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第143話 契約の内容

 グリアが金色の瞳を大きく見開いた。信じられないものを見たと言いたいような顔をしている。そりゃあ、突然自分の力を買うと言われれば驚くわよね。


「能力を買うってどういう意味っすか?」


「そうね。私と契約することで、あなたは銀の加工をしてアクセサリーの台座を作ったり、魔道具を作る。そして私はそれに見合った報酬を払う」


「魔道具?」


 疑問符を浮かべたグリアに私は口角を上げた。ふっふっふ、と腕を組んで笑い声を上げ始めた私をグリアが若干引き気味に見ている。そんな顔で見るな。


「グリアは手先が器用だから、私が作りたいなって思う魔道具を作ってほしいの! 材料は私が用意するから!」


「は、はあ……。その魔道具というのは作ってみないと分からないっすけど」


 眉を下げたグリアが困惑気味に返した。


「それで、私と契約するからにはあなたの生活は私が支えるわ。どう?」


「どうって言われても。それにあたしの生活を支えるっていったい……」


「言ったままの意味よ。私、こう見えても魔石や魔鉱物の魔道具も作ってるの。その収入があるからあなたの生活を支えるくらいはできるわ」


 グリアの金色の瞳が揺れた。涙が頬を伝い、顎から雫が落ちる。肩を揺らしたグリアが声を殺して泣き出した。


 私がハンカチを手渡せば、掴んだグリアが強く握りしめる。


「……デザート食べない?」


「っ、……、は、……い」


 頷いたグリアに私は店員へデザートを注文した。幼い頃に両親を失ったグリアは誰にも頼ることができず、裏路地で一人生きてきた。


 家もなく、今日食べる物も不安定な生活の中でグリアは廃棄された銀を拾い集めてアクセサリーを作っていた。


 当然売れることはあまりなく、売れた日は新鮮な食べ物を食べることができる。けれど、売れない日は廃棄されたものを漁って食べる生活をしていた。


 運ばれてきたバニラアイスを食べながらポツリ、ポツリとグリアが話す。だから私の提案が嬉しかったのだとグリアは涙をポロポロとこぼした。


「聞いてもいいっすか?」


「なに?」


 バニラアイスを食べかけていた私にグリアが問いを口にした。


「なんでそこまでしてくれるんすか?」


「なんで? そりゃあ、魔石とか魔鉱物のためよ! こんなにきれいな魔石や魔鉱物を飾れるものを作れるのよ! これくらい安いもんよ!」


 魔石がはめ込まれた銀色のアクセサリーを見せながら片目をつむる私にグリアが吹き出した。肩の力が抜けたグリアがようやく笑う。


「それじゃあ、契約の続きの話しをしよう」


 空になったガラスの器にスプーンを置いて私はグリアを見据えた。



 宿にグリアと泊まった翌日、私はグリアを連れて賃貸物件をあたった。大家がいればまだ若いグリアの身に何かあっても保障してくれる。


 いくつかあたってようやく今の店舗兼住宅を見つけられた。それから二年。グリアの作る商品は高く評価されて今では売れ筋商品をいくつも世に出している。


 今はグリアからの申し出で家賃はグリアが自分で支払い、さらには売上の何割かは私に支払われている。


 断ったけれど、グリアから「商品のアイディア料っすよ!」と言われてしまって押し負けてしまった。


「カレナ? どうしたんすか、ボーっとして」


 出会った頃を思い出していた私の目の前でグリアが片手を振っている。


「ううん。ちょっとグリアと出会った時のことを思い出しただけ」


 緩く首を左右に振った私にグリアが笑みを向けた。


「カレナのおかげで今のあたしがあるっす。だから、カレナと結婚できるアラン様はラッキーっすね」


「は!? 急に何を言い出すのよ!」


 グリアの突飛な発言に私は目を丸くした。


「だってカレナは魔石に関することになると歯止めはきかないっすけど、それであたしは救われたっす。カレナみたいな人は世の中そんなにいないっすよ」


 白い歯を見せながら二ッと、屈託なく笑われてしまえば私は何も言えなくなる。

 アランの反応が気になって横目で盗み見れば、アランは柔らかく微笑んでいた。


「ああ。知っている」


「そうっすよね! カレナと結婚する気でいるなら知ってるっすよね! 正直羨ましいっす」


 あぁ~! やめて! 恥ずかしい! 私はアランとグリアが二人で盛り上がっているのを聞きながら気恥ずかしさに耐えかねて両手で顔を覆った。

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