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『ブレイヴイマジン』第6章 ダークネス⑰


          *   *   *


 しかし、その日を境に街中で最初にゼドクたちの言っていたようなヴェンジャーズの暴動が頻発するようになった。俺たちは、魔法使いが襲撃を受けているという情報を集めて現地に向かい、制圧する、という事を繰り返したが、それは元々危険人物と触れ回られている俺たちにとっては、大勢の敵を呼び寄せかねない危険を伴う戦いだった。

 段々と俺たちの行動が魔法使いの救出にあると知られ、パトリオットの指名手配に疑問を抱く人々も現れ始めた。だがそうなった後は、パトリオットが思いがけない行動に出た。

 彼らは、俺たちを支持し始めた者たちに、「ヴェンジャーズに協力している」という言いがかりをつけ、ケーンズで行ったような制圧作戦を次々に発動するようになったのだ。俺たちはそこへ駆けつけざるを得なくなり、ヴェンジャーズの幹部級の者たちが扮したパトリオットの強者と何度も剣を交える事となった。その隙に魔法使い狩りは進み、こちらは疲弊し、日を追うに連れてセイバルテリオの地獄絵図化は進行していった。

 そして一週間後、遂に民衆の決起が起こった。

 パトリオット、ヴェンジャーズ問わず彼らの怒りは敵へと向かい、ヴェンジャーズもその鎮圧に手段を択ばなくなった。

 決起に参加しなかった人々は、各地区の自警団やレジスタンスが破壊した検問所を踏み越え、郊外の空地や林へ一時的に疎開した。王宮に囚われた衛兵たちの孤立状態はさる事ながら、避難せず抵抗を続けた人々の様子は不明のままだった。

 そして、住民全員が何かしらの形でセイバルテリオから居なくなった後、二日後にアンセスが郊外にビラを撒き、皆を検問所のあった場所周辺に集めて宣言した。

『私たちは、ヴェンジャーズです』

 ポラリス王宮の主席顧問官であった彼によって、ステファン王が既に(たお)れ、街はここずっとヴェンジャーズに支配されていたという事実が告げられた。住民たちは戦慄し、全てに絶望したような顔でその場を去る者も現れた。

『あなた方は、新たなるミッドガルドの王、マンティス総統に対し反逆行為を行いました。知らせなかった我々にも責めはありますが、それでもあなた方はパトリオットに対しても反抗的な運動を見せた。故に、粛清を始めねばなりません。

 チャンスを与えましょう。闇のイマジン、ロゼル・ダークネスが独りで、ヴェンジャーズ本拠地にやって来て下さい。場所は既にご存じのはずです。期限は明日の日没まで、もしも期限を過ぎるか、その他条件を満たさずに反抗の態度が見られた場合、魔科学兵器・転輪聖王(チャクラバルティン)を用いて街諸共あなた方を焼却処分します。各種交通機関を用いても、期限以内に影響圏から脱出する事は困難でしょう。

 自らの裁きに対し、逃げようなどと姑息な事は考えない事です。ロゼル殿、世界の秩序を監視するあなたに、誠意がある事をはっきりと示して下さい』


「こんな……こんな馬鹿げた事があるか!」

 人々が顔面蒼白になり、或いは泣き崩れ、また恐慌のあまり周囲に八つ当たりを始め、喧嘩までもが勃発しようとしている光景を見回すと、俺は街に向かって怒声を叩きつけた。

「落ち着け、ケント。お前の咆哮が、都の賊どもに届くはずがなかろう」

 ゼドクが諫めてくるが、俺は煮え滾る全身の血液を制御出来そうになかった。

 ヴェンジャーズはこの世界の滅亡を望み、あらゆる秩序と事物の破壊を目的に動く組織。それは理解していた。いや、理解しているつもりだった。だが、こうして実際に何千人という犠牲者を出し、残された人々の感情を弄ぶような彼らに、俺が感じている怒りは過去にない程の激しさだった。

