第158話 見せたいもの
翌朝、地下牢の簡易ベッドで眠っていた私をセオドアが起こしに来た。
ここでのセオドアの立ち位置って良くわからないけど、セオドアも私と同じ魔石の研究者なら私たちに食事を持ってきたり、起こしにくる必要なんてないのに。
不思議だわ。
「なんで僕が来たのかって顔だね」
鉄格子越しにセオドアが人懐っこい笑みを見せる。
「そうね。あなたが私の世話係にでもなったのかって思っていたところよ」
「世話係? ふっ、ははは!」
セオドアが吹き出して声をあげて笑いだす。なによ。そんなに笑わなくてもいいじゃない。
「ごめん、ごめん。捕虜になっているのにカレナは余裕があるなって思ったら笑えてきて」
ひとしきり笑ったセオドアは目尻に溜まった涙を人差し指で拭った。
「余裕はないけど、昨日から私を捕えておいて食事を運んでくれるじゃない。あなた、魔石の研究者でしょ? なんでこんなことまでしてるのかなって」
トレイに乗せられているのは昨日の晩と同じパンとソーセージ。私はパンに手を伸ばしてセオドアを盗み見た。
捕えている私やアルベールに食事を運ぶための人材が足りていないのか。それともセオドアが自主的に行っているのか。私はパンをかじりながら返答を待った。
「僕がカレナの監視を任されているからだよ」
「へぇ~。任せているのはこの国の王様とか?」
セオドアはにこり、と笑みを向けるだけだ。ということは答える気がないな。私はソーセージをフォークで刺した。
「そうそう、カレナに会いたいって方がいるんだ。食事が済んだらお風呂に入って着替えてね。アルベール、君もだよ」
「オレも!?」
フォークに刺したソーセージを食べようと口を開いていたアルベールが声をあげる。私もアルベールが一緒だとは思わず目を丸くした。
「カレナとアルベールに見せたいものがあるんだ。アルベールは見ることができないけど、ついてきてほしい」
しゃがんでこちらに目線を合わせてくるセオドアがニッコリと笑みを向けてくる。なにを考えているのかいまいち読めない。
ジト目でセオドアを見ながら私はソーセージを口に入れた。うん、美味しい。
「そんなに警戒しなくても今からカレナに見せるのはカレナのテンションが上がるものだよ」
「私の?」
思わず返してしまう。セオドアが頷く。
「そう。昨日話したよね、ここは魔石の力を拒む土地だって。その原因を教えてあげる」
「違う国に身を置いている私に教えてもいいことなの?」
「構わないさ。アレは僕たちでもどうにもならないから。きっと君にも無理だよ」
アレ? この国、土地に何かあるの?
「無理だって決めつけるには早くない? 私はこれでも魔石の研究者よ? 魔石が絡むなら解決してみせるわよ」
「いいね、そういうの。だけど、アレを見てその言葉がもう一度言えるかな?」
「さっきから言ってるアレってなんなのよ」
もったいぶる言い方をするセオドアに私の片眉が上がる。
アレだけで何のことかわからないのに勝手に無理だって判断されるのは魔石を扱う者としてのプライドが許さないんだけど!
「それは実際に自分の目で見た方がいいと思うよ。さて、食事は終わったね。じゃあ、牢屋の鍵を開けるからついてきて」
鉄格子が開いて私は昨日ぶりに牢屋から出た。セオドアはアルベールの牢の鍵を開けている。伸びをしながら私はセオドアの背中を見た。
逃げようにもまだ場所の把握ができていない。ここは大人しくセオドアについて行った方が得策よね。アルベールも牢から出てきた。
「行こうか。カレナ、アルベール」
先を歩くセオドアの後を私は目元を布で覆われているアルベールの手を引いてついて行った。
石造りの階段を上って扉を開けた先、薄暗い地下牢にいた私は久しぶりの陽射しの眩さに目を細めた。




