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第121話 バラのアーチをくぐった先

 王宮内に入ったところで、広場前を通り過ぎなければ遠くに見えているバラ園には辿り着かない。


「ちょ、ちょっとカレナ! 待って。あんたバラ園への行き方知ってるの?」


 追いかけてくるサリーに私は足を止めた。


「知らない」


「でしょうね。ここからバラ園は見えているけど、行き方は複雑なのよ。案内するから大人しくついて来なさい!」


 息をついたサリーが今度は私の前を歩く。私はサリーの後ろを大人しくついて行く。王宮内の廊下を進んで、一度外に出た。


 そこには渡り廊下が続いていて、右からアランたちの声が聞こえる。左側を見れば中庭になっていて、色とりどりの花や木々が植えられていた。


 庭師たちが数人手入れをしているのを横目で見ながら私はサリーを追う。


 ふいに私は足を止めてアランたちの方を見た。穏やかな風が吹いて私のスカートを揺らす。セミロングの髪が頬にかかって、私は髪を耳にかけた。


 風の吹いた方へ視線を向けた先、アランがこちらを見ていた。


「あ」


 ヘーゼル色の瞳が私をしっかりと捉える。その目に私の鼓動が微かに跳ねた。風が葉を擦る音に混じって自分の鼓動の音がうるさい。


 なにか言った方がいいのか、でもアランは今訓練中で部下たちが剣を振るっている。


 動きを止めているアランに気付いた部下の一人が声をかけている。なんでもない、と言うようにアランが首を左右に振った。


 私はこれ以上アランの邪魔をしないように渡り廊下の先で私を待っているサリーの方へ向かおうとした。


「っ!」


 その瞬間、アランが首から下げていた魔石を掴んで私の方へ見せてきた。あれは騎士団本部で私がアランにあげた魔石のペンダント。まだ持っていてくれたのか。


 魔石が太陽の光を浴びて光っている。私はどう反応していいか分からなくなってお辞儀だけして渡り廊下を全力で走り抜けた。


「アラン様、気付いていたわね」


 両ひざに手を付いて息をしている私にサリーがポツリとこぼす。全部見てたものね、サリー。


「そ、そうね。うん」


「あんたもまんざらでもないって感じだけど」


「……」


 図星を指された私は返す言葉が見つからず無言でサリーを見た。


「まあ、あんたがアラン様に少しずつ気持ちが寄ってるいい証拠じゃない。ただの魔石バカじゃないってことでいいでしょ」


「ねえ、けなしてる?」


 ジト目の私にサリーは「さあね」と片目をつむって先に進んだ。



 渡り廊下からさらに奥へ進むと、バラの香りが風に乗って運ばれてくる。


「もう少しね。結構距離あるでしょ」


「というか、さすが王宮内。バラ園に行くだけでもこんなに歩くんだ」


 テリブの森にフィールドワークへ行くから体力に自信はあるけど、王宮内を歩いて感じるのはやはり王宮は広大な敷地を所有しているということ。


 意外と貴族はこういうところで鍛えられているのだろうか?


「この先よ。私はここから先は入れないからあんた一人で行ってきて。私は中庭で待っているから」


 サリーがバラの咲いたアーチの前で止まった。アーチをくぐれば、バラ園に繋がっている。私はサリーと別れてアーチをくぐった。


 バラの咲き誇る庭を抜けた先、きれいな水色のウェーブがかった髪が見えた。レティーシャ・マリーだ。


 隣にはエリナーたちのような落ち着いた雰囲気のメイドが控えている。


 一歩進んだところで私に気付いたメイドがレティーシャに耳打ちする。すぐにレティーシャの愛らしい声がした。


「ようこそお越しくださいました。カレナ様」


 ソーサーにカップを戻したレティーシャがゆっくりと立ち上がる。


 レティーシャは刺繍の施された白を基調とアフタヌーンドレスの端を両手で掴み、優雅に一礼して柔らかく微笑んだ。


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