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『ブレイヴイマジン』第6章 ダークネス⑯


          *   *   *


 朝食の後、俺たちはゼドクの案内でヘルクレス地区に移動し、街の立体高架を走っている新幹線のような魔科学の乗り物──アステリズムというらしい──に乗り、西部の外れにあるシータス地区へ向かった。進むに連れて大きなビルなどは見られなくなり、道路も舗装されていない場所が多くなってくる。

 到着後、冬場だからか作物の栽培されている様子のない畑の中、畦道を二キロメートル程歩くと、辺りの様子はほぼ完全に野原となった。

「セイバルテリオみたいな大都市にも、こういう所はあるんだ」

 俺が呟くと、コーディアが「それはそうよ」と返してきた。

「都市っていっても、全てが人工物で出来ている訳じゃない。郊外に近づけば、大体こんな感じなのよ」

 現実世界の東京も、都市化されているのは中心部のみで、緑豊かな自然の多い地域も沢山あった。エヴァンジェリアでもそれは例外ではないようだ。

「今から我々が(おとな)うアルヴの名は、エルゼートという。彼はアルヴァーラントからやって来て、当時はまだ魔法使いとしては未熟だったようだ。故に、魔科学の聖地たるこのセイバルテリオに、先人たる魔法使いから学ぶ為に滞在している。とはいえ、如何にこの都がアルヴァーラントの景観からかけ離れて馴染みにくいとしても、これ程辺境では仕様があるまい」

「ゼドク、よく覚えているんだ」

「当然だ。台本を持って舞台に立つ訳には行かぬだろう」

 例によって、何処まで本気なのか分からないような台詞を言う。ルクスが無言の苦笑いを向けてくるので、俺たちは曖昧に微笑んだ。

 更に十分程進むと、行く手にぽつりと一軒家が見えてきた。後ろには(もみ)のような針葉樹が立ち並んでおり、「草原にある家」のテンプレートのような装いだ。ゼドクが微かに肯き、やっと目的地だ、と俺が安堵の息を()きかけた時、そこで起こっている異変が目に飛び込んできた。

 家の前で、ヴェンジャーズ兵数人が騒いでいた。彼らは玄関前を取り囲むように群がり、何かと揉み合っているようだったが、やがて後方の数人が道を空けるように左右へ分かれた。

 出来た隙間を、簀巻きのように絨毯で巻かれた少年を担ぎ、数人の兵士が進み出てくる。よく見ると少年の耳は長く、尖っており、俺がイメージする「妖精」そのものだった。彼が、ゼドクの言うアルヴのエルゼートさんらしい。

「な、何であいつらがここに!?」

 ロゼルが声を上げ、俺たちも皆目を丸くした。ここはロゼルと関係がない場所のはずでは、と思い、まさか俺たちの行動が、またもやヴェンジャーズに掴まれたのか、と嫌な予感が萌した時、ゼドクが低く唸った。

「魔法を御する(すべ)を持つ者であれば、このように賊の標的となるのか。一体何人の血を以て、連中は破局をもたらすつもりなのか」

「どういう事? 奴ら、何をしようとしているの?」

 ユリアが早口で尋ねると、ゼドクはそれには答えず、フォームメダルを構える。

「後程俺が語ろうとしていた話の中に含まれる事だ。今は、賊を裁き、エルゼートを救出する事が先決だろう」

「それは……そうだな」

 俺とユリアは肯き合い、彼に倣ってメダルを取る。イマジンたちはメダルに宿り、コーディアはロゼルを庇いつつ剣を抜いた。

 俺たちは変身し、コーディアに続いてヴェンジャーズ兵たちに向かって行った。


          *   *   *


 戦力差から、大して時間を掛ける事なく兵士たちは蹴散らされた。俺が最後の兵士の戦闘不能を確認し、納刀している間に、ユリアは変身を解いてエルゼートさんを拘束から解放した。

「もう大丈夫ですよ」

「あ……はい! 助けて下さって、ありがとうございます」

 彼は言うと、丁寧に頭を下げた。外見年齢は俺たちより幼く見えるが、アルヴの寿命は人間より遥かに長いとの事だった。もしかしたら、こちらよりもずっと年上なのかもしれない。

