3話
そう続けながら玄関のほうを向くと、ドアの下部がえぐれ、フロントライトのようなものが露出していた。
急いで玄関へと向かい、ゆがんだドアを力づくでこじ開ける。
外へ出ると小型車がアパートへと突っ込んでいた。
運転席を見ると、エアバッグにスーツを着た男性が突っ伏している。
スマホから救急と警察に連絡を入れると、目についたレンガをとり車の窓にたたきつけた。
なかなか割れず窓を何度もたたいていると、
「ね、言ったでしょ?」
と、少女が言った。
「ああ、そうだな……」
彼女の言ったことが、少し違えど現実となり、冷や汗がたれる。
先ほどの破裂音(正確には衝突音だが)を聞きつけてか、同じアパートの人が出てきたので協力して何とか窓を割り、中の人を外に引っ張り出した。
しばらくして救急と警察が来ると、運転手は運ばれ、俺は軽く事情聴取された。
すべてのことが終わったのは日が暮れてからだった。救急隊員から聞いた話では、どうやら運転手は酔って寝ていただけで命に別条はないらしい。
安心した俺は、体を伸ばしながら自分の部屋へと向かう。
「あ、」
そしてドアの前で立ち止まる、いや正確にはドアだったものか。下部がえぐれ、おそらく空の郵便受けはベキベッキにへこんでいる。
上のほうはおおかた無事だが、こじ開けた時に蝶番が曲がってしまったようだ。
「……どうしよ。」
衝撃とか困惑とかで放心し立ち尽くしてしまう。
「ふふ、大変なことになっちゃったねぇ。」
「あ、叔母さん。」
そんな折に声をかけてくれたのは母親の姉、いわゆる叔母にあたる人で、このアパートの大家さんであった。
一人暮らしをすることになった俺に、ただでこの部屋を貸してくれている。
「いつもお世話になっています。」
「もう、そんな堅苦しい挨拶はいらないわ。それで、ドアがこうなっちゃったけどどこかあてはあるの?」
「特には……」
苦笑いをしながら、そう答える。
すると、叔母さんは思いついたように手を叩いて、
「なら、ちょうどいいわ。これからお父さんと旅行だからあたしたちの部屋を使いなさい。」
そう提案した。確かに下を見るとキャリーケースを持っている。
「え、いいんですか?」
「いいのよ、防犯も兼ねてだし。じゃ、そろそろ時間だから、これ鍵ね。」
俺の手を取りカギを握らせると、振り返り行ってしまう。
「ありがとうございまーす。」
アパートわきの道路まで行き、俺がそう大声で言うと手を振ってくれた。
やっぱり叔母さんは優しい。