確認
絶賛、目の前の奴等に身包みを剝がされている。ただ、理性が働いてくれたのか、はたまた求めていたものが見つかったのか上半身だけで済まされた。
「すごいな……こんな自動人形、初めて見た。」
「ええ、なんていうか異質なのにそういう物だ、って認めざる負えない不思議な感じ。」
確かに、フランシェがそう言うのも分かる気がする。自動人形の割には、動きに違和感がない分、人間らしさがある。だが、関節部分は機構がむき出しになっており、中を覗くと緻密に並べられた歯車が、稼働し続けていて自動人形なのだと分かる。この、全貌を明らかにしても違和感がある自動人形は確かに異質であった。
「一体、どうやって作ったのでしょうか?」
「作った本人は、名を明かしたくないらしい。あと防具返して」
彼女らに取られた防具を取り返しては嵌めていく。
「なんでまた」
「本人曰く、作ってみたはいい物の、自動人形の良さが出ていないから自分の作品にしたくないらしい。」
神妙な面持ちをした彼女らは、何か問いたそうな雰囲気を醸し出していたが、作者の意向を汲んだのか、問いは投げかけられてこなかった。
「さて、自己紹介も終えたしこれからは勇者様とか、勇者さん、とかはやめてくれ」
「じゃあ、ソア様?」
「うん……じゃあそれで」
彼女もかなり譲歩してくれたのだろう。だが、今日知り合ったとはいえ、この馬車の中、この距離感で旅をするのはいささか辛いものがある。いや、そんな事より今聞いておきたいことがあったんだった。
「キエールへの到着はどれくらいかかるんだ?」
「六日ぐらいじゃなかったか?」
「いえ、多分五日くらいで着くと思います」
「早いな」
オール王国との中間にあるとはいえ、十日以上はかかると思っていたが。
「ソアさんが勇者をやっていた頃よりは、魔物が少なくなったそうですから」
確かに、あの頃は行く先々に魔物がいた気がする。
「それに、魔王がいなくなってから魔物の知性が下がったとも言われてる。ここ数年は特に」
そう言うと、マーティが外を指さす。窓の外には、草原で野生の羊を追いかけ回す狼の姿をした魔物達。狩りをしているのだろうが、どう見ても追いかけっこにしか見えなかった。
「もちろん全部が全部そうなった訳じゃないけどな」
「ソア様が、最初に行く予定でしたオール王国の北の森では、かなり強い魔物が蔓延っているらしいですね」
まだ魔物も完全に落ちぶれてはいないらしい。
再び窓の外を見ると、さっきの魔物が羊を捕まえ……てはいなかった。何なら羊の見事な後ろ蹴りにより撃退されている。
「……。」
「どうしたのですか? 先ほどから真剣に窓の外を見てらっしゃいますが」
「いや、何でもない。話がズレてしまったな。えっとキエールまでは五日か」
「はい、大体それくらいかと」
五日、作戦立てはキエールに着いてからにしたいな……。
「確認だが、フランシェ、君の父親の計画書には国王謁見までの流れと各国に細かい手回しをしてると、記載されてあったが間違いはないんだな?」
名前を呼ばれた彼女は驚いたのか、少しビクッと身体を震わせた。が、すぐに落ち着いて話し出す。
「はい、……えっと主に東側の国をメシス家が、西側の国をオラクル家が擬装用の障害を用意しているそうです。」
これは多分、前世で時間をかけて各国を精査したいという意図を汲んでくれたものだろう。
「ただ、中には元から問題を抱えている国もあるようで、今向かっているキエールもどうやら」
「そうなのか。まあ、それはともかく、どの国も難癖付けて調査できそうってことでいいんだよな?」
「各国の王様や首脳によるとは思いますけど、概ねそれで大丈夫かと」
今、確認すべき事項はこれくらいだろうか……。
いや、そういえばまだあった。
「二人ってどんな魔法が使えるんだ?」
二人は見合い少し考えた後、フランシェの方が自分に指をさす。マーティは納得するように頷くと、二人は正面に向きなおした。
「じゃあ私から。自己紹介でも少し話ましたが魔法が得意で」
と、彼女は言葉を紡ぐのをやめ、窓に手を近づける。続けて、左手の人差し指と中指を並べると窓の外には氷柱が浮かぶ。
彼女が指で一突きすると、氷柱は風を切るように草原の上を飛んでいく。
遠くでうろついていた魔物の群れの一体を貫くと、地面に突き刺さる前に弾け、氷の破片が周りの魔物を一掃した。
「こんな感じに、あれくらいなら簡単に倒せるだけの出力はあるんですが……、加減が出来なくて」
「なるほど、じゃあその持ってる杖で制御するってことか」
「いえ、そうするともっと酷くなります」
「えっ?」
こちらの驚きなど気にせず、フランシェが腰に付けたポシェットから小さな紙を取り出す。
「だから普段は、これに魔法陣を書いて調整しないといけないんです。その代わりというわけではないのですが魔法の種類は自信があります。例えば……」
火、水、雷、岩、風などの他に霧を出す魔法や、雲を動かす魔法などがあるらしい。使い道があるかどうかは置いといて優秀な魔法使いであることは間違いなさそうだ。
「本当は、弟と妹が私をサポートしてくれる予定だったのですが……」
フランシェは少し悲しそうな、それでいて不安げな顔をしている。
そんな彼女になんて言葉をかければいいのか、ほとんど旅を一人でしていた自分には分からなかった。
「まあまあ。僕達も付いてるわけだし、そう気負わなくてもいいんじゃないか? 君の妹や弟程、何か出来るわけでもないけど頼れる部分があったら頼ってほしい」
「お気遣いありがとうございます。すいません変な雰囲気にさせてしまいましたね。」
気の利く言葉というものは意外と難しいものだな。こんな時に仲間のありがたさを感じるとは。
「さて、そろそろ僕の魔法の話をしてもいいかな?」
「ああ。問題ない」
「フランシェと同じで、自己紹介でも少し言ったが僕の得意手している魔法は偵察系だ。とは言っても、分からないだろうし見てもらうのが早いだろう。」
そういうと、マーティは馬車の窓を開け空を見る。視線の先には数羽の鳥が飛んでいた。
「接続」
マーティは右目を閉じそう呟く。直後、彼の瞼の上に魔法陣が浮かぶ。
「勇……ソアさん。目を閉じてくれ」
薄っすらとだが、何が起こるのかが察しがつく。
言われるがまま目を閉じ、気を引き締める。目を閉じて間もなく、眉間から瞼の上を通り、こめかみにかけて熱を帯びるのを感じる。不意に瞼越しに光が漏れる。
「ゆっくり目を開いてくれ」
ゆっくりと目を開く。なんてことが、この状況を初めて体験した人間に可能なのだろうか。なぜって、さっきまで青年と少女を映していたこの瞳は今や上空から大地を見下ろしているのだ。
「うおっ!」
柄にもない声を出してしまった自分が恥ずかしい。けれどこんな光景、ある程度予想できたとて驚かないのは無理があるだろう。
「すごいですよね、その魔法」
中空からフランシェの声がする。が、もちろんどこを見渡しても姿は捉えられない。今喋っても彼らに聞こえるのか、さっきの情けない声も、もしかしたら聞こえてないんじゃないか。なんて、そんなことを考える前に、口から出てしまった言葉があった。
「これどうなってんだ?」
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