第142話 グリアの過去と出会い
十七歳だった私は学園リメリパテの学生で、今と変わらずに魔石と魔鉱物の研究に勤しんでいた。
魔鉱物を使った魔道具を作ってはその売り上げで次の研究に必要な道具、材料を買っていた。
学園から注文はできるけれど、時々私は外出申請を出して王都まで足を延ばすこともあった。そこで私はグリアに出会ったんだ。
城下町を散策中、ふいに足を踏み入れた裏路地には露店が出ていた。露店といっても、さきほどアランがマントを買ってくれたようなテントのある露店ではない。
商品は地面に直接敷かれた薄汚れた布の上に並べられているだけだ。
店主もやせ細った人たちばかりで、今日食べるものを得るだけで精いっぱいといった様子だった。
去年法の改正があって裏路地での商売は禁止となっているけれど、たぶん今でも隠れて行われていると思う。
その中の一人がグリアだった。十五歳の少女だったグリアは今と違って、骨と皮だけの細い手足で、伸ばしっぱなしになった赤い髪はぼさぼさだった。
膝を抱えていたグリアは生気を失った金色の瞳でぼんやりと通り過ぎる人たちを見ていた。グリアの出していた商品はアクセサリー台座ばかり。
石の嵌っていない台座に価値を見出せない人には無価値に映るからか、誰も見向きもしない。だけど、私にはその台座が魅力的に見えて足を止めた。
「ねえ、それアクセサリーの台座でしょ?」
「……」
頷いたグリアに私はアクセサリーの台座に手を伸ばした。
「手に取って見てもいい?」
聞いた瞬間、金色の瞳が大きく見開かれたのを今でも覚えている。私は一つ手に取って観察した。
銀色の台座は良く手に馴染んだ。私は手持ちの魔鉱物を鞄から取り出して台座に嵌めてみた。水の魔力を宿す青色の魔鉱物がキラリと光る。
「おお! いい感じ! これ、あなたが作ったの?」
「……そうっす」
私の問いに小さな声でグリアが答えた。銀を手に入れるのは簡単だけれど、加工するのがめんどうなので銀を使ってアクセサリーを作る人が少ない。
だけど、銀は魔石との相性がとてもいい。よく見ればアクセサリーの台座は全部デザインが違う。粘土のように銀を自在に加工できるグリアの能力は貴重だ。
私はアクセサリーの台座を手にしたままグリアに声をかけた。
「ねえ、これいくら?」
「買って、くれる……んすか?」
買われるとは思っていなかったのだろう。金色の瞳を大きく見開き、地面に敷いていた布に手を付いて私を見た。
信じられないものを見たとでも言いたいような顔だった。
「そうよ。なんならこのアクセサリーの台座を全部買うわ。それと、売れたんだからこのあとちょっと付き合ってくれない?」
「全部……売れ、た……んすか?」
「全部よ。全部。ほら、布畳んで」
お金をグリアに手渡した私はアクセサリーの台座を全部鞄に詰めると、布を畳むグリナの腕を掴んだ。
足と同様に細い。食事もまともに取れていないんだろうな。私はグリアを連れて宿屋に行くと、グリアを風呂に入れて食事を摂らせた。
空腹だったのか、グリアは勢いよく食べていた。
どれくらいまともに食事を摂っていなかったのかは分からないけれど、食べている途中でグリアが泣き出したのは今でも覚えてる。
「お腹は膨れた?」
「……はいっす」
問いに水の入ったグラスを両手で持っているグリアが小さく頷く。
「良かった。それで、あなたは名前は?」
「グリアっす」
「グリア。私はカレナよ。よろしくね」
手を伸ばして握手を求める私に理解できないと首を傾けたグリアは真似るように手を伸ばしてきた。グリアの手を握って握手した私はさっそく本題に移った。
「ねえ、グリア。私と契約しない?」
「契約っすか?」
「そうよ。あなたの銀を自在に加工できる能力を私が買うの」
「あたしの能力を……買う?」
肯定するように私は頷いた。