「エルゼート」ゼドクが、ルクスを分離させて彼に声を掛けた。「単刀直入に言う。俺たちを、ここに匿ってくれないか?」

「ゼドクさん?」

 驚いたように、エルゼートさんは視線を彼らに向けた。「ルクスさんまで……」

「俺たちは、お前が襲われた理由について心当たりがある。それに関する事で、この者たちは住む場所を追われたのだ。彼らには行く宛てがなく、訳があって街の誰かを頼る事も出来ない。だから当分の拠点を、ここに定めたい」

 ものを頼む時は出来るだけ普通の言葉遣いにしようと努力しているのか、彼はいつもの流暢は、台詞のような口調ではなく、ややぎこちない感じで言った。

「無論、お前に迷惑を掛けるつもりはないし、極力そうならないように努力して行動する。事情も、これから説明するつもりだ」

「……聴きましょう」

 エルゼートさんは数秒間考え込んだ後、倒れた兵士たちを見ながら言った。俺たちは彼に従って、家へと上がり込んだ。


          *   *   *


「フォールンが、ポラリスに運び込まれている事が分かった」

 俺たちの自己紹介と旅の目的、昨日までの出来事について話し終えると、ゼドクが俺たちへの説明も兼ね、ルクスと共に掴んだ情報を語り始めた。

「時間的にアンセス、及びパトリオットがユリアたちを拘束して本拠地へと輸送した後だろう。俺たちが現場を目撃したのは昨日の早朝だが、ケントたちが本拠地に乗り込んでいる間、既にフォールンが機能を喪失していた事から考えて、初めからヴェンジャーズの一部勢力が元来の計画とは異なる使用方法を打ち立てていたのだろう。それが、昨日になって発動された訳だ」

「でも、どうして? レーナは何も知らないみたいだったし、もしあの核融合エネルギーにフォールンよりも有用な使い方があるんだとしたら、それをマンティス総統に教えないのも……」

 シルフィが首を傾げると、ゼドクは「ややもすれば」と答えた。

「ヴェンジャーズの組織内に、組織とは異なる思惑で動いている者が居るのかもしれない。俺の推測が誤っていなければ、あのフォールンは使い方を変えた時更に強力な大量破壊兵器に転用出来る。都の魔法使いが集められているのも、その思惑を持った何者かだろう」

「魔法使いを集めれば、フォールンの威力が上がるの?」

「桁違いだな。人間に備わった魔法使いの素質とは、自然界のマナを体内に入れ、魔力を取り出すという、平たく言えば代謝に近い身体機能だ。無論、一定数の人間だけが特異体質という訳ではないだろう。ミッドガルドの人間は誰でもその、魔法酵素とでも表白すべき物質を有しており、魔法使いの素質がある者はその量が常人よりやや豊富なのだろう。故に……魔法使いの体組織さえあれば、無尽蔵にマナを集め、魔科学兵器の威力を底上げする事が出来る」

「セイバルテリオは百万都市だ」ルクスが補足する。「その二、三割が魔法使いだから、更にその一割弱集めるだけでも相当な数になるぜ。そうだな、フォールンに回路を繋いだ魔法使いを一、二万人殺しただけで、威力は……科学の方が分からねえからはっきりは言えねえけど、何倍かにはなるんじゃねえかな」

「そんなものをセイバルテリオの中心で爆発させたら、全体が吹き飛んじゃうわ」

 コーディアが、焦燥を帯びた声を出す。

「だけど、本当にそれだけなのか? この都を潰して、何のメリットがある? ロゼルを巻き込む可能性もあるし……」

 アロードの言葉に反応したのは、イヴァルディさんだった。

「もしかしたら、取り扱いの難しいフォールンを、何処かに運び出すつもりなのかもしれないね」

「運び出す?」

「ミッドガルドで最も太い地脈(レイライン)のマナ溜まりが、ポラリスの地下深くに流れているんだ。魔法使いを集めれば、フォールンに力を溜められるだけじゃない、マナの流れを地上に向かって逆流させる事も出来る。……何となく見ても分かると思うけど、セイバルテリオは城塞都市でもあるんだ、王宮は難攻不楽の砦にする為に、巨大なエレベーター構造になっている」

