『ブレイヴイマジン』第6章 ダークネス⑱
* * *
意識しても追加で仲間を呼ばれ、俺たちが集まった魔物全てを討滅し終えた時には三十分が経過していた。その上、やはり引き返してきたらしい兵士たちが乱入してきたりして、かなり時間を食ってしまった。
俺たちは戦闘後、休む間もなく本拠地内に入り込む。廊下でも何度か兵士たちと出くわしたが、こちらもまた速攻で蹴散らし、探索する。前回の潜入でコーディアが把握してくれていた構造を紙に描き起こし、総裁室の位置は把握していた。
扉を押し開けた時、マンティス総統は机の上で何やら記入作業を行っていた。その横では、ガーディさんが太刀を構えている。
「ガーディ……貴様の目的は何だ? 魔神族と敵対する事なく、その庇護の下で、ヘルヘイムの世界系で生きられる人類に、我々ヴェンジャーズはなる。しかし、貴様のプランでは」
「ヘルヘイム化とは、究極的な滅びです。そこには、あなたも俺も、存在してはいけない。この世界の人類を殲滅するには、生命線を切断するこのプランしかない。……あなたも復讐者なら、後には退けないと覚悟を決めて下さい」
ガーディさんの言葉は、何処かマンティス総統を脅しているようでもあった。彼は押し黙る総統に向かい、睨むように目を細める。
「総統。あなたの目的を、あなた以上に理解しているのは俺です。それとも、あなたは迷いましたか? 娘が目の前に現れたといいますが」
「それは……貴様が勝手に、アンセスを懐柔してフォールンをチャクラバルティンへ改造した責任とは関わりがない。それに私は、奴らの卑劣な策略に屈した訳ではないと既に説明したはずだ。あのような……娘の名を騙る偽者など」
「それは違うわ、お父さん!」
黙ってやり取りを聴いていたコーディアが、一歩踏み出した。彼らもこちらに気付いたらしく、揃って俺たちの方を見る。
「カルデア……いや」
総統は、机の傍らに立て掛けてあったデッドスパークルを取る。
「また貴様らか。ガーディの脅迫に踊らされたな」
「総統、俺は最も、ヴェンジャーズの理念に即した策を採ったのみです。あなたも、自らの柵を否定するというならあの娘を殺して下さい」
「ガーディさん!」
俺は、彼に向かって声を放った。
「あなたは、既にブレイヴフォースの準備を終えているんですか?」
「そうだ。そしてそれは、今この場で適用される」
ガーディさんは顔色一つ変えずに言い、タキシードのポケットから紫色の球体を取り出す。霊血でコーティングされた、ロゼルのメダル。俺はびくりとし、後ろでコーディアに庇われているロゼルを見やった。
今、ガーディさんが発動コマンドを口にすれば、俺たちは負ける。
俺は思うや否や、考える事なく飛び出していた。入口でミルメコレオと戦った時から、変身は解除していない。彼からあの球体を引き剝がしてしまえば、一瞬で俺たちの勝利は確定する。コーディアにロゼルと先に契約して貰い、彼女が変身すればガーディさんも手出しが出来なくなるはずだ。
「灼炎界破刹!」
彼の手元目掛け、一直線に突き技を放つ。ガーディさんは、前触れのない俺の動きに少々驚いたように眉を上げたが、すぐに自らの行動を決定した。
それは、ブレイヴフォースの発動コマンドを叫ぶ、というものではなかった。
「天人五衰・衣裳垢膩!」
被服や表皮を切り裂くような、黒い煙を放つ袈裟斬り。彼が反撃を優先するとは思わなかった為、俺は驚いて減速する。今繰り出している技の軌道では、彼の技は防げない。そう思った事が、剣を握る手をぶれさせ、繰り出しかけていた技をキャンセルさせてしまった。
ザクッ、という湿った音が、俺の手首から響いた。と、思った時、さーっという流れを感じさせる速度で、血液が漏れ出した。突き出していた手首を切り裂かれ、動脈をやられた可能性に思い至った時、彼の構えが変わった。
「天人五衰・身上光滅!」
