キエール到着
「ソア様。見えてきましたよ」
始まってしまった旅。最初の目的地がもう目前まで迫っていた。
「あれがキエールか、すごいな」
少しの傾斜を超えた先、窓から顔を覗かせるとそれはあった。円形の外壁に収まるように建つ町、中心部にそびえ立つ塔。それだけなら平地も相まってフロント王国と大差ないのだが。決定的な違いがあるとするのなら、その国に隣接している巨大な峡谷。訂正も交じえて表現するなら、円形の外壁を少し浸食するかの如く、国の一部を峡谷が占有している。それとここからだと断定はできないが峡谷と国が一つの巨大な階段でつながっているようにも見える。
「それにしても道中、魔物と一切会いませんでしたね。」
「そのおかげか一日早く着いたしな。」
「これも、ソア様が何かしら手を回していてくれたの?」
あまりにも事が起きず退屈だった道中。やっとみられた目新しい景色を楽しむ間もなく、質問が投げかけられる。
まあ、彼らはもう何度も見ているのだろうし、仕方ないのだろう。
「いや、手を打った覚えはない……はずだ。」
「断言はできないんだな。」
「ああ。すまない」
まったく、自分の計画だというのに不甲斐ない。
「推測で申し訳ないのですが、魔物の活性化もソア様が立てた策のうちですよね」
「そうだ。作戦開始の予兆の一つとして仕掛けていたものだ。」
「だけど、僕達にはその情報が伝わっていない。」
「立て続けにすまない。」
「いや、これは伝達し忘れた父さん達の責任だ。ソアさんのせいじゃないよ」
「それがそうともいえない。当時は時間が差し迫っていたとはいえ、作戦開始の明確な合図送ると言ったものの具体的な内容は伝えられなかったんだ。だから君たちの父親も曖昧な情報しかもっていなかったんだろう。」
規模が規模な分、不足している部分はあると思っていたが……ここまでとは。不甲斐なさより気まずさが勝ってきた。
「それと予兆自体、俺が起こしたものではない。前にも言った通り、魔法が使えないからな。あくまでこれは他人の手によるものだ。」
「もしかして、その身体を作った人ですか?」
「ああ、そうだ。当時、君たちの先祖は魔法については無縁だったからな。頼る先はもう決まっていたようなものだ。」
「あまり詮索するのはよろしくないとわかってはいるのですが、ソア様の協力者って一体どんな方なんです?」
「ただの変人だ。それ以上でもそれ以下でもない」
というか、意外と短い付き合いだった分、彼についてはほとんど知らないだけなのだが。
「まあ、その話は一旦終わろう。僕達が知るべき情報はまだ残っているだろうけど、それは追々聞くとして。今は目の前の出来事に集中しようじゃないか」
「それもそうですね。」
「すまんな、手間をかけさせる。……にしても、あれはなんなんだ」
再び窓から顔を覗かせてキエールの方角を見る。
遠くから見ただけの感想だが、なぜそこに国を建てたのか、その意味が分らない。地震や地割れが起こったら国ごと崩壊してしまうであろう場所だ。そんな危険を冒してでも建てる理由があったということなのだろうか。
「見た感じ、町までかなり距離がありそうだが、もうしばらくかかる感じか?」
「いいえ。あの峡谷付近に昇降機があるんですよ。丁度、峡谷の手前側に小屋みたいなのが見えませんか?」
「あれか」
確かに、峡谷の近くにポツンと建っている小屋がある。
「昇降機があるってことは、峡谷の中に何かあるってことか?」
「それは見てからのお楽しみです。」
「じゃ楽しみに待つよ。それより馬車はどうするんだ?」
「そのことならご心配なく。私はあなた様方御一行を小屋まで届けましたら、先にキエールの町まで行っておりますので。」
後ろを向くと、馬車に備え付けられている小窓を片手で開けこちらを向いているアベルさんがいた。
「じゃあ、そこは気にしなくていいってことだな。」
「ええ」
それでは、という感じで小窓をパタンと閉じていった。
「あ、そういえば調査の形式だけ先に伝えておこう。とは言っても、基本的に自由なんだけどな。」
