第125話 レティーシャの価値
向かい合わせに座って魔石を見つめているレティーシャは落ち込んでいるように見える。
自分の魔力の効果を知らずに生きてきたのか、レティーシャは今初めて聞いて期待外れだったのかもしれない。
「レティーシャ?」
私の声にレティーシャは慌てて顔を上げて笑顔を作った。
「あ、なんでしょうか、カレナ様」
「もしかして〝加護〟って聞いてショックだった?」
図星だったようでレティーシャは肩を揺らした。曖昧に微笑んだレティーシャは困ったように眉を下げて魔石をテーブルに置いた。
「カレナ様に隠し事はできませんわね。ええ。正直に申し上げますと、私は自分の魔力の効果を聞いて期待外れだと思いましたわ」
「理由を聞いてもいい?」
レティーシャは静かに頷いた。
「私の家、マリー家いいえ。他の貴族もですわね。貴族は代々高い魔力を有することで自分たちの価値を示していました」
貴族たちの階級は魔力の強さに応じるのだという。高い魔力を持っていればそれだけ領民を護ることができるとされているからだ。
魔石獣との戦いや領土争いにおいて昔から魔力が高い者たちが上に立ってきた。彼らが弱い領民を護る対価として領民たちは貴族へ税を納めている。
それでこの国は成り立っていた。つまり、伯爵の爵位を得ているマリー家は高い魔力を有しているということだ。
レティーシャも当然そうなのだろう。けれど、レティーシャの表情は暗いままだ。
「私は伯爵家の娘として高い魔力または珍しい価値のある魔力を有していなければなりませんの。それが伯爵家に生まれた私の価値」
「そんなこと!」
否定しようとした私を片手で制しながらレティーシャは首を左右に振る。
「私は生まれつき高い魔力を有しておりませんでした。両親は口には出しませんが、期待外れだと思っていることは感じ取れてしまうのです」
微笑んだレティーシャは悲しそうで私は何を言えばいいのか分からず、膝の上でスカートをきつく握りしめた。レティーシャは紅茶を一口飲んで口を開いた。
「魔力の低い令嬢の役割をご存知ですか?」
「知らないわ」
首を左右に振る私にレティーシャは眉を八の字にして小さく笑った。
「高い魔力を持つ貴族の男性の元へ嫁ぐか、婿養子を取るのです。それで家名を存続させてきました。私の役割も同じなのです」
「同じ」
「ええ。アラン様は高い魔力をお持ちでしたので、私はウォード家へ嫁ぐようにと身内から言われておりました。当然、私もそうするのだと信じておりましたわ」
たぶん他の貴族の令嬢たちも同じような理由でアランとの婚約を狙っていたのだろう。
魂胆が透けて見えていたからアランは嫌気がさして冷たい態度を取っていたのかもしれない。
そりゃあ、自分に近づく人たちが自身ではなく、魔力や家名のためだともなれば嫌になる。私だって嫌悪感を抱く。
「アラン様はどんなに令嬢たちが言い寄ってもお断りされておりました。きっと高い魔力を持つ方をお望みなのだと皆がおっしゃっている中であなたが選ばれたのだと聞きました」
「わ、私?」
レティーシャが小さく笑って頷いた。
アランに婚約者ができたと聞いて令嬢たちの間で瞬く間に噂が広まった。
どんな魔力をもったウェネーフィカなのだろう、家名は? どこの令嬢だと騒がれる中で知らされた事実はアンスロポスの庶民の私だった。
令嬢たちは耳を疑ったのだと言う。
「カレナ様がアンスロポスで貴族の御令嬢ではないというのはすぐに知れ渡りました。同時に私は魔力を持たないアンスロポスのあなたが選ばれるのなら、低い魔力の私にだって選ばれる権利があるはずだと思い込んでしまいました」




