表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/184

第104話 成功と不格好な装置

 魔力をため込んでいる魔石と蚕の糸を繋いだ私は糸の端を持って葉を生成する魔石に触れた。


 意識を集中させて術式に触れる。魔力を吸収する先の術式を人から蚕の糸へ組み替えて糸を繋いだ。


「さてと。これでいいはず」


 魔力をため込んでいる魔石から蚕の糸を通じて葉を生成する魔石が魔力を吸収してくれればいいんだけど。


「……何も起きないね?」


「あんた失敗したのかい?」


 様子を見ていたけれど、反応がない。アリスと嫌味ばばあの言葉が私に突き刺さる。返す言葉がない。冷や汗が流れた。


「ちょっと! 魔力を吸収してってば!」


 魔力をため込んでいる魔石を軽く叩きながら訴えた私はふと気づく。ん? 今ってこの魔石空じゃない。


 そういえばさっき試しに葉を生成する時に魔石から魔力を使ったばかりだった。


「魔力不足だからよ。……たぶん!」


 疑いの眼差しを向けてくる嫌味ばばあから逃れるように私は視線をそらした。そんな目で見るな! 


 魔石に魔力を貯めないと成功したかどうかなんてわからないじゃない。


「わ、私が魔力を注ごうか?」


 アリスが手を挙げかけた瞬間、小屋の扉が開いた。私、嫌味ばばあ、アリス、医者の全員が扉の方を向く。


 そこにいたのはマルクと同じで灰色の瞳に茶色の短髪の長身の男性でマルクの父親、ロイだった。


「おまえたち何をしに来たんだい?」


「ご、ごめんなさい。カレナがここにいるってきいて。おとうさんの目がさめたから、おれいを言いたくて」


 雰囲気から勝手に扉を開けてしまったことが悪いことだと気付いたマルクは眉を下げてうつむいた。ロイがマルクの小さな頭に手を乗せて優し撫でる。


「村長、申し訳ありません。この子よほど私が目覚めたことが嬉しかったようでカレナさんにお礼を言うんだって聞かなくて」


 申し訳なさそうに言ったロイは深く頭を下げた。


「そうかい。マルク、顔を上げな。ロイが目覚めてよかったね」


「っ、うん! カレナ、ありがとう!」


 優しい声音の嫌味ばばあにマルクは顔を上げて満面の笑みを見せて力いっぱい頷いた。


「ところで皆さんは何を?」


「あ、えーと。魔力を貯めている魔石が魔力不足ですこーし困っていたというか、なんというか」


 視線をそらして人差し指で頬を掻く私に嫌味ばばあが何か言いたげに半目でこちらを見る。


「だって仕方ないじゃない。私はウェネーフィカじゃないから魔力なんてないし!」


「いつものように魔力をその石に与えればいいんですか?」


 会話を聞いていたロイが首を傾ける。


「あ、ああ。今魔力不足らしくてね」


「なんだ。そんなことなら私が魔力を注ぎますよ。幸いみんなのように利便性のある魔力ではないので余っているので」


 眉を下げたロイがそう言いながら魔石に手を触れた。すぐに魔力が魔石に流れていく。


 ロイの魔力って確か、揺らめく炎の傍で温められるような優しい魔力だったよね。なるほど、魔力も本人に似るのかな。


「カレナ、見て、見て!」


 興奮気味のアリスが私の袖を引いて魔石を指した。私も視線を魔石に向けると、吸収した魔石から蚕の糸を通じて葉を生成する魔石に吸収されていく。


 瞬く間に葉が生成されて反応した蚕たちが上体をそらして食べようとする。これは成功? 成功だ!


「やったー! ほら見ておばあちゃん! 成功したわよ!」


 両腕を組んで得意顔を見せる私に嫌味ばばあは無言で魔石と葉を見ている。


「おばあちゃん?」


 私の声に嫌味ばばあは意識をこちらに向けた。


「なんだい。何度も呼ばなくても聞こえているよ」


「どうしたの? ボーっとして」


「いいや。本当にこの手から離れるとは思っていなかったからね」


 魔石を埋め込んでいた腕を擦りながら言う嫌味ばばあの表情は穏やかだ。


「魔力は引き続き村の人たちから分けてもらう必要はあるけど、これで負担はなくなるでしょ」


「そうだね。ただ」


 嫌味ばばあが言葉を切って私の作った装置を見た。すごく複雑そうな顔をしている。なにか問題でもあった? 不具合とか? 


 嫌味ばばあの言葉を待つ私は喉を鳴らした。


「なんというか、あんた。不器用なんだね」


「は、はぁ!? それどういうこと!?」


 隣でアリスが吹き出す声がした。勢いよくアリスを見ると、アリスは顔をそらして口元を手で隠している。


 細い肩が小刻みに震えていて笑いを堪えているように見える。


「馬鹿にしているんじゃないよ。なんというか、こう見栄えの問題かねぇ。すごく、不格好な装置だと思ってね」


「そ、そんなこと」


 あったわ。よく見たら、蚕たちのいる透明なケースの中に銀の浅い皿、皿の上に乗せられている水と花の魔鉱物と糸で繋いだ魔石。


 うん、どう見ても不格好!


「だ、だって仕方ないじゃない。魔道具の材料持ってきてないし、それに道具の作成は専門外なのよ! そういうのはグリアの専門であって」


「グリアって誰?」


 アリスが首を傾ける。そういえば城下町の雑貨屋で働いている友人のことを話したことなかったな。


 アランにもさらっと言ったくらいだし。というか、アリスもアランも同じ反応するのね。なんで?


「グリアは私の友人で今は城下町の雑貨屋で働いているんだけど、あ。今度城下町に行くからグリアにこの装置の見栄えよくしてもらえるように伝えておくから! それでいい?」


 必死に訴える私に嫌味ばばあは声を殺して笑い始めた。それをみたロイが目を丸くする。まるで珍しいものを見たみたいな反応だな。


「まあ、いいさ。以前と変わらず繭が作れるんだからね」


 嫌味ばばあは蚕たちが新たに作った繭を手にして目元を緩めた。


「ああ。温かくていい繭だね」


「そっか。なら、良かった!」


 満足気味に笑う私にアリスもつられて笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