第130話 夜の城下町
サリーの寮に泊まることで話がまとまって私はサリーの案内で夕食を共にすることになった。
坂道を下り、城下町までおりると昼間とは異なり、建物や街灯に明かりが灯っている。淡い光が道を照らしている下を私たちは歩いていた。
同じ道でも、空いている店が変わり街の人たちの雰囲気もがらりと変わる。
城下町の中心にある大きな噴水には子どもの姿はなく、手を繋いだ恋人たちや、待ち合わせをしている人たちに変わっている。
「そこの噴水は恋人たちがデートの待ち合わせするスポットで有名なのよね」
「そうなんだ」
「あんたは明日どこで待ち合わせするの?」
サリーの問いに私はアランからウォード家にいる時にもらっていた手紙の内容を思い出した。手紙には待ち合わせ場所と時間が書かれていて、たしか場所は。
「えーっと、城下町の手前にある門の前だったかな?」
王宮から城下町までおりるときにくぐる大きなアーチ状の門。そこがアランとの待ち合わせ場所だ。さっきサリーと通ってきたから迷うことはないだろう。
「まあ、無難な場所よね。定番の噴水前だとアラン様の容姿だと目立つし」
「た、たしかに?」
噴水前にアランが立っているだけで周囲の注目を集めてしまう。
私が先に来ていた場合でも、立っている庶民の私にアランが駆け寄ろうものならそれだけでざわつかれてしまいそう。
う~ん、容易に想像できて怖い。人通りの少ない門の前が無難か。
「ねえ、サリー。ご飯はどこで食べるの?」
「ん? この先にあるレストランよ。実はもう予約してあるの」
「予約してたんだ。もしかしてサリー楽しみにしてた、とか?」
からかい混じりに言うと、サリーは「はいはい」と軽くあしらう。
そのままサリーについて行くと、いくつもの三角屋根がシンメトリーとなっている建物の前で止まった。
灯りに照らされている外観は夜空の中に浮かぶ小さな城のよう。木製の扉を開けると、ウエイターが立っておりサリーと言葉を交わして席へと案内する。
照明は明るすぎず落ち着いており、茶色を基調としたアンティークスタイルの内装は落ち着いた雰囲気を作っていた。
案内された席に私とサリーは向かい合わせに座った。渡されたメニュー表に目を通す。肉、魚とディナー用のメニューが並んでいる。
「なんかさ、サリーとこうしてレストランに行くのって初めてだね」
「そりゃあね。この前まで学園にいたじゃない」
「そうだね。ご飯は学食と寮の食事だった」
メニュー表に視線を落としながら私はウォード家に来る前までのことを思い出していた。
学食とは言っても、研究に没頭していた私はサンドイッチとか片手で簡単に食べられるものばかり摂取していた。
「サンドイッチを片手に食べながら魔石の文献読んでたり、採取した魔鉱物の観察してたわよね、あんた」
「うっ、いや、だって。時間がもったいなかったし」
サリーに誘われても私は空返事だったことが多い。そのときのことを根に持っているのかもしれない。
「ウォード家に行ってからはちゃんと食事摂るようになったわよね。テーブルマナーもちゃんと身について……」
「サリーは私の母親かなにか?」
わざとらしく涙を拭うフリをするサリーに私は半目でツッコミを入れた。素知らぬふりをしてサリーはメニュー表に視線を落とす。
「まあ、でも。あんたとこうして外食できるようになったんだから、ウォード家での日々はあんたにとっていい影響を与えているのかもね」
ふいに私の脳裏にアリスを始めエリナーたちの顔が浮かんだ。美味しいものを教えてくれたウォード家の人たち。
きっかけを与えてくれたのは婚約者として私を迎えてくれたアラン。こうしてサリーとレストランで食事をするようになったのも彼らの影響が大きい。
「な、何よ」
視線を感じて顔を上げると、サリーが目元を緩めている。
「いいや。カレナちゃんは今誰のことを思い浮かべているのかなって」
「ちょっとその呼び方やめてくれる? 今ぞわっとしたんだけど!?」
袖をまくって私は鳥肌が立っているのをサリーに見せた。
「……私もぞわっとしたわ」
自分で言っておいてサリーも鳥肌が立ったらしい。同じく袖をまくって鳥肌が立った腕を見せてきて私たちは同時に吹き出した。




