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『ブレイヴイマジン』第7章 オープンゲート②


          *   *   *


 イヴァルディさんの回復を待ってから始まった新たな旅は、十五日に及んだ。この間にヴェンジャーズが、ガーディさんが何らかの行動を起こしてしまうのではないかと不安になったが、そのような事は特になかった。

 アーチェスレリアは、セイバルテリオとは全く趣を異にする街だった。

 建物の多くは石で造られ、パステルカラーに塗られている。道路は舗装されておらず、赤土の地面には荷馬車の(わだち)が付いている。中心には小高い丘があり、その頂には白い塔が屹立していた。

 そして、街全体には木漏れ日が降り注いでいる。空を覆い尽くすように枝葉を広げているその巨樹こそが、世界樹ガオケレナなのだった。

「あの塔は、世界樹の守護塔なのよ」ユリアが説明してくれる。「魔物はヘルヘイムの産物。そこと直接接続されているガオケレナの根本には、地脈の究極的な収束場所があるの。その運動を調査する事で、魔神族が地上に現れる予兆がないか観察しているんだって。守りは凄く厳しくて、アクシズキーパーっていう樹の()り人以外は監視室に入れないように特殊な魔法が掛けられている」

「今のところ、街は小康を保っているみたいだね」

 イヴァルディさんは、街路を行き交う人々の様子を見る。

「まだ、ガーディがヘルヘイムへ接触を図ってはいないって考えてもいいのかな。でも、チャクラバルティンが何処にあるのかも分からないや」

「これだけ大きい樹なんです、頂上は高度二十キロまで達するし、梢に入られたら地上からでは見えませんよ」

 シルフィが言う。実際に要塞の移動した速度がどれくらいだったのか、目視だけで観測する事は難しかったが、夜の間に空高くを通過したのなら、アーチェスレリアからでは見えなかったという事も考えられる。見えたとしても、流星程度に思われたのではないか。

 ヴェンジャーズは、全員要塞の中に居るのだろうか、と考えた。もしも彼らが街の外で待機などしていた場合、コーディアの危惧していた魔法使い狩りは、電撃的に行われる可能性がある。

「とにかく、まずその……アクシズキーパーっていう人に話を聴いてみようか」

 俺は提案した。

「もし、これからヴェンジャーズとの大規模戦闘が始まるんだとして、住民のパニックを呼ばないように、魔法使いたちが情報を伏せている事もないとは言い切れないだろう。少しでも異変がないか、俺たちがブレイヴだって事を明かせば聞き出す事は出来ると思うよ」

「そうだね、何事も情報収集が大事だし」

 ユリアが賛成してくれたので、俺たちは早速丘の上に向かって歩き出した。


          *   *   *


 俺たちが丘を登り切ったのと、塔の中から教会の祭司のような()で立ちの男女数人が駆け出してくるのはほぼ同時だった。先頭を歩いていた俺は突き飛ばされそうになり、慌てて踏み留まる。ぶつかりそうになった初老の男性は、「申し訳ない!」と叫んだ。「お怪我はありませんか?」

「あ、ええ、大丈夫です。こちらこそ、すみません」

「急がれているようですが、何かが起こったのですか?」

 イヴァルディさんが尋ねる。ミッドガルドの皇太子が居る、しかも下々と変わらない汚れた身なりをしているという事に、彼らは驚愕と困惑を同程度に配分したような表情を浮かべたが、余程急を要する事態なのかすぐに返事をした。

「街外れの衛兵詰め所に連絡です。塔が、たった一人のヴェンジャーズの男に占拠されました。街の外にも、既に大軍が集結しているとかで……」

 俺にぶつかった男性の、すぐ後ろに居る女性が叫ぶように告げる。俺は顔から血の気が引くのを感じ、皆と視線を交わし合う。彼らも同様に、一様に青褪めた顔で互いを見ていた。

 俺たちはすぐ、「失礼します!」と叫んで塔の入口に殺到する。祭司のような一団は「ちょっと!」と呼び止めてきたが、俺たちはフォームメダルを見せた。

「俺たち、ブレイヴなんです!」

 現場に介入する警察のような方法で、俺たちは入口を通過する。吹き抜けの階段を二段飛ばしで駆け上がると、頂上に階段室程の大きさの、石積みの四角い部屋が見えた。監視室だ、と思い、一直線に駆け込む。ユリアの言っていた封鎖魔法は、既に破られていた。

 部屋の中では、血に塗れたインフェリアブランドを手に、ガーディさんが立っていた。モニターのような水晶板に突っ伏した男の(むくろ)を、氷のような目付きで見下ろしている。その息絶えた男が、アクシズキーパーのようだった。