「それも、魔科学ですか?」とユリア。

「勿論。地脈のマナから大量の魔力を取り出し、そこに向かって流し込めば、居館(パラス)尖塔楼(ベルクフリート)を浮遊させる事も可能なんじゃないかな?」

「待って下さい、まだ航空……浮遊機構については、エヴァンジェリアでは未発達なのでは?」俺は、容喙せずにはいられない。

「無論そんな事をした記録は過去にないけど、ロゼルさん、どうかな? 魔法の出力で、垂直にあの重量を浮かばせる事は出来る?」

「無理じゃない……と、思いますけど」ロゼルは首を捻る。「輸送だけで、そこまでするかなあ? それこそ間違って王宮を崩したり、フォールンを誤爆させたりしたら一大事ですよ」

 彼女の言葉に、皆それもそうかと口を噤んだ。しかし、次に誰かが発言する前に、ロゼルは「待って」と言い直した。

「セイバルテリオだけじゃない……としたら?」

「えっ?」

「もし、ヴェンジャーズの誰かが、あたしのブレイヴフォースよりももっと手っ取り早く世界を滅ぼしていく方法として、フォールンを利用するつもりなんだとしたら。高い高度で爆発させれば、被害圏は広がる。それでも威力が減殺されないように、底上げをしているんだとしたら……」

 話を聴いているうちに、俺は背筋がぞっと粟立った。

 八人のイマジンのうちで、フォームメダルが手元にあるのは七人。魔物をイマジンの監視から解き放つ事によって荒廃を促進させるという本来のプランは、潰えかけている。マンティスはあくまでそれに固執しているからこそ──”力ある者”をじわじわと嬲り、苦痛の中で滅ぼそうとしているからこそ、ブレイヴフォース計画を続行しているが、ヴェンジャーズの中にはこの世界への復讐よりも解放を求めている人間も多い。彼らのうち何者かが、俺たちがここまで巻き返した事で業を煮やしたという可能性も、さもありなんと思えてくる。

 しかし……核融合エネルギーを利用した爆弾など、放射性物質を使用していないとはいえ実質的には水爆だ。その破壊力が、この世界ではまだ理論上のものだったとしても、それを実証させてはならない。そのようなものが利用されれば、エヴァンジェリアではヴェンジャーズの脅威を除く為、同様の大量破壊兵器の開発は進むだろう。それは世界を食い潰すし、マナの過剰な消費を招く。その結果、ユリアが危惧したように、魔神族によって更なる大量の魔物が発生させられ、世界の荒廃に拍車を掛ける事になる。

「どんな計画や思惑が渦巻いていたってさ」

 滞りかけた空気に、イヴァルディさんが破れ目を作った。

「発動させなきゃいい話だよ。一万人も街から魔法使いを拉致するなんて、ここ数日で始まった動きにしたら時間が掛かりすぎる。僕たちが阻止出来る可能性だって、十分に高いさ」

「でも……」エルゼートさんが、そこで不安そうに言う。「僕を襲ったヴェンジャーズは、かなり大勢でした。これと同規模の部隊を街中で動かそうとするなら、きっとその目論見を行っている敵は幹部級ですよ」

「それでも、だよ。ケント君たちは今まで、それと同じクラスの敵と何度も戦ってきた。それに、あんな物騒なものが王宮に持ち込まれたんだ。父上のみならず、家まで奪われそうになっている。僕はそれを、看過する気はない」

 ステファン王の死を目の当たりにした彼の言葉が、一瞬暗くなったようだった。だがそれは、すぐにいつもの飄々とした、しかし確かな決意を孕んだ声色になる。ゼドクが「当然だ」と肯いた。

「乱世の波濤に抗い、蔓延(はびこ)る賊と斬り結ぶ事。如何な状況下でも希望(ひかり)を求め、勇者で在り続ける事。それが、俺たちの義務であり天命であり、流儀。お前たちもそう思うだろう?」

「ゼドクさん……」

 エルゼートさんが、尊敬の眼差しをゼドクに向ける。

「憂う事はない。この魔科学の都は、我々がまた今までの如く、正の方向へ発展し得る土壌に戻す」

 彼の言葉に、俺たちは強く肯いた。

 初めて、彼が俺たちと同じ場所に立っているように感じられた。

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