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『ブレイヴイマジン』第6章 ダークネス⑪


          *   *   *


 窮屈な姿勢で、音を立てないようにと神経を使いながらの探索は、時間の長さを異様に増幅させているような錯覚を起こさせた。とうとうその部屋──俺たちの剣、デュアルブレードとファントムブリンガー、更にはユリアたちのレジーナソード、スタインズマルケンが置かれた部屋を発見した時、部屋に人影がない事を確認して飛び降り、掛け時計を見ると、一時間半しか経過していなかったのだ。

 フォームメダルに宿り続けている間のイマジンたちは、これと同じくらいきつく、(つら)い時間を過ごしているのだろうか、と思い、俺はこの街での活動を始めてから街路を歩く間、ずっと彼らをメダルに封じていた事を申し訳なく思った。

「ここからは普通に廊下を歩くし、時間との勝負よ」

 コーディアは、部屋にあった戸棚を開けて紙とペンを見つけ出し、撫でるような手つきですらすらと地図のようなものを描いた。狭い通路を這い進みながら、時折通過する換気口から見える景色だけを頼りに、通ってきた場所の構造がどうなっているのかを全て覚えたらしい。凄い記憶力だ、と感心しながら俺がデュアルブレードの鞘を腰に着けていると、彼女は出来上がった構造図を手渡してきた。

「はい、ここからは手分けしよう。私はロゼルを探すから、ケント君たちはユリアとイヴァルディさんを。見つけ次第そっちに行けるようにするし、三対二になるはずだから大丈夫だと思うけど、もし増援を呼ばれたりしたらすぐに逃げて。あの二人は拷問で体力を削られているんだし、無茶だけは絶対にしちゃ駄目。それに、フォールンの事もある」

「分かった。コーディアにも、同じ事を言うよ」

「合点。でも私、そうなる前にロゼルのブレイヴフォースは止めるから」

 コーディアが答えた、その時だった。

「何処から入った、貴様ら!」

 突然、部屋の入口が開き、二人の兵士が現れた。しまった、と気付いたが、既に遅い。武器を保管しておいたこの部屋は、俺たちとユリアたちの誰かが脱走した時に備え、外の入口に見張りが配置されていたらしい。

 片方がHMEを取り出すのを見、俺とコーディアは同時に床を蹴った。が、既にその兵士はメッセージを吹き込んでいた。

「させるか! 覇山焔龍昇ハザンエンリュウショウ!」

 ブレイヴに変身していないのに、癖で叫びながら技の構えを取る。HMEを操作していたヴェンジャーズ兵は剣を抜くのが遅れ、俺の斬撃はその兵士を逆袈裟に斬り倒した。

 落下したHMEの画面を、反射的に見る。兵士が吹き込んでいたメッセージは、既にレーナへと送信されていた。

「遅かったか……!」

「仕方ないわ」

 コーディアはもう一人の兵士を斬り捨てると、きびきびとした口調で言う。

「私も不用心だった。今あの子が来たら、私たちは皆一網打尽にされて捕まえられちゃう。早く行動を開始しよう」

「よし、気を付けて!」

 俺は答え、ユリアとイヴァルディさんの武器を拾い上げると、アロードとシルフィと共に先に部屋を出た。

 コーディアが描いてくれた構造図をシルフィに読み上げて貰いつつ、その指示通り右へ左へと曲がる、廊下でもヴェンジャーズ兵たちと遭遇したが、それらは増援を呼ばれる前に片付けた。途中からはアロードを憑依させ、ブレイヴとしての力を惜しみなく使って時短を図った。

 本拠地内で、先程の兵士がレーナに俺たちの事を告げてしまったにも拘わらず、警報が鳴るような事はなかった。マンティス総統と魔術師アンセスがユリアたちの所に居る以上、騒ぎを大きくして基地内の損害が激しくなる事は防がねばならない、という判断なのか、それともレーナが、自分の手でゆっくりと俺たちを嬲るのを楽しみたいと思っているのか、俺には分からなかった。

 コーディアの構造図は正確で、俺たちはすぐに、ユリアたちの囚われている部屋に辿り着く事が出来た。入口の扉を開けるや否や、アンセスがまたもやユリアに鞭を振り下ろしているのが見え、俺はそこでかっと頭に血が昇った。

「この野郎ーっ!」

 普段は口にしないような台詞が迸り、俺はそれを気合いに変えて飛び出す。振り返ったアンセスの首の辺りに薙ぎを放ったが、彼は狼狽の声を上げながらも鞭で応戦してきた。当然の如く(しな)る鞭だが、俺の剣はそれによって減速される。そして、アンセスはその一瞬に逃さず自生魔法を使用した。

「プロヴィデンス!」

 風属性魔法のうち、最高位に位置する技。しかし俺の第一目標は、この男を倒す事ではない。

 魔方陣が彼の手に生じるや否や、俺は垂直に跳躍した。コンマ数秒前まで俺の居た場所に、緑色の光を伴う風の渦が出現する。

 それは、ヴァレイのフォービデン・ホロロゲインよりも高威力らしかった。無防備な状態で真面に喰らっていたら、木っ端微塵にされていただろう。だが、俺は戦慄しながらも動作を止めず、魔術師の両肩を踏みつけるように着地すると、彼を蹴り倒すように押し出して更に跳んだ。ユリア、イヴァルディさんの後方に降り、椅子の後ろで縛られた二人の手に剣先を滑り込ませる。

 両手の(いまし)めを解かれるや否や、ユリアは椅子を蹴って立ち上がった。純白のドレスには、幾筋もの血液の染みが付着していた。

「ケント君……!」

 ずっと堪えていたものを解放するように、彼女が目を潤ませた。口元が戦慄(わなな)き、今にもわっと泣き出しそうだったが、状況はまだそれを許さない。俺も彼女をひしと抱き締めたかったが、それをぐっと堪えて、代わりにメダルを差し出した。

「変身するんだ、ユリア。ここを脱出するよ」

 俺が言うと、入口で待機していたシルフィはすぐにメダルの中に吸収される。ユリアはこくりと肯き、口の中を切っているのか、やや閊えながらも変身コマンドを叫んだ。「トランスフォーム『シルフィ・アクア』!」

「ケント君、いいところに来てくれたね……これは、シルフィお嬢さんにもお礼を言わなきