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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

うみ

作者: 壱原 一

かみさまはこの時季にいらせらる。


気候の穏やかなこの時季に、まず、海原のただなかへ、白くまろやかな一片をぷかりと浮かべあそばす。


三日三晩でゆっくりと、小山の如きご尊体を、惜しげなく岸へ打ち上げて横たえなさる。


かみさまは、美しく、勇ましい、男の頭を成しておられる。


初めて岸へいらした時、邂逅の幸いに浴した男を見初められ、精巧にかたどられた。


海岸へお上がりなさると、砂浜へ頬を付け、隆々と太い首元を陸に向けられる。


生き生きの御目を開いたまま、半ば御口を開いたまま、身じろぎ一つなく、息吹一つなく、ただじっと、よそよそとそびえて、畏き御業を垂れ給う時をお待ちくださる。


歓びに満ちた夢の中へ蕩けるような面持ちと、引き上げられた海藻めくもつれる緑の黒髪を、潮にべとつかせ、砂を纏わらせ、この度お仕えする男が、お傍へ参るのを待たれる。


かみさまの、隆々たる首の、人なら胴に据わるべき円筒の面の部分は、雄の魚の腹にある、乳白色の精の巣のような、柔らかく、もったりとした、肉の詰まりを成しておられる。


気候の穏やかなこの時季、お仕えする男は、岸で、かみさまのお傍へ寄り、勿体なくも御身に触れる。


肉の詰まりを搔き分けて、腕で両脇へ押し開き、最も奥に拵えられた、暗く小さな孔穴を、拝み、畏んで相通ずる。


かみさまは、また、三日三晩、ゆっくり海原へ打ち戻り、ただなかで跡形もなく融けて、うみにかえりあそばす。


かみさまと通じた男は、命の力を弥増し、毛を太く多く、膚を濃く、腹を満々と膨らます。


旺盛に食し、時に断ち、時に吐く程の活命のうみをはち切れんばかりに湛え、やがて、来る月の夜、岸へ参る。


湛えたうみをうみのただなかへうみに参る。


海は豊かに栄え富み、海辺に住まう人めらは、かみさまを祀る私達は、掛け替えのない恩恵を畏敬と共に享受する。


さてもかしこくありがたいこと。


いともとうとくさいわいなこと。


幼いあなたが駄々を言う度、母はあなたに言いましたね。


あなたが立派に育ったら、きっとお父さんに会える。


嘘ではありませんでしたでしょう。


遠からずお父さんに会えます。


かみさまが砂浜にいらせらる。


かみさまと通じたお父さんが、灼然いやちこなるうみを母へ分かち、斯くも立派に生まれ育った、美しく、勇ましいあなたが、お傍へ参るのを待たれている。


げにおそれおおくうれしいこと。


お傍へ仕えて、戻ったら、あなたの祝言を挙げましょうね。


誠におめでとうございます。


行ってらっしゃい。



終.

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