第157話 知ってしまったなら放置なんて出来ない
いつもありがとうございます。世間一般は3連休と聞きまして、せっかくなら連休のお供にと本日から月曜日までの3日間各1話ずつ投稿します。楽しんでいただければ幸いです。
戦争ですって!? 私は地下牢から出て行こうとするセオドアを引き止めようと声を上げた。
「ちょっと待ちなさい! セオドア!」
私の呼び止める声にセオドアが足を止めて振り向いた。
「カレナだって心当たり、あるんじゃない?」
私は記憶を辿った。アランと婚約する前、アンスロポスの人たちが研究室に軍事利用するために魔石の研究成果を手に入れようと何度か訪れていたっけ。
魔石で人を傷つけるために使うなら協力しないと何度も追い返していた。沈黙した私にセオドアは何も言わない。
「……あんたが私をここに連れてきた理由はやっぱり戦争のため? 軍事利用するために魔石を使うのね」
鉄格子を掴む手に力が入る。魔石はそんなことのために使うんじゃない。私はセオドアを睨んだ。
「残念ながら僕がカレナをここに連れてきた理由は他にあるんだ。カレナにはやってもらいたいことがある」
「やってもらいたいことって何よ」
セオドアは何も言わず笑顔を見せただけでそのまま地下牢から出て行った。
「……戦争なんて」
鉄格子から手を離した私は力なくその場に座り込んだ。なんで魔石を争いのために使おうとするのよ。冷たい石畳を私は爪で掻いた。
「争いならいつだって起こっているだろ」
アルベールの冷たい声に私は顔を勢いよく上げる。目を隠しているはずなのにアルベールは私をジッと見つめていた。
「アンタが知らないだけだ。ウェネーフィカの間でも領地を巡って争いは起こっていた」
「な、んで?」
ウェネーフィカの土地だって魔力に依るところが大きい。アルトト村のように荒廃することだってある。
だけどそれは魔力を上手く使えていれば起こらないはず。私はアルベールの国を思い出して言葉を呑み込んだ。
「砂漠の国に水の魔力を持つ者がいなかったらどうなると思う? 風、緑の魔力を扱える者がいなければ?」
「その魔力を持つ者を求める?」
アルベールが頷いた。魔石もなく、必要な魔力を持たない者がいなければ生活が成り立たない。
「アンタが知らないだけで、必要な魔力を持つ者の人身売買は裏で行われていた。魔石だって高額で取引されていたさ」
「アルベールの国ではあったの?」
私が知らないだけできっと今でも行われているんだ。アルマが憧れた世界はこんなのじゃないのに。
「それでも取引が成立しない場合や、土地を巡ってウェネーフィカだって争っていた。生きるために必要なことだとオレたちは教わっていた」
「……」
私はなにも言えなかった。言葉を探してもどれも薄くて。他の現実を知らなかった自分に腹が立って、どうしようもない感情に上手く考えがまとまらない。
「別にアンタが知らないことが悪いんじゃない。それに争っていた国は魔石獣の脅威にさらされていない別の意味で平和な国だからな」
慰めてくれいるのか。アルベールの声音は穏やかで優しい。
「それでも世界を知らなすぎよ」
「知ったからってどうするんだ? アンタはアンスロポスで魔石を扱えるだけだろ」
アルベールの言う通りだ。私がウェネーフィカの情勢と現実を知ったところで今すぐできることはない。
しょせん私は魔石の研究者にすぎない。だけど、だからと言って知ってしまったなら知らないフリはできない。
「そうよ。私は魔石が扱えるだけの研究者。だけど知ってしまったなら放置なんて出来ないでしょ!」
驚いているのか、アルベールが息を呑んだ気配を感じる。
「ここから無事に出られたらその問題にも向き合うわ」
「なんでそこまでするんだ?」
アルベールの問いに私はアルマの顔を思い出した。動物や人の営みに憧れたアルマの望まない世界。
きっとこれも人の営みの一環なのだろうけれど、人身売買や戦争はアルマが悲しむ。
「理由? 私がそうしたいからよ!」
私の返答に呆気にとられたアルベールが肩を揺らした。
「アンタ本当におもしろいな」
アルベールが声を殺して笑う。ちょっと! なんで笑われるのよ!




