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第139話 嫉妬とかじゃないから

 コホン、と女性の咳払いが聞こえて私はつま先立ちを戻した。そうだった。ここカフェの中だった。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「え、あ、はい! すみません」


 いつの間にか私たちの順番になっていたらしい。うわぁー、恥ずかしい! 何やっているのよ私! 心臓がバクバクとうるさいくらい鳴っている。


「アラン様、注文! 注文しましょう!」


 私はアランを見上げて注文を促した。笑顔を崩さない店員に私はパンケーキとカフェラテのセットを、アランはサンドイッチとコーヒーの軽食セットを頼んだ。


「席は外のカフェテラスでいいですか? あ、ちょうど空きそうですよ」


 外に出ると、ちょうど一組のカップルが席を立ったところだった。男性店員がテーブルを拭いて「どうぞ」と案内してくれた。


 陽をさえぎるように建てられた屋根の下、白を基調とした椅子をアランが引いてくれる。ん? 引かれた椅子とアランを見上げる私にアランが座すように促した。


「こういうのは男性がエスコートするものだ」


「そういうものですか。……慣れないですね」


 今まで男性からエスコートされることなんてなかったから慣れない。私は気恥ずかしさを感じながら椅子に腰かけた。


 私が座ったのを見てからアランが目の前に座った。


 緩やかな風が吹いて近くに植えてある木々が葉を揺らす。風に遊ばれる髪を私は片手で押さえた。視線を感じて上を向くと、アランがこちらをジッと見つめている。


「な、なにか変なところでもありますか?」


「あ。いや、こうして見ると君がただの女性に見えるなと思っていた」


 ただの女性? ちょっとそれどういう意味よ。顔に出ていたのか、アランが慌てて弁明を始めた。


「違うんだ。君は常に活発だからな。俺が見てきた君は魔石や魔石獣を見つけるとこちらの制止を無視して突き進むだろう?」


「うっ」


 返す言葉が見つからず私は言葉に詰まった。


「だから、こうしてきれいに着飾って大人しくしている姿を目にしていると君も普通の女性なのだと改めて思っていたところだ」


「そ、うですか」


 められているのよね? そうよね? 元から普通の女性だけど。


 ただ、ちょっと好奇心が旺盛で魔石とか魔鉱物、魔石獣が絡むと暴走しがちということを除けば普通の女よ。うん、そう。


「アラン様もこうして見ると普通の男性に見えますね。あ、いえ。普通というのは失言でした。えーと、身分に関係なく城下町で見かけたデートしている人たちと変わらないといいますか、好青年に見えるという意味です!」


 ホワイトブロンド色の短髪にこちらを見据えるヘーゼル色の瞳を持つ端正は顔立ちの青年が普通かと聞かれれば、私は首を左右に振る。


 だってこの人から隠しきれない気品と色気が漏れ出てるのよ!? 


 さっきからカフェテラスでお茶をしている人や、楽しそうに会話をしていた女性たちだけじゃなくて通行人たちでさえこちらをチラチラと見てくる。


 そりゃあ、身分とか魔力を抜きにしても貴族令嬢たちが旦那にと求めるはずよね。……ん? 今少し胸のあたりがモヤっとした気がする。


 アランの魅力は身分でも見た目でもなくて、もちろん魔力……は魔石として魅力的だけど、そうじゃなくて。


 アランは強くなるために努力する人で、冷酷だと噂されているのにふとした拍子に少年のように笑うところ、照れた時に手で口元を隠す可愛らしい一面を持っている。


 そこがいいんだ。だから、見た目だけで判断されるのが私は嫌なだけで、嫉妬とかじゃないから。


「カレナ?」


 アランのことで頭がいっぱいだった私にアランが声をかけた。慌てて私はアランを見る。うっ、でも顔もいい!


「考え事か?」


「いえ、そんなことは」


「君のことだ。魔石のことばかり考えていたんだろうな」


 くくくっ、と声を殺して笑うアランはやっぱり少年みたいで、私は否定しようと口を開きかけて閉じた。


 否定したら魔石のことじゃなくてアランのことを考えていたことを話さなくてはならなくなる。そんなの恥ずかしすぎる!


「あははは、ソウデスネ~」


 私は頬を引きつらせながら視線をそらした。


「お待たせいたしました」


 ちょうどタイミングよく女性店員が注文していたパンケーキセットとアランの頼んだサンドイッチの軽食セットを運んできた。ナイスタイミング! 


 ありがとう、店員さん!


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