『ブレイヴイマジン』第6章 ダークネス⑮
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夜襲を掛けてきたヴェンジャーズが撤退したのは、夜明けの事だった。
俺たちは、自警団がゼフレアさんたちの遺体を運び出すのをただ見つめていた。九人とも、何も言葉を出せなかった。
住民たちは、多くが路上に寝かされ、手当てを受けていた。地区を満たす悲鳴や怒号は、今や苦痛に呻く声や歔欷に置き換わっている。だが、それが少ないのは決して怪我人が少ないからではなく、既に多くの者たちがこの界隈から逃げ去ってしまった為だった。
「ヴェンジャーズ、あたし一人を捕らえる為に、こんなに……」
「いや、報復措置かもしれない。それなら、俺が不用心だった。ガーディさんを意識するあまり、すぐ近くで彼が見ていた事に気付けなかった」
ロゼルの独白に対し、俺は気休めでも慰められないかと思って言ったのだが、却ってユリアは「やめて」と言い、俺の右腕にそっと縋りついてきた。
「ケント君のせいじゃないよ。悪意を持っていたのは、ヴェンジャーズじゃん」
「だけど……」
「昨日のケント君、コーディアに言った通りだったでしょ。ガーディの事……倒そうとして戦ったんだよね?」
ユリアの言葉に、俺は唇を噛む。それは、レーナと戦ったユリアにも言える事だった。昨日の俺たちは、決着の着けられない自らの敵たちと、文字通り”殺し合い”を行ったのだ。結局彼らは、二個小隊を全滅近くまで追い込まれて逃げざるを得なくなったが──。
少し離れた場所で、黙々と遺体収納袋のファスナーを上げている自警団員の姿が見られた。無心に努めるように、顔を上げずに黙々と作業を続ける動作が余計に痛々しく、俺は首を振って仲間たちに言った。
「いや、やっぱり謝って来る」
彼らが何かを言う以前に駆け出し、自警団員の傍に向かう。「あ、あの……」
「………?」団員は顔を上げ、俺を見つめて口を開いた。「君は、火のブレイヴのケント君、かな?」
やはり、昨日の戦闘で彼らにも分かったのだろうか。
面食らったのと罪悪感で、コミュ障が再発してしまう。閊えながら「知っていたんですか?」と問うと、団員は「昨日聞いたんだよ」と言った。「ヴェンジャーズが言っていたんだ」
「その……昨夜の事は、本当に申し訳ありません。ヴェンジャーズは俺たち……えっと、我々を狙っているんです。奴らを引き寄せてしまったのは、ここにやって来た俺やユリアなんです」
「いや、それは違うだろう」団員は頭を振る。「ブレイヴフォース、連中はそう言っていた。それに、ロゼル本人が必要になるんだって。遅かれ早かれ、彼らはロゼルを狙ってここに来たはずだ。勿論、俺たちも彼女もコーディアも、責めるつもりはないよ。俺たちが責めたら……それは、何処に行っても責められなきゃいけない事になるだろう? それは可哀想だ」
「だけど、俺たちは……」
「逆にケント君たちは、住民の皆を救ってくれたんだよ。君たちが居なかったら、俺たちは皆殺しにされていただろう。だから、責任を感じている君には酷かもしれないけれど、ありがとうと言わせてくれ」
「………」
何も言えずに立っていると、彼はまた納体袋に向き直り、合掌して黙祷する。重い気持ちのまま振り向くと、ゼドクがすぐ後ろまで接近していた。
「殺戮は、実行されてしまったな」
いつも無感動な表情の彼でも、そう言った時の顔は心なしか沈痛そうだった。彼の後ろではルクスが、ロゼルを優しく労わっている。
「我々に時間があまり残されていない事は、これではっきりした。ケント、お前たちに、俺たちが集めた情報について語ろうと思う」
「……ああ」
俺は、重々しく肯いた。悲惨な事は起こってしまったが、だからこそ、確かにあまりここで落ち込んでいる訳には行かないのだ。
「だがその前に、まだすべき事が残っているだろう」
「拠点を変える事……だよね」
コーディアは、俺が反応するよりも早く言った。その声は、彼女自身もその事を覚悟していた、というような響きを帯びていた。
「私たちがここに居たら、またヴェンジャーズは襲撃を掛けてくる。そんな事が続けば、さすがに皆だって私たちへの不満が溜まるわ。それに、これ以上私とロゼルの周りに居たっていうだけで、誰かが犠牲になるのは嫌」
「だけど、何処に宛てがあるんだよ? パトリオットは相変わらずうろついてやがるし、そいつらが俺たちは危険人物だって触れ回ってる。何処に行っても、事情を説明する前に通報されちまうぜ」
アロードが言った時、ロゼルに寄り添っていたルクスが顎に親指を当て、考え込むような仕草を見せた。
「ゼドク、俺たちなら顔を知っている奴が居る。あいつに、匿ってくれるように頼むのはどうだろう?」
「あいつ? ……ああ、エルゼートか」
ゼドクは人名らしき単語を口にすると、熟考するように暫し目を閉じてから俺たちに向き直った。
「俺はこれから、一期一会の理に背く演技を行う。しかし、それはお前たちとの邂逅で既に遂行された事でもある。再会が佳局であり、作劇法の世に於いてもそれが布衍されるのならば」
「要するに、俺たちの顔見知りの所に置いて貰おうって事だ」
ルクスが言うと、シルフィが驚いたように顔を上げた。
「えっ、ゼドクって”孤高の士”なんだよね?」
「これ程大きな都で、知己を作るなという方が無理な話だろう」
「大丈夫、ゼドクが仲間って認めなくても、少なくとも信頼は出来る奴だ。悪い人じゃねえしさ、実力からしても、助っ人としてはこの上ないと思うぜ」
俺はピンと来て、「もしかして」と言った。
「魔術師? この街に多く居るっていう魔法使いの……」
「惜しいな。ギリギリ正解って言えなくもないけど、前提部分が違う」
ルクスはぱちんと指を鳴らし、ウインクした。
「妖精だよ」




