お別れと約束
馬車の窓から顔を出すと王都がすぐそこまで近づいていた。
「そろそろね、勇者様。」
フロント王国。昔は、どこの国よりも大きく人口が最も多かったところだ。今見ても立派な国なのは変わりない。
「このまま門を通り抜けてお城の前までで僕たちの役目は終わりです」
「そうなのか、短い間だったがありがとう」
門の前まで来ると馬車の前に汚れの少ない鎧を着た兵士が立ちふさがる。
「まて! ここを通りたいならあの列の最後尾に並んでもらおうか」
と兵士は門の端にできている長蛇の列を指さす。
困り果てていると、門の近くから隊長のような人が急いで近づいてきた。
「馬鹿野郎。この馬車についてる印が見えんのか?」
「えっ、こ……これは失礼しました。」
兵士は大げさに頭を下げた後、横に飛びのいた。
「うちの新人が大変な無礼を……申し訳ございません。どうぞお通りください」
隊長らしき人も大げさに頭を下げる。
再び馬車が進みだす。
「元からある程度、家柄が良かったとはいえ、数世代でここまでの地位に上り詰めるとは、大したもんだ。」
「祖父も曾祖父も、もちろんお父様だってすごく頑張っていらっしゃったんだから。」
自慢げな顔をする女の子は彼女の父親とよく似ていた。
「けど勇者様のおかげでもあるのですよ。勇者様の存在が偉大であったが故に皆、勇者様の事を信じ、頑張ってこれたのですから。」
再び窓の外を見る。幾つもの建物が並び色々な人が住んでいる。この景色を守ったのは自分であると、知ると同時に、左目で見た未来の景色も自分が安易に平和をもたらしてしまったが故の結果なのかと思うと、自分がしてきた事が良かったのか悪かったのか分からなかった。
「喜んでいいのかな」
「いいと思いますよ。そもそも勇者様が魔王を倒さなかったら、この大地は破滅の一途をたどっていただけですよ」
「それに私たちは勇者様のおかげで生まれて来られたのかもしれないのよ」
旅前の心残りが少し解消されたような気がした。
「お! 勇者様、そろそろつきますよ
」
城の前の噴水まで来ると馬車は停車する。馬車を降り、城へ続く階段の前まで歩く。
「私たちはここまでね」
「いつかまた会う日が来たら、あなたの冒険譚を聞かせてさい」
「分かった約束しよう」
少しの沈黙が訪れる。目の前の二人は少し不思議そうに見つめてくる。
「その……ごめん。昔は別れの挨拶何てほとんどしなかったから、何を言えばいいのか分からなくてな。」
二人が急に笑い出す。
「なんだ、そんな事ですか。お城に入るのが怖いのかと思ってました」
「なんでもいいのよ勇者様。どんな言葉でも私たちは勇者様の活躍を祈るだけだから」
昔から子供の笑顔を見ると、どれだけ冷静に取り繕うとも、心が彼らを守りたい気持ちでいっぱいになる。
恥ずかしさを押し戻し、深呼吸をする。
「君たちの笑顔を守れるよう行ってくる。」
「ええ、いつまでだって」
「まっていますよ。」
城の階段を上る。入口付近に着くと王宮の使者が出迎えてくれていた。
「お待ちしておりました。あなたが勇者様ですね。王の間まで案内いたします。」
「ああ、たのむよ」
昔に来たことがあるから知ってるんだけどな。
「あの! どうにかこの研究に資金を貸してて頂ける様、王様にお願いできませんか?」
城の門の真横にいる兵士に一生懸命お願いする少女がいた。
隣にいる王宮の使者が、またか。といったような顔をしている。
「あの人は?」
「あの人、新しいエネルギーの生成方法が分かったから研究費を出してくれないかと。先月あたりからずっと城に押しかけてくるのですよ。」
門の真横にいる兵士は頭を抱えていた。
「勇者様すみませんが少々お待ちいただけますでしょうか。」
相槌を打つと使者は兵士のもとへ駆け寄る。
「あなたは王宮の使者さん? お願いしますどうか、王様に掛け合ってもらえないでしょうか」