 それは、単純な怒りだけのせいではなかったのかもしれない。焦燥のあまり、苛立ちが募ってもいた。

「フォールンは、最初から囮だったのね。レーナたちが、それを知らなかっただけで……」

「私たちが、前みたいな行動を取れなくする為……」

 コーディアが、俺と同じく街の方を睨んでそう言った。

「あの時は、投降した振りをして本拠地に潜入したし、私たちがその位置に気付いている事も、向こうに知られているから。だけど、それでもロゼルを一人で行かせるなんて……」

「あたし……どうすればいいの?」

 ロゼルは、大勢からの鋭い視線を浴び、今にも泣き出しそうだった。

「卑怯だよ、ヴェンジャーズは。あたしがブレイヴフォースに使われて、フォームメダルの奪還も不可能になったら……この街の近郊には、闇属性の魔物が一杯居る。チャクラバルティンでもどっちでも、街が滅ぶのが、一瞬か、じわじわかだけの違いじゃない……」

「でも、さ」後ろで話を聴いていた住民の若者が、陰鬱な表情で口を挟んだ。「少なくとも時間さえあれば、俺たちは逃げられる。ここに居る皆が、一瞬で焼き殺されるなんて、さすがに酷すぎるよ」

「じゃあ、あなたはロゼルに犠牲になれって言うの!?」

 コーディアはすかさず噛みつく。若者は、「怒鳴らなくてもいいじゃねえか」と吐き捨て、そそくさと立ち去って行った。

「ロゼル、あなたが何と言っても、どんな覚悟が出来ていたとしても、私たちにはそんな覚悟はない。そんな覚悟、そもそもしちゃいけない。だから、間違っても自分一人が犠牲になれば、なんて考えちゃ駄目」

「分かってるよ、コーディアさん。だけどあたし……皆を助けたいの」

「それは、私たちも同じ。だけど」

 コーディアの言葉が途切れる。

 俺は、今まで犠牲になった人々、今ここで恐怖に怯えている人々の事を考えた。このままロゼル一人が、約束通りヴェンジャーズ本拠地に行き、ブレイヴフォースの犠牲になったとして。その後、ヴェンジャーズが街を解放するとは、俺はどうしても思えなかった。仮に解放されたとしても、その後待っているのは彼らによる支配に他ならない。

 いつか、自分たちの滅亡を願う組織による支配体制。

 反抗すれば、絶対の法によって世を統治し、王に相応しい条件を全て有する者としての名を持つ核兵器が、街ごと民を滅却する。

(俺たちは、何度も誓ったはずだ……)

 俺は、思考を何度か進退させると、仲間たちの方を向いていきなり言った。

「……フォームメダルの奪還、実行しよう」

「えっ? ……ええっ!?」

 ゼドク以外の皆が声に出して叫び、エルゼートさんを始めとした周囲の人々が、一斉に俺たちを振り返った。

「ま、待ってよケント君……それって、強行って事?」

 ユリアが尋ねてくるので、俺は肯いた。

「ああ。これ以上予定を先延ばしにしても、決行が困難になるだけだ」

自棄(やけ)を起こした訳では、ないな?」ゼドクが言った。「判断の根拠を聴こう」

「幾らヴェンジャーズでも、この短期間で街のセキュリティ会社を全て掌握して、街中の監視カメラの情報を掴んでいるとは考えられない。本拠地に俺たちが辿り着くまで、彼らは俺たちの行動を確かめられない。それに、王宮にも街にも、まだ沢山のメンバーが居る。彼らを撒き込むかもしれない以上、チャクラバルティンの起動前には彼らの退避の時間が必要になる。ヴェンジャーズ本拠地が、地下シェルターのようなものになるのかもしれないけど……発覚から兵器の使用まで、何時間か時間は取れるはずだ。それに、起動後も幾らかは時間がある。ロゼル」

