勇者誕生
俺は樫田和樹25歳。平凡な暮らしをしているただの社会人。ただあまりにも平凡すぎてつまらない人生を送っている。
「はぁ、最近は仕事行って帰って飯食って寝るしかしてねえな。漫画やアニメみたいに敵を倒して金を稼ぐ、みたいな楽しい生活送れないかなー」
今の生活に満足しているとしてもやっぱり刺激は欲しいものだ。
そんな事を考えていると玄関のチャイムが鳴った。
「あっ。今日だったか」
すぐさま玄関まで行きの扉を開く。目の前に立っていた配達員から荷物を受け取り部屋まで戻り開封するとゲームのパッケージが出てきた。
「勇者の逆襲か、同僚に面白いRPGがあるっていわれてなんとなく買ったけど、どんなゲームなんだろう」
パッケージの中にあるあらすじを見る。
「魔王を倒し世界に平和をもたらした勇者がある日、人間同士の争いによって世界が崩壊する未来を見てしまう」
なんかいきなりRPGの醍醐味終わっちまたぞ。
「世界の崩壊を阻止するため表向きは勇者、裏の顔は暗殺者として各国を旅する」
ふむ。まーーよくわからんがやってみるか。
ゲーム機にディスクを入れモニターをつける。がしかしそこにはデフォルトの画面しか映らなかった。
「あれ? 読み込めてないのかな」
ディスクを入れなおしたりいろいろ試してみるが一向に読み込む気配がない
「うそだろ? どうなってんだ」
突然画面が真っ暗になる
「おい、モニターも壊れちまったのか? 勘弁してくれ」
古の方法で蘇生を試みる。何度か叩くと画面が急に光りだす
「お! 直っ、まぶしっ」
瞼を貫通した光が徐々に薄れていく。
目を開けると広大な草原があり、そのど真ん中に大きな城が建っていた。
「なっ……」
何が起こったのか分からないが少なくとも幻覚ではなさそうだ
「ここは……もしかしてアニメとか漫画で見る、異世界なのか」
気持ちが高まり拳に力が入る。
「熱っ、なんだこれ」
握った手の甲を見てみると謎の印が浮かび上がる
「これってアニメとか漫画だと勇者とかに現れるやつじゃ」
小さくガッツポーズをした後、手を空に掲げる
「俺の求めていた刺激がこんな形で手に入るなんて。よし! これから第二の人生始まりだっ__」
何か鋭い物が身体を貫く。
「は?……」
後ろを振り向くと黒髪に赤いメッシュが入った眼帯の男が自分の心臓に向けて直剣を刺していた。
「突然すまない。お前の人生俺が使わせてもらう」
直剣を引き抜く。よろよろと倒れる人間を見守りながら剣に着いた血を拭く
「おや殺してしまったのですか。」
声と共に近くの木の陰から長身の男が出てくる。
「計画の支障になりえるからな。それよりこの死体から勇者の紋章は剥がせるんだろうな。もし無理ならここで計画が頓挫してしまうんだが」
長身の男は自慢げに死体に近づく。
「私はシャーペル・メシスですよ。魔術においてメシス家の人間を超えられるものなど、この大地のどこを調べてもおりません。」
そう言うと男は死体の周りに魔法陣を展開する。
近くの岩に腰掛け見守る。
「残念ながら俺は、お前さんの家が数世代前まで建築を生業にしていたことしか知らん」
彼の口角が少し下がったような気がした。
「それよりソア様あなたがいられた時代よりこのポロヴィナ大地はかなり変化しています。どの様に変わったのか、お教えした方がよろしいでしょうか?」
地味とはいえ相当高度な魔術だろうに、他人の心配をするとは、魔術に関しては自称しているだけはあるようだ。
「いやいい、どうせ全部回るからな。それに自分自身で実際に見て判断する必要がある」
「そうですか。ではそろそろ術の準備ができますので、こちらへ」
死体から紋章が剥がれ浮き上がる。
「さぁ、手をこちらに」
男の指示に従い手を前に出すと紋章が手の甲に張り付く。
「意外とあっさりしているな。」
「魔術なんて基本そうですよ、利便性や機能性を求めたら地味になるものです。それに、こんな魔法目立つ方が困りますよ。」
「それもそうだな」
紋章を眺める。
「違和感がお有りですか?」
「いいや、しっくりきている。……そうではなく、ただ懐かしくてな」
目の前にいる男は微笑する。