「うわっ!」
ぎりぎりで躱したが、目のすぐ下、鼻筋を痛撃され、俺は翻筋斗打つ。血液がどくどくと流れ、これはいけないと判断し、コスチュームの裾を切り取って患部を強く縛った。剣を振るう手に力が入らなくなるのでは、と思ったが、失血死する事に比べれば、無茶な戦い方など幾らでもしてやる。
仲間たちが続いて動き出すと、マンティスも迎撃すべく杖を突き出した。
「レギンナグラル!」
「光輪斬撃破!」
先陣を切ったのは、ゼドクだった。総統が空間に出現させた三筋の爪痕のような光に、得意の光属性攻撃を放つ。俺は「やりすぎないで!」と警告した。
「マンティスは、コーディアのお父さんだから!」
「コーディアよ」ゼドクは、拡散する目映い光の中で、背後を駆ける彼女を振り返った。「この獣王の生命、その采配はお前に委ねる!」
「私は……!」
コーディアは歯を食い縛ると、「避けて!」と叫びつつ、姿勢を低くした彼の肩を踏み台に飛び上がった。父親の手からデッドスパークルを落とさせようと、空中で技の構えに入る。
しかしその時、彼女の表情が一変した。
「危ない、ロゼル!」
ガーディさんが、ユリアやイヴァルディさんの壁を越える前に、コーディアはそう叫んで身を捻ったのだ。部屋の入口で祈るように手を組み、こちらを見つめるロゼルに、急降下するコーディアではない影があった。
突如現れた何者かが、ロゼルへと躍り掛かった。大きく振り上げられた腕で何かが光った、と思われた刹那、コーディアが彼女の前に飛び込んでファントムブリンガーを振り上げた。
「あ、あんたは……」
鍔迫り合いの体勢を維持し、コーディアが呟く。
割り込んだのは、赤紫色のコスチュームを纏った戦士だった。五十日前の記憶が蘇り、俺は戦慄と共に声を振り絞る。だが、俺が警告を叫ぶよりも早く、ユリアがそれを口にした。
「イマジン・ヤークト!? よりによって、どうしてこんな時に……!」
「イヴァルディさん! コーディアに加勢して下さい!」
俺は、無我夢中で声を上げる。
「ヤークトは、俺とユリアでも蹴散らされた相手です! ゼドクも早く!」
「……今、ロゼルを殺される訳には!」
ガーディさんが、球体を突き出す。早いところで自分に憑依させ、ヤークトの目論見を挫こうという作戦らしい。
もしロゼルの憑依した彼に対し、ヤークトが尚も攻撃に出たら、彼はあのオフランド・オウ・ネアンを連発してヤークトを倒そうとするだろう。それでヤークトが倒れた場合でも、ロゼルは力を絞られ続けて死んでしまうかもしれないし、ガーディさんが敗れた場合もまた彼女は一緒に命を落とすだろう。
「駄目です、ガーディさん!」
俺は、彼のインフェリアブランドを絡めるように剣を突き出しながら、もう一方の手で彼の手首を掴み、捻り上げる。
「あなたの思い通りには、させません!」
「離せ、ケント!」
刀の柄で、力の入りにくくなっている俺の患部を強打する。俺が悲鳴を上げて力を抜くと、彼はデュアルブレードを跳ね除け、俺に再び袈裟斬りを叩き込んできた。胴体を深々と切り裂かれ、俺は呻き声と共に後退する。
「インカージョン・アポカリプス!」
追い討ちの重攻撃。俺はガードなど出来るはずもなく、ヤークトと戦うゼドク、コーディア、イヴァルディさんのすぐ後ろの床に叩きつけられた。
「ぐあああっ!」
「ケント……俺は覚悟した。マンティスと、コーディア。俺がヴェンジャーズとなってから、この局面まで到達した勇者は居なかった。そして今、決意が新たなものとなった。たとえ相手が、かつての俺と同じ目をしたお前だったとしても……邪魔者は、全て倒す!」
ガーディさんは血払いをすると、球体をしまい直し、両手で肩の高さまで太刀を持ち上げた。こちらに向かって、威力を溜めて突き出そうとするかのような体勢だ。俺は、彼もまた本気なのだと悟った。