「は、はいっ」ロゼルは背筋を伸ばした。

「もしイヴァルディさんが言っていたように、地脈から魔力を摂取して王宮の一部を打ち上げたとして、セイバルテリオ全体、及びここに居る人たち全員が街から離れても爆発に巻き込まれる範囲に影響を与えるまでなら、兵器を高度何メートルまで打ち上げればいい? それに時間は、どれくらい掛かる?」

「待ってね、今計算するから」

 ロゼルは屈み込み、砂の上に指を走らせる。ものの数十秒で、彼女は顔を上げた。

「魔法の逆噴射で居館を打ち上げようなんて考えた人は今までに居ないし、あくまで理論値で計算したけど……多分、元のフォールンのサイズでセイバルテリオの半分なら、高度五キロ程度で爆発させた時に全域に影響する。もう少し広めに見積もって、周辺まで影響を与えるには高度七キロ、そこまで打ち上げるには……大体二時間、それより少し早いくらいかな」

「交通機関の都合も考えると、連中が地下に退避する時間込みで猶予は六時間程度、ってところが妥当か?」ルクスが控えめに言う。

「それだけあれば、俺たちにも十分な時間だな。もし、それで打ち上げが行われた時は高度が上がる前に地上から撃墜する。打ち上げられる前なら、ロゼルには解除出来るんだよね?」

「撃墜? どうやって?」

「打ち上げの魔力制御に使われた魔法使い以上の人数が、こっちには居る。彼らに地脈へ干渉して貰って、出力を上げて崩壊させる」

「出来ない事はない……と思うけど、さすがに危ないんじゃ?」

 シルフィは不安そうに、集まった人々を見回した。

「ポラリスは、チャクラバルティンがあるのは街の中心部よ。ここから、そこまで干渉出来る術式圏内を持つ魔法使いなんて居るのかな?」

「その必要はありませんよ、シルフィさん」

 エルゼートさんが、決意を固めたような声でそれに応えた。

「王宮の地下は、地脈の収束する場所。マナの術式転換を流れに沿わせる事が出来れば、それは自動的にポラリスへ向かいます。ここからでも、十分にチャクラバルティンへ干渉出来ます」

「それなら……」「ええ」

 コーディアとロゼルは顔を見合わせ、それから同時に俺の方を向いた。

「私は、ケント君に賛成。成功の蓋然性は十分だし、このまま何もせずに居ても仕方がない。どんな結末になっても、何も選ばなかったよりはいい。それに私……お父さんと話したいっていう気持ち、変わっていないよ」

 コーディアが言うと、イヴァルディさんは「僕の覚悟もだ」と応じた。

「佳境という訳だな」とゼドク。

「ロゼルの為なら、たとえ火の中水の中だぜ」とルクス。

「俺も、ケントの契約者なんだからな」とアロードが言い、シルフィも肯いた。

「ケント君……」

 ユリアは、俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。

「どうしたの、ユリア?」

「ケント君、ギアメイスの村を出た時と同じ目をしてる。私と一緒に旅をするって言ってくれた時の目と同じ」

 彼女に言われ、俺は思い出した。

『ブレイヴイマジン』が始まって、今日で七十日目。しかし最早、俺はこの世界をゲームだと、仲間たちの存在をNPCだとは思えなくなっていた。無論、頭の中では忘れた訳ではないが、その頭が心に追い着いていたのだ。

 俺はもう、違和感などは覚えない。

 この世界は、あらゆる可能性の存在する”もう一つの現実”なのだ、と。

(俺は……冷めてなんか、いなかったんだ)

 そう思った時、何故か涙が溢れそうになり、俺はそれを隠すように目を細めた。口元を笑みの形に変えると、理由もなく湧き上がった言葉を口にした。

「ありがとう、ユリア」


          *   *   *


 キグナス地区の酒場「北十字星(ノーザンクロス)」に辿り着くまで、何度か街中をうろついているパトリオットと遭遇した。しかし、俺たちはその人数差とモチベーションから、HMEで通報される前に勝負を速決し、街を進んだ。