「じゃあ、普通に町を堪能してもいいってことか?」
「そう。むしろそっちの方が情報がでてくるだろうし。いつか作戦が疑われるような日が来るまではこれでいこう。」
「わかりました。ですが、ある程度集める情報は絞っておきたいので、その……目安というかなんというか、を貰えないでしょうか?」
目安か、昔はどんな情報を探っていたんだったか。
過去の記憶を頼りにいくつか思い出す。国を動かす人物たち兵力などの他に、生活で足りてないもの最近必要になってきたもの。国の成り立ち、仕組み。よくない噂。思い出せるのはこの辺だろうか。
「そうだな……。まずは国を動かす人物達。これ知らなければそもそも動けないしな。次に成り立ちかな。それが分ればこんな変なところに国を建てた理由が出てくるだろう。」
「なるほどな、とりあえずはその二つか?」
「いや、この二つは後回し。というか多分この二つは調べられる手段が多い。」
前世は最初こういうのばっかり調べていたが、そもそも最初に情報を得る時は人と話す機会が多い分、そんな情報を得たとしても何度も新聞や本で見る羽目になるだけだ。
「確かにその可能性が高いですね。……では、何を調べれば?」
「国で一番多い職業とか、祭りとかそこら辺かな。次に最近必要になってきたもの、足りてないものでもいいかな。最後に噂、ここら辺が欲しい情報かな」
「一応、理由をお聞きしても?」
「職業とか祭りとかは国特有のなことが多いから、盛んなものが分ったりする。必要な物足りてないものとかは、遠回しに国が抱えている問題が分る。噂は……いうまでもないか。こんなところ」
「わかりました。ではそうしますね。」
そんな会話をし終わるくらいで、ちょうど馬車が小屋の近くまできたようだ。
峡谷が巨大だったためか小さく見えていたが、小屋にしては大きい。構造からみて、増築したように見える。
小屋の前で馬車が完全に停止する。運転席から降り、馬車のドアを開けるアベルさんに、「ありがとう」と一言告げ降りる。
「ではまた、キエールの宿で会いましょう。もちろん、ゆっくり来てもらっても構いません。」
「ん。まあ、そうだなゆっくり行くよ。じゃあまた。」
アベルさんは馬車の運転席に戻り、再び馬車を走らせる。
去り際、手を振ったが流石に見えなかっただろうか。
「よし、入るか。昇降機はこの中? なんだよな」
「ええ。そうですよ」
小屋の中に入る。左右は広い空間が設けられているが、特にこれといったものがなく、奥に扉があるだけで質素であった。
「人はいないのか? 一応確認してみるか」
「おーい、誰かいませんか」と、小屋の中で言ってみるが反応は特にない。
「いなさそうだな、前来たときはいた気がしたが。けど昇降機自体は使えるはずだ」
「そうか。で、肝心の昇降機はどこだ?」
「奥の扉の中にある。」
その扉に近づき開けると、部屋の真ん中に、木で作られた天井と底、四隅の支柱とで作られたそれらしきものがある。
「これか?」
「これですね。」
「ふむ。ま、ここにとどまる理由もないし乗ってしまおうか。」
とりあえず乗ってみたが、ここからどうやって動くのか。
「ソア様、そちら側の壁にあるスイッチを押してもらえますか?」
左を向くと確かに壁に突起がある。「これか?」と、思い押してみる。ゴゴゴッ、と音が鳴り、ゆっくりと昇降機が作動し少しづつ下がっていく。
三十秒そこらだろうか。先ほどまで、壁に囲まれランプ一つ分の明かりしかなかったところから、徐々に足元付近から光が入ってくる。岩壁から網状の鉄柵へと移り変わる。同時に峡谷の中、その全貌が見える。
峡谷の底には、街があった。数百、いや数千の人々がその街を歩いている。そしてその雰囲気は、商店街のようだ。見たこともない機器がいくつも街に置かれている。
昔、旅をしてきた国のどこにも属さない異様な風景が広がっていた。
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