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6/7

最初の終わり

 旅の開始から一日目の夕方。

 木と大岩がある地点で馬車を止める。


「よし今日はここらへんで休むとしよう。」


 大岩で風は防げそうだし、木も邪魔にならない位で、ある程度広さがある。悪くない場所だろう。


「……ああ、そうだ今更聞くのもおかしいが二人とも野宿は大丈夫なのか?」

「ええ。昔、お父様に訓練との名目で何度かさせられたことがありますから。まあ、昔といってもほんの数年前ですけど。」

「僕も同じだ。」


 流石に旅の基本だしそれくらいは教えてあるか。


「それよりアベルさんはどうするんだ?」

「彼には馬車の中で寝泊まりしてもらおうと思っているんだが。」

 

 丁度、運転席から降りてきたアベルに視線をむける。


「私はソア様のお望み通りにいたします。それとしばらく馬の世話をするので、何かあったらお声がけしてください」

「じゃあ決まりだ。アベルさんは馬車の中で、俺たちは野宿しよう。」

「では一応、結界を張っておきますね。」


 フランシェは祈るように手を合わせると、ここら一帯を囲うように帳のようなものが下ろされた。


「多分、これで魔物が寄ってくる心配はないと思います。まあ道中、見かけるくらいで出会いはしませんでしたが。」

「あるに越したことはない。それはそうと食料は荷台に積んであるのか?」

「はい、その辺に関しては問題ないです。」

「僕が取ってこよう」


マーティはそういうと馬車の裏手側に歩いて行った。


「ああ、それと寝る場所に関しては今作りますね。」


 フランシェは片方の手を前へ伸ばす。途端、周りの草木が揺れ、急激に成長する。伸びた草木は机とテントをなぜか四つ程作り出した。


「すごいけど、なんで四つ?」

「すみません。やっぱり加減が苦手みたいで。」

「加減の影響ってそこに出るのか……。」


 彼女は苦笑いしながらテントの一つを解体した。

 わざわざ作ったのだから解体しなくても良いのでは。とも思ったが、指摘するほどの事でもないしな。


「そういえば一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「別にいいけど。」

「ソア様って食事は出来るのでしょうか?」

「あーー、なるほど。」


 確かに、この身体ではその疑問を持たれるのは当然か。


「食事は出来る。だが食べても意味があるような気はしなかったかな。」

「エネルギーに変換されたりはしないんですね。」

「たぶんな、あと寝ることもできないしエネルギーが必要。ってな感じはない。」


 あまりにも不可思議な身体。人間に必要な食事、睡眠が必要ない。その分、便利ではあるが一体なにを代償にして動いているのか。


「睡眠もできないのですね。」

「ああ、眠れないのは辛いが、一睡も許されない場面だって出てきてもおかしくないからな、そういう意味では適した身体だよ」

「では夜の間、何をされて過ごすのですか?」


 特に考えていなかったな。転生した瞬間はやる事が多かったから気にしていなかった。


「まあ、ぼーっとしてれば過ぎていくよ。」

「何かしてあげられればよいのですが……」


 良い子だ、この作戦で支障をきたさないか心配するくらいに。この子の弟妹ですら、最初会ったときに隣の死体を気にもしなかったのに。いやまあ、そっちの方がおかしいか。


「フランシェ、それとマーティ、君たち二人が来てくれたおかげで作戦の要は君たちになった。俺は二人が一番無防備な時間を守れるんだ、それだけで十分だよ。」

「ソア様がそれでよろしいのならよいのですが……」


 フランシェがそう言い終わると、マーティがいくつかの不思議な柄をした布の包をいくつか持って戻ってきた。


「さっきの話、少し聞こえていたんだが。食事は出来るって言ってたけど、味はするのか?」

「あーーどうなんだろう。補給が必要か確かめるために適当に食べたけど、味はしたか覚えてないな。」

「えぇ。……まあいいか、食料はかなりあるし作ってしまおう。」


 マーティは持っている布の包をフランシェが魔法で作った机に上に置く。広げると中には人参や玉ねぎジャガイモなどの他に肉やパンなど美味しそうだが保存方法的に日持ちしなさそうなものが多い。


「料理はあまり詳しくない俺でも、この保存方法じゃ数日も持たなそうとわかるんだが。」

「それについては大丈夫だ。この食材を包んでる布があるだろ。この布、包んだ食材を腐らないよう保存できるんだよ。いわゆるマジックアイテムってやつ。まあ限度はあるからずっと、ってわけにはいかないけどな」


なるほどそんなのがこの百年の間に作られたのか。


「けど、この布作るのが難しいのか値段がな、この布一枚で贅沢しなければ二年くらいは普通に暮らしていけるくらいだった気がするよ。だから一般的に流通はしてないし数もそんなない。」