 酒場に誰も居ない事を確認して入ると、俺は監視カメラを睨んだ。

「ここからが、勝負の分かれ目だな。恐らく、今から王宮に通信が入って、チャクラバルティンの起動命令が出されるはずだ。……アンセスがこの中に居るのかどうかは分からない。放送の後、移動してきた可能性だってあるしね。

 でも、ロゼルを本拠地に呼び寄せようとした以上、ブレイヴフォースの準備はこの中でされているはずだ。つまり……」

「ガーディが、この中に居る」

 ユリアが、ごくりと喉を鳴らした。「レーナやギデルが何処に居るのかは分からないけど、時間を掛ければ確実に戦う事になるよね。だって、退避命令でヴェンジャーズ全員がここに戻って来るはずだもの」

「入ったら、また手分け? ガーディと、マンティス総統と」

 ロゼルの問いに、ゼドクは肩を竦めた。

「さあな。それは入って、敵の居所を確かめてからだろう」

「それじゃ、早速」

 イヴァルディさんが、壁際の飾り棚をスライドさせ、地下への入口を開ける。が、その瞬間俺はあっと叫んでしまった。「イヴァルディさん、気を付けて!」

「うおっ!?」

 カサカサという音がしたかと思うと、中から魔物が五体這い出してきたのだ。ライオンの頭に、巨大な蟻の胴体。ぶるぶると顫動する膨らんだ腹から、筋状の隙間を伝って粘液がどろりと排出された。

「こいつは……ミルメコレオだ!」

 アロードが叫んだ。ロゼルが、彼の後を継いで話す。

「ミルメコレオはDクラスの雑魚敵だけど、スピードが凄いの。それに身を縮めた時の防御力は通常の三倍。あと、フェロモンで仲間を呼ぶ習性があるから、それも注意が必要ね」

「さすがロゼル!」

 ルクスは歓声を上げたが、そこで「えっ?」と真顔になった。

「フェロモン、って……」

 彼の視線が、蟻たちの零した粘液に向けられる。次の瞬間、粘液が零れた場所に魔方陣が展開され、地面を掘り起こすようにして更に三匹ずつの蟻が現れた。合計、二十匹。

「これじゃ鼠算式に増えるわね」コーディアが剣を抜く。

「更に追加を呼ばれる前に倒しちゃおう。行くよ、シルフィ!」

 ユリアが、メダルにシルフィを宿らせる。俺とゼドクも、それぞれのイマジンを憑依させる準備をした。「行くよ!」

「トランスフォーム『アロード・ファイヤー』!」

「『シルフィ・アクア』!」

「『ルクス・フォトン』!」

 俺たちが駆け出すと、同時にミルメコレオたちが糸状のブレスを放ってくる。危険を承知で俺たちが乗り込んでくるリスクは、ヴェンジャーズの方でも想定済みだったようだ。そして、自動的に増える魔物を用意し、俺たちの疲弊、あわよくば始末を狙った──。

 俺は魔物の糸を切断し、無防備な口元に反撃を叩き込みながら、敵も無策ではないなと考えた。六時間という時間がある事を、相手も考えなかった訳がない。中でも、足止めを行うべく更なる敵が待ち受けているに違いない。

捕牢(ホロウ)が来る! 避けて!」

「合点だ! 崩瀑陣(ホウバクジン)!」

 イヴァルディさんは射出された糸を避け、一体の頭部に剣先を突き刺す。魔物の一体は更にフェロモンを出す間もなく、絶命する。俺も他の仲間たちも、向こうの攻撃を誘い、こちらからのダメージ後にすぐフェロモンを出されないよう、反撃で一撃必殺を試みる。狭い店内では、ミルメコレオの特徴だというスピードも減殺されざるを得ない。

 ──ここで、ガーディさんや総統に辿り着く前に力尽きる訳には行かない。

 俺たちは優位性(アドバンテージ)を利用出来るだけ利用し、戦い続けた。

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