「先月から言っている通りそのお願いは出来かねます。第一あなたの研究論文は見させてもらいましたが。そのエネルギーを開発したところで隣国からスパイラルエネルギーを輸入する方が安くより多くのエネルギーをもらえるのですよ」
「それは!……そうですけど」
少女は黙り込んでしまった。
「本当に研究費を出してほしいのなら、そのエネルギーを使う必要性を明確に示してきてから出直してください。」
少女は残念そうに頭を下げ帰って行ってしまった。
「すみません勇者様、お待たせいたしました。では、行きましょう」
「彼女の名前は?」
そう聞くと使者は驚いた。
「あ……っと。たしかミリア・フレイといった気がします。……その勇者様は彼女の研究に興味がお有りで?」
「いや、単純に研究熱心な人間が好きなだけだ。」
「そうでございましたか。では、時間も差し迫ってますし急ぎましょうか。」
城の中に入る。昔に比べて装飾品がかなり豪華になっており、どこを見渡しても目が痛くなるような煌びやかさがあった。
しばらく城内を進むと大きな門の前まで来る。
「こちらでございます。」
使者はそう言うと扉をノックする。すると扉が反対側からゆっくりと開いていく。
「王よ、勇者をお連れいたしました。」
王の間には城内より豪華な装飾品と、立派な王座が置いてあり、王座の近くにはシャーペルと騎士達が立っている。その王座にどっしりと座っている人間は厳格な表情でこちらを見ていた。
「こちらへ参れ」
王座の前まで歩く。一度は見た光景だが周りの緊張感に少し気圧される
「ふむ。そなたがシャーペルの言っておった勇者で間違いではないのだな。」
「はい。その通りでございます。」
王の前に手を出し跪く。王は手の甲にある紋章を眺める。
「本当の様だな。それと、そんなにかしこまらなくてよい。」
立ち上がり、一礼する。
「それで、そなた名をなんと申す。」
「ソア。ソア・グラヴィエです。」
王座の横にいる騎士達が少しざわつく。
「ほう、ソアとは先代の勇者と同じ名前であるか。期待してもよいのだな。」
「はい。もちろんでございます。」
「では、早速本題に入ろう。一月前、この大地の上空に巨大な渦が現れ魔王が復活したのは知っておるな。」
コクリと頷く。
「現れた魔王は、そのあと北東の封印されている魔界へと向かった。それからというもの魔物達の動きが活発化し、すべての国が混乱へと陥っている。」
「それを収めるために魔界へ赴き、先代勇者のように魔王を討伐してこい。ということですね。」
「そうじゃ。だが魔界へ入るため封印を解かなきゃならんのだが。解くための封印石は各国が代表して一つ一つ分けて持っておる。本来なら魔王が現れた瞬間、各国から集める予定だったのじゃが。」
目の前の王様は頭を抱える。
「思ったよりも早く魔物が活発化し、集められなかった。」
「そういうことじゃ。」
王は少し悔しそうな顔をしていた。
「わかりました。その話お受けいたします」
「そうか、では。フロント王国、国王シヴィルが命じる。貴公は各国を旅し封印石を集め、魔界へ向かい魔王を討伐せよ。」
国王は高らかにそう言い放った。
「その命、必ずや果たして見せます。」
「うむ。物資や仲間はシャーペルが用意していると、聞いておる。」
王の横にいるシャーペルが頷く。
「では、最後にこれを。」
王が支持すると横にいる騎士が小包を持ってくる。
「この国の封印石じゃ。大切にな。」
「ありがとうございます。」
「うむ。では行って参れ。」
あまりにもすんなりと終わってしまった。
王の間を出ると出迎えてくれた使者が待っていた。
「シャーペル殿から、物資と仲間は西門に居ると聞いております。」
「そうか、ありがとう。」
「気をつけて行ってらっしゃいませ。」
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