5話
夕方、腹が減ってくるころだが、勝手にキッチンを使わせてもらうわけにもいかないので、外食をしようかと思い、彼女に尋ねる。
「なぁ、なんか食べたいものでもあるか?」
何気なく尋ねたつもりだったのだが、スマホで配信サイトを見ていた彼女は、すぐにスマホを投げ出すと、目を輝かせてこっちへ寄ってきた。
おい、それ俺のスマホだぞ。
「ぴざ!ぴざってやつが食べてみたい!先輩から聞いたんだ、すごくおいしいんだろ?」
そんなに目を輝かせるほどのものか?
彼女の気迫に押されながらも、ピザなら出前かな、などと思いつつ、投げられたスマホ(幸い無事なようだ)をとり、某チェーン店のサイトを立ち上げ、ピザ一覧を見せる。
「ほら、どれがいい?」
「わぁ、いっぱいあるんだね。どれもおいしそう。」
目の輝きがより一層増した気がする。
そこで、ふと疑問が浮かんだ。
「お前って、死神なんだよな?食べ物とか必要なのか?」
「うん?別に食べても栄養とか取れないし、意味ないけどせっかくこっちの世界に来たんだ。何かおいしいものが食べたい。」
意味がないのなら1500円前後の痛手の出費はしたくないのだが、まぁ嬉しそうだしいいか。
「ねぇ、おすすめなやつとかあるの?」
「ん、そうだなぁ。ベーシックなやつで言えばこのマルゲリータってやつだが、このパイナップルのやつもおすすめだな。」
俺は断然パイナップル肯定派である。パイナップル万歳!パイナップル万歳!
「じゃあそれがいい!」
「でもこれ、意外と好みが分かれるぞ?」
「いいの。君がそれをおいしいって思うならきっとおいしいし。」
そう、笑顔で言う彼女を見て、
「かわいいやっちゃめ。よし、ついでにコーラも買ってやるよ。」
そう言いながら、髪をわしゃわしゃした。
「わ、わしゃわしゃしないでよ、髪がぼさぼさになるじゃん」
そういうので、仕方なく手を止める。
しかし、妹とかがいたらこんな感じなのだろうかと、思いをはせた。
結局パイナップルが乗ってるものを頼んでからしばらくたったので、ピザを受け取りに行こうと、スマホと財布を取り、彼女に声をかける。
「ピザ受け取りに行ってくるから、おとなしくしとけよ。」
「え、ちょっと待って。僕も一緒に行く。」
彼女はそう言いながら、いそいそとローブを取りに行く。
「いいって、一人でじゅうぶんだから。」
俺がそう止めると彼女は、
「言っただろ?僕には君を一か月守る義務があるって。」
そう言われ、昼のことを思い出し、少し身震いがする。
「わかったよ。その代わり、それだけは置いて行け。通報されたらたまったもんじゃない。」
俺は、彼女がいつの間にか持っていた鎌を指さし、そう言った。
「え、これはぼくの戦闘具だよ?手放すわけないじゃん。」
なんだよその、俺がおかしいみたいな反応。何と戦う気だよ。
「ダメだ、それを置いていくか、ここに残るかだ。」
「わかったよぅ。これは置いていくよ。」
しょぼんとしてしまった。罪悪感がすごい。