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第126話 加護の力

 多くの令嬢たちが思ったことらしい。


 魔力なしのアンスロポス、貴族でもなんでもない庶民の私がアランの婚約者として選ばれる権利があるなら私よりも優れている自分たちにも権利があるのだと令嬢たちは主張していたらしい。


 それらの意見すべてアランは無視していたのだとレティーシャは語った。


「そして愚かにも私は焦りと、嫉妬で魔石獣の幼体に手を出してしまいました。そんなことをしてもアラン様が私に振り向いてくれるわけもないのに」


 ぽつりとこぼすレティーシャは自嘲気味に笑う。私はかける言葉が見つからずレティーシャを見つめた。


「でも、あなたと今日話をしてアラン様があなたを選んだ理由が分かった気がしますわ」


 疑問符を浮かべている私にレティーシャは微笑んだ。レティーシャは自分の魔力が低いことを気にしている。


 でも、それは自分の力を知らないからだ。


 加護の魔力なんて珍しいものを持ちながら劣等感に今まで苦しんでいたのか。


 アリスもだけど、自分たちの魔力の力を知らずに抑えて魔力暴走を起こしてしまうのは見ていて悲しい。


 カヤ様だって加護の魔力を持ちながら使うことなく魔力暴走で昏睡状態になっていたな。


 ああ、そうか。


 貴族の令嬢たちは最初から魔力が低いからなのではなく、加護や癒しの魔力を持って生まれても平和な暮らしの中ではそれを使うことがないから知らないんだ。


「ねえ、レティーシャ」


「はい」


 呼びかけると、レティーシャが表情を柔らかくして返事する。


「レティーシャは加護の魔力に落胆していたけど、加護の魔力ってすごくレアなの」


「レア、ですか?」


「うん。たぶんだけど、貴族の令嬢たちが持つ魔力って加護系が多いんだと思う。それはきっとその力で領民たちを護れるようになんじゃないかな」


「領民たちを護れるように」


 小さく繰り返したレティーシャを見据えながら私は力強く頷いた。


「でも、私は力の使い方が分かりませんわ」


「そっか。ん~、じゃあちょっと試そう」


 私は再びレティーシャの傍に寄って洗朱色の魔石を手に取った。


「あの、試すって?」


「まあ、見ててよ」


 疑問符を浮かべているレティーシャに私は片目をつむりながら空の皿を手にした。


「この皿が割れないように加護を与えるの」


 魔石を通じて私は皿に加護の力を与えて手を離す。落下した皿は本来なら割れるはずが、加護を受けているおかげで割れずに済んだ。


 レティーシャもメイドも目を丸くしている。


「ね? これがレティーシャの加護の力。すごいでしょ! レティーシャは魔力が低いわけでも、力がないわけでもないの」


 目の前でレティーシャが静かに涙を流していて私は途中で言葉を止めた。


 自分でも涙を止めることができないのか、レティーシャは何度も涙を拭ってはあふれる涙に肩を震わせた。


「ごめ、ん、なさっ。そんなこと、言われたの初めて、で」


 レティーシャは幼い頃から自分の魔力が低いことを周りの大人たちに指摘されてきたのだろう。


 直接口にしなくても、感じ取れてしまったレティーシャは今まで劣等感でいっぱいだったのかもしれない。そんなことないのに。


「レティーシャ、ちょっと試してみない? このティーカップに加護の力を与えてみて」


 私はレティーシャの手を取ってティーカップに触れさせた。不安そうに見つめるティールブルー色の瞳に私は強く頷く。


「私の加護の力を与える」


「そう。割れないように強く願ってみて」


 レティーシャは目を閉じてティーカップに意識を集中させている。目を開けたレティーシャは緊張した面持ちで私を見た。


「加護を与えたわね? それじゃあ、落としてみよう!」


「え、ええ? でも」


 困惑の色を隠せないレティーシャを無視して私はティーカップを奪い取ると手を離した。


 落下したティーカップは割れることなく、優しい光に包まれるように護られていた。これが本来のレティーシャの力だ。


「ね? レティーシャの力はすごいでしょ!」


 未だに信じられないと目を丸くしているレティーシャに私は得意げに胸を張った。

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