
「ええ。魔力……じゃないわよね」
「そうだよ。等間隔で設置しているのが外灯、僕が手にしているのがランタン。動力源は電気なんだけど、これは僕たちの技術だから教えられないかな」
「外灯、ランタン」
初めて見る。ウェネーフィカの領では灯りも魔力や魔石だったから不思議。
「魔力や魔石なんて使ったらすぐに消費されるからね」
太古の魔石獣がここに封じられているならそうよね。私は足場から下を覗きこんだ。
「なによ……これ」
下には氷のような、水晶のようなものに身体を閉じ込められた巨大な獣がいた。