「ガーディ……」

 コーディアが、低く彼の名前を呼ぶ。彼は無感動にこちらを見ると、「来たか」と呟いた。

「ケント、お前は気付いただろう。ここまで来れば、奴が真相を告げるはずだ。この馬鹿げたゲームのな」

「ガーディさん、あなたは一体、何をするつもりなんですか? チャクラバルティンは、今何処にあるんです!?」

 ユリアたちが俺に何かを言いたそうにしているが、それよりも今は彼の目的を聞き出す事が先決だ。これ程率直に尋ねて、彼が正直に答えるだろうか、と思ったが、彼は一瞬目を鋭く細めただけで口を開いた。それは彼自身が、俺をまだ「魔王に挑む勇者」として認識しているから、かもしれなかった。

「世界樹ガオケレナの頂上。それは、フロントワールドでいう成層圏の高さだ。そこで、例の魔科学核を爆発させる。その熱線は拡散し、地上に届く事はないだろうが、同時に高高度核爆発は膨大なEMP(電磁パルス)を発生させる。それはエヴァンジェリア全域の機械に侵入し、制御を奪う」

「何、言ってるの?」

 本来核爆弾など存在しないこの世界では、魔科学に精通したロゼルであってもその原理を理解する事は出来ないようだった。

「世界全土の魔科学工場は排熱処理が滞り、爆発を起こすだろう。医療機関はシステムダウンにより、患者の治療を行えなくなる。都市機能を魔科学に依存したセイバルテリオなどの大都市では、ライフラインが寸断される。

 これはまだ手始めだ。熱線は直接地上には届かないものの、ガオケレナへと引火する。それは、七つの国を結ぶ根、界廊を焼き、地下を破壊する。地脈は暴走し、岩盤を破壊して世界中で大規模な地震を発生させる。マナを地上に溢れさせ、高濃度の瘴気と化したそれは民の命を蝕む。

 そして大量のマナによりヘルヘイム化の進んだ世界に、魔神族が(とど)めを刺す。それで、地盤という時空の境界を喪失したエヴァンジェリアは、完全にヘルヘイムの因果律に組み込まれる」

「そう、上手く行くものですか」

 俺は、顳顬(こめかみ)を大粒の汗が伝うのを感じながら抵抗する。ガーディさんは「行くだろうな」と淡々と告げた。

「世界を救う事は、伝説の英雄であっても難しい。しかし、世界は放置すれば、荒廃に向かう。ベクトルは本来負に向かって動くものであり、そこに破壊者の(さが)を持つ魔の力が作用すれば」

「ガーディさん、まさか……」

「魔王ディアボロスを、エヴァンジェリアに解き放つ」

 彼の宣言に、今までの話が漠然としか分からなかった、という面持ちの仲間たちも皆はっと息を呑んだ。

「魔神の属性を超越するのは、その産物たる魔物の監視者、イマジンの力を持つ者のみ。この半月の間、俺はミッドガルド各地に散ったヴェンジャーズの部隊を、イマジスハイムに向けて進軍させた。じきに、イマジンたちの鏖殺が始まる。替えの利く者が居なくなれば、派遣中のイマジンを殺してはならないという縛りも、意味を成さなくなるだろう」

「俺たちは……彼らと契約したブレイヴです」

 俺は、彼の圧力に負けまいとしてそう言った。

「魔王の力を得ようとしているあなたにも、魔王ディアボロス本人にも、対抗し得る(すべ)はあります」

「そう、お前たちには術はある」ガーディさんは肯く。「勇者で在りたいなら、全身全霊を以て俺に挑み、倒せ。絶望の連鎖を、滅ぼす以外の手段で叶えられると証明してみせろ」

「……分かりました」

 俺は、フォームメダルを構える。しかし、アロードが憑依の準備に入る前に、彼が左手をこちらに突き出した。

 何の前触れもなく、巨大な圧力が正面から襲い掛かって来た。俺たちは、身構える間もなく吹き飛ばされて監視室の外に転がった。

「何のこれしきで……!」

 俺はデュアルブレードを抜き、再び監視室に突進する。しかし、俺が到達するのとほぼ同時に、その入口にプリヴェントファクターの如き光の壁が出現し、俺の突入を阻害した。

「ガーディさん!」

「宿命は変えられない。苦しみ足掻いて勇者を続けるのも、逃げて楽に終焉を迎えるのも、俺はお前の選択を否定しない、ケント」

 彼が言った途端、光の壁が暗転し、中に居る彼の様子は見えなくなった。

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