第156話 戦争の火種
アンスロポスとウェネーフィカは生まれたときから住む世界が違う、か。魔力を持つ者と持たない者。
セオドアからすれば魔力を持つウェネーフィカは特別な存在に見えるのかもしれない。ううん、アンスロポスのほとんどが思っているのかな。
「住む世界は違うのかもしれないけど」
ぽつり、と呟いた私をセオドアの碧眼がジッと見つめた。続きを促すような視線の奥、アルベールも私の続きを待っているようにこちらに顔を向ける。
「ウェネーフィカたちと過ごしていると、みんなそれぞれ悩みを抱えているわ。魔力暴走を起こしかけて魔力なんかなければいいのにって泣いている子だっている」
セオドアが鼻で笑う。
「それは魔力を持っているからこそのぜいたくな悩みじゃない?」
怒るでもなくセオドアが言い返す。持っていない者からすればそうなのかもしれない。私だって羨ましいと思ったことはたしかにある。
アルベールがセオドアの奥でうつむいた。
アルベールだって魔力がなければこんな地下牢に閉じ込められることも、親から死刑を言い渡されることもなかったのだろう。
今頃は自国で不自由なく暮らせていたのかもしれない。
「ウェネーフィカたちは魔力を持つことで豊かな土地で暮らせる権利を得ているじゃないか」
そうか。ウェネーフィカという存在の成り立ちと性質を知っているのは自称神様のアルマから聞いた私だけだ。中性的な顔立ちのシルバーブロンドの長髪が脳を過る。
「この世界にある魔力を体内に宿して生まれるのが魔石獣と同じウェネーフィカ。それに対して魔石を扱えるのがアンスロポスよ」
セオドアが目を見開いて私を見る。アルベールも驚いているのか、息を呑んだ。
「それはなんだい?」
「この世界の成り立ち、創世記のようなものね」
「初めて聞くけど」
椅子の背に体重を預けていたセオドアが眉を寄せながら下あごに手を添えている。そりゃあね。この世界の神様アルマから直接聞いたことだもの。
だけど、アルマのことを話したところできっと誰も信じない。
「ふーん」
「魔力を持って生まれる代わりにウェネーフィカは常に魔石獣と同じ末路を辿るリスクを背負っているのよ」
「……カレナはあっちの味方だからそんなことを言うんだろ? しょせん僕たちアンスロポスは魔石を扱えるだけだ」
あっちの味方って。セオドアが椅子から立ち上がって私の方へ向かってくる。魔石を扱えるだけでも十分だと思うけど。
「魔石を扱えるのになにが不満なの」
鉄格子越しにセオドアがしゃがんで私と目線を合わせた。
「魔石を扱えることに不満はないさ。ただ、魔石には限りがあるだろ」
「数ってことよね?」
セオドアは頷いた。
「そうだよ。魔石は無限じゃない。魔道具だって魔石をベースに作るんだから量産はできない。だから僕たちアンスロポスは魔石を使わない道具を創ろうとした」
技術力ならアンスロポスが優れている。魔石を使わない道具を作ることだってできるのだろう。だけど、セオドアの表情は浮かない。
「だけどね、どうあがいても魔石の力には敵わないんだよ」
「魔石の力には……敵わない?」
疑問符を浮かべている私にセオドアはトレイを回収しようと手を出している。
「そう。力が凝縮された魔石は膨大な力を有している。それこそ魔石の一つで小さな町を救うことも壊すこともできる」
「は!? 救うことは分かるけど、破壊するってどういうことよ!」
誤った魔石の使い道は許せない。私は鉄格子を強く掴んで吠えた。
「例えばの話だよ」
肩をすくめたセオドアはトレイを回収してだけど、と続けた。
「そんな膨大な力を有する魔石が限られているとなれば人間はどう行動すると思う?」
投げかけられた問い。私は鉄格子を掴んだままアルベールの方へ向かうセオドアの背中を見つめた。
魔石の膨大な力に魅入られた人がいて、その数が限られているとなると考えられることは。
「魔石の奪い合い……?」
「そうだよ。今僕たちは同じアンスロポスと限られた魔石を巡って戦争をしようとしているんだ」
トレイを回収し終えたセオドアがニコリと笑った。