「あなたが勇者をやられていたのはもう百年以上前ですので」
「百年。か」
目の前の大地を一望する。転生してから数日経っていたが、ちゃんと見たのは今が初めてだった。
「この辺から見る景色は、あまり変わっていないな」
「そうですね。このポロヴィナの大地は多くの事が変化しました。ですが、もちろん変化しない物も有り、どちらも良い点、悪い点が存在します。それを出来るだけ、良い方向へのきっかけを作る。それが貴方の此度の旅の目的、そうでしょう?」
自分で計画した事にも関わらず、こう他人から言われてしまうと、なんと曖昧で馬鹿げているのだろうと思ってしまった。
「あなたの左目に宿る、未来を見る魔眼はこの大地の崩壊を映し出した。まだ変わらずにいるこの景色もいつかは戦場になり果てるのでしょう」
「そうだな。じゃ、この景色を失ない為にも、もう一度世界を救わないとな」
腰掛けていた岩から立ち上がる。
「よし。じゃあそろそろ王都に行くとするか」
王都へ歩き出す。
「いえソア様は私が呼んである馬車でお越しください。私は先に王都へ赴きシヴィル王に勇者が見つかった事を報告しに行きます。その後は計画書通りに」
男はそう言い終わると王都の方角へ消えてしまった。
「あっ、行っちゃった。……しかたない、待つか。」
馬車を待っていると視界の端からそれらしきものが近づいて来る。明らか整備されてない道を豪快に走るその馬車は、数秒もしないうちに目の前に停車した。
「この馬車、乗りたくねぇ……」
そう呟いた瞬間、馬車の扉が勢い良く開き中から子供が二人ほど出てくる。
「そんなこと」
「言わないでください」
子供。まさか送迎してくれるのが子供とは思わなんだ。
「君たち名前は?」
すると二人のうち、長髪で髪にひし形の髪飾りをした子が前に出てきた。
「私はセリア・メシス。メシス家の次女よ。よろしく。」
セリアという女の子はペコリとお辞儀をした後、半歩後ろへ下がった。
次に横にいた短髪で星形の髪飾りをした子が前に出る
「僕はカルト・メシス。メシス家の長男です。よろしくお願いします。」
カルトという男の子もペコリとお辞儀をすると半歩後ろへ下がった。
「セリアちゃんと、カルトくんか、君たちはどうし……」
「まあまあ先に馬車に乗りましょ。」
二人に腕を引っ張られる。馬車の中に連れられる。
「えっ……ちょっ」
扉がバタンと閉まる
「アベルさん。馬車を出して!」
セリアが御者のおじいさんに呼びかける。
「かしこまりました。」
良い声の御者のおじいさんがそう一言告げると、馬車が道なき道を走りだす。
「さてと、それで勇者様は私たちに何を聞きたかったの?」
少しすると整備された道へ出た。
窓から先ほどまでいた所をちらりと見る。死体がまだ残っていた。
「あーー、まあいいや。」
咳払いをして仕切りなおす。
「えっと、二人はどうして僕の送迎をしてくれるんだい?」
そう言うとセリアが申し訳なさそうに話し出す。
「私たちは本当に勇者様の旅について行く予定だったの。だから勇者様の力になれるように鍛錬してたんだ。けど、お父様が想定していたより勇者様が早く戻ってこられてしまって。まだ私たち子供だから、勇者さまに着いて行くのはやめておきなさいとと言われてしまったの」
「だから僕たちは、少しでも勇者様が頑張れるように見送りをさせてほしいと頼んだんです。」
何ともいえない罪悪感に襲われる。
この子たちの年齢なら、そんな事考えずに、ほかにやりたい事をやれるはずなのに。
「ごめんね、僕の計画が無ければ君たちの人生にはもっと選択肢があっただろうに」
「そんなこと言わないでください。それに勇者様だって一緒だったのでしょ?」
返す言葉もなかった。だが、彼らの運命は自分のように定められていなかった。にも関わらず、彼ら自身の意思で自分の計画に参加してくれようとしたのだ。
「ありがとう」
咄嗟に漏れた言葉に二人は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
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