仲間
城を出て西門へ向かう。
昔はこの国にいる多くの人間が見送ってくれていたが西門へ続く街を進むも誰かに声援を貰うことはなかった。
「あの人達か?」
遠目に西門付近で話し合っているローブを着た少女とメガネをかけた青年の二人組が見えた。
「あなたのお兄さんが来ると思ってたけど、あなたなのね。」
「僕もびっくりだよ、戦闘は得意じゃないんだけどな。」
「ほんとお父様達の考えは分からないよね。」
「まったくだ。」
彼らの目の前まで来る。
「わっ! ビックリした。もしかしてあなたが勇者様?」
「そうだけど、そこまで驚く事か?」
「いや、その何というか」
「聞いてたイメージとかなり違うな。」
一体どんなイメージを伝えられたんだ。
「まあいい。それより君たちが俺の旅に付き合ってくれる仲間、ってことで間違いないんだな。」
目の前の二人とも頷く。
「あっ、自己紹介が必要よね。私の名前はフランシェ・メシス。メシス家の長女よ。お父様とはもう会ったわよね。魔術に関しては私に任せて頂戴」
青い瞳に小紫の長い髪、童顔なのか、そもそも若いのか分からないが、可愛らしい顔をしていた。
「よろしく。魔術の事は多少知っているつもりだが、君には遠く及ばないだろう。頼りにしてるよ。」
少女は微笑むと、タイミングを見計らって隣のメガネの青年が話し始めた。
「僕の名前はマーティ・オラクル。オラクル家の次男だ。戦闘や魔術が得意なわけじゃないけど偵察なら任せてほしい。」
髪の半分を後方へなで上げ、もう半分は前に下ろしてある。メガネを着けているのもあるが容姿から知性を感じさせられるようだった。
「俺は未来を見る力があるが、とても曖昧な分、多くの情報を必要とするだろう。頼りにしてるよ。」
周りを見渡し、彼らしかいないことを確認する。
前世ではこの作戦を実行するために、メシス、オラクル、フロート、フレイクの四家ほど集め協力を仰いだが。
「ここまでついてきてくれたのは、この二家という事か。」
「……勇者様が思っていたより人が少ないですよね。フロート家とフレイク家の人間は、他の国で起きた戦争に巻き込まれる形で、亡くなってしまわれたんです。ですが彼らも勇者様の力になろうとしていたんですよ」
「いいや、少なくなんかない。本来は俺一人になってもおかしくなかったんだ、君たちがいるだけで十分だよ。死んでしまったフロート家とフレイク家の人間には哀悼の意を込めよう。」
本当に仲間がいるだけで感謝してもしきれない位の事なのだ。
「今から始まるのは、普通の旅にはならない。人々の嘆きや悲しみを多く見ることになると思う。本来なら一人で背負わなきゃいけないものを、君たちにも背負わせることになる。君たちに多くの迷惑をかけると思うが、俺の馬鹿げた計画を助けてほしい。」
彼女らの真剣な眼差しを、自分の目に焼き付ける。
「では行こうか。基本的な移動手段は馬車で間違いないな。」
「そうですよ、よくわかりましたね」
門の外にはここに来る前に乗っていた、馬車がとめてあった。
「やっぱりこれか。」
「勇者様はこれで移動することが分かってらしゃったの?」
「まぁ、君の弟と妹と別れる時に、御者は馬車から降りてこなかったからな、また会うのだろうと思ってはいた。」
すると馬車から御者のアベルさんが降りてくる。
「さすが勇者様ですね。今回の旅の移動手段、そしてあなた方が泊まる拠点の管理を担当いたします。アベルと申します。」
「長い間、お世話になる。よろしく」
短く握手を交わした後アベルは馬車の運転席へ戻っていった。
みんなで馬車に乗り込む。
「さて、出発しようか。計画ではここから一番近い国から回っていく予定だが、確か西にあるオール王国が一番近かったよな」
「それが、勇者さんがいなかった百年の間にキエールっていう国ができたんですよ」
「そうなのか、場所はどこなんだ?」
「オール王国と、フロント王国のちょうど中間です。」
そういえば、あの王宮の使者は隣国からスパイラルエネルギーとかいう知らないものを輸入してた、もしかしてこの国か。
「じゃあ、そこにするか。アベルさんお願いします。」
ゆっくりと馬車が進みだす。
「あれ、そういえば勇者さん自己紹介してなくないですか?」
「それもそうね、私たち一緒に旅をするのだし勇者様もしてくださらない?」
雰囲気でやり過ごそうと思っていたのに、仕方ない。
「分かった自己紹介するから、その前に一つ。勇者様とか勇者さんってのはやめてくれ。なんか、ぎこちないし、いざって時に連携が取りづらそうだ。」
「自己紹介してくれたら考えますよ。勇者様」
ため息が漏れ出てそうになる。
「ソア・クラウディア。百年前勇者をやっていた。これでいいか?」
「ダメです、何かないんですか?」
意外とぐいぐい来るな。
「何か、ねぇ……左目で未来が見れるとか。」
「けど、眼帯してますよね。眼帯越しでも見れるんですか?」
首を横に振る。
「じゃあなんで眼帯してるんですか?」
「未来をあまり見たくないってのと」
二人とも興味津々で見てくる。
「見た目がな、こう何て言うか……実際に見てもらう方が早いか。」
眼帯を外す。
「……なるほど。これは確かに」
「隠した方がいいかもしれませんね」
馬車の窓の反射してる曖昧な自分の姿も目だけは明らかに異常さがわかる。右の赤い瞳とは打って変わって、左目は瞳が真っ黒く、赤いひっかき傷のようなものがあるからだ。
「あれ? けど昔もその目を持っていたんですよね。なのに勇者様の銅像には、眼帯どころか目に傷なんて彫られてなかった気がするけど。」
「確かに。僕も何度も勇者さんの銅像を見たことあるけど、そんな傷あった覚えがないな。」
「元々は青いだけの目だったんだよ。ただ移植した時に変化したんだ。」
「移植? どこに移植したんですか。」
「どこって、この体だけど。」
二人は頭をかしげながらこちらを見つめてくる。
「そういえば、勇者様が戻られたのって一週間前ですよね。なのにどうして子供の姿ではなく、青年の容姿をしてらっしゃるの?」
「確かに、それは僕も気になっていたんだ。誰かの体を乗っ取ったりしたんですか?」
あれコレもしかして聞かされていない?。
「俺、自動人形だよ」
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