「……え?」


 この瞬間、俺の心は「気安く触らなくて良かった」なんて思ってしまった。まあ触ったところで価値が下がる代物でもないと思うが。


「そういえばこの布を作ったのはキエールだったはずだ。」


なるほど。てことはキエールはものづくりが盛んだったりするのだろうか。


「……それにしても美味しそうな食材だな。」

「ずっと良い食材を確保し続けるのは難しいと思うので、今だけでもってことじゃないですか?」


 なるほどね、粋な計らいってことか。ぜひこの身体に味覚があってほしいと祈るばかりだ。


「じゃあ、早速とりかかろう。」

「えっ。マーティ料理できるのか?」

「得意というほどではないが。むしろソアさんは……そういえばさっき料理に詳しくないって言ってたな。昔はどうしていたんだ」

「空腹を満たすことしか考えてなかったから、とりあえず焼いて全部食べてた。」

「……勇者って身体能力だけじゃなくて胃も強いんだな。」

「いや……料理に詳しくないとは言ったが、食べたらまずいものが分らんわけではないからな。」


 彼は疑いの目を向けてくるが、断固拒否ように見つめ返す。

 隣から呆れたようなため息が聞こえた。


「マーティさん、ソア様。そんなことしていると日が暮れてしまいますよ。早く料理を始めましょ」

「確かにこんなことしている場合じゃなかったな。さて仕切り直して……あ、そういえば鍋を取ってくるのを忘れたな。ソアさん代わりに取って来てくれないか」


 あごで使われる勇者。まあこれくらいしか手伝えないし、良いんだけど。

 馬車の裏手に周り、荷台から吊り鍋とそれを引っかけれそうな棒を取り出す。鍋を持って彼らの場所へ戻ると、フランシェが紙に魔法陣を描いていた。


「何してるんだ?」

「火を起こそうとしているんだが、流石にフランシェの魔法そのままで火をつけたら周りがとんでもないことになるからな。」


 なるほど、と感心しつつマーティに持ってきたものを渡す。「ありがとう」そう彼は告げると棒を地面に刺し、鍋を引っかける。下に薪を置いたのと同時に「できました」と聞こえる。フランシェの準備も整ったようだ。


「マーティさん。もうちょっと離れておいてください。」

「流石に大丈夫じゃないか?」


 マーティはそう言いつつも、少し下がる。フランシェは二枚持っている紙の内、一つを薪の近くに置きもう一枚を鍋の中に入れた。彼女は一歩後ろに離れ、テントを作った時の要領で魔法陣を起動すると薪に火が付き、鍋の中には水が溜まった。そして先ほどまであった魔法陣の書かれた紙は跡形もなく消え去っていた。


「やっぱ魔法っていいな。使ってみたいよ」

「便利なのには違いはありませんが、意外と融通が利かないこともあって大変ですよ。」


 それは承知の上だが、やはり憧れるものがある。


「よし、じゃあ作っていこう。フランシェは食材を切っていってくれ。ソアさんは……そこでゆっくりしていてくれ」


 言われるがまま、地面に座り彼らの調理を眺める。

 フランシェは魔法で食材を洗い、浮かせてカットする。それをマーティが香辛料と鍋に入れ煮込む。

魔法の加減が苦手という割にはきれいに食材を切っていっている。


「複数個だとやりやすいですね。一つだったら多分周りも切り刻んでしまうので」


 彼女の突拍子もない発言に驚かされない日は来るのだろうか。

 あまりにも順調進む調理。眺めてから十分過ぎたくらいだろうか。良い匂いが漂ってくる。


「よし。そろそろだな」


 どうやらできたようだ。マーティは器に出来上がった料理を移していく。


「ポトフを作ってみたんだが、味は僕好みではあるがクセは無いと思う。」


 渡された器を手に取り、一口食べてみる。


「うまい」


味覚がある事より先に、料理の美味しさについ声が出てしまった。


「ちゃんと味覚はあるようだな。」


味覚、それとさっき気づいたが嗅覚もある。五感はすべて機能しているようだ。本当にこの身体、自動人形なのか?。


「味も大丈夫そうだし、僕はアベルさんに渡してくるよ。」

「ここで食べてもらわないのか?」

「それが、馬車の裏手に周ったとき。馬から出来るだけ離れたくないから持ってきてほしいと頼まれたんだ。」

「そうか。ま、本人の希望じゃ仕方ないな。」


アベルさんに聞いてみたい事がいくつかあったんだが、またの機会にしよう。

 マーティは器を手に持ってアベルさんの方へ歩いて行った。


「にしても本当に美味しいな。」

「ですね。」


 短い会話、それでも楽しいこの空間。ふと、ここで旅の目的がただの冒険であればどれほどよかったのだろう、と思ってしまう。どれだけ気持ちを固めようとも、こういった考はよぎってしまう。だがこんな気持ちが続くのは今だけなのかもしれない。


「ソア様? どうかされました?」

「いいや、何ともないよ。ただ、旅の目的がこんなんじゃなかったらなって。」

「……それは……なんていうか……。」

「ごめん。困らすつもりはなかったんだ。今のは聞き流してくれ。」

「いえ、そうじゃなくて。今回の旅は無理かもしれませんが。いつか──いえ、計画が終わったらすぐにでも、また一緒に旅をしましょう。」


 まさかの提案に驚きを隠せない。自分には全くない発想。やはり彼女の突拍子もない発言に驚かされない日は来なさそうだ。


 食事が終わり、各自テントの近くでゆっくりとしている。


「よし。少し早いが、もう休んでくれ。明日は……変わらず移動だけだろうけど、体調は万全にしておいて損はない。」

「そうだな」

「そうですね。ではまた明日。」


 彼らはそう告げるとテントの中に入っていった。

 綺麗な夜空に照らされながら、長い長い旅、その一日目が終わった。


お読みいただいてありがとうございます。


できるだけがんばって続きを書いていきますので、ブクマやこの下の星でポイントをつけて応援していただけるととても嬉しいです。


よろしくお願いします!

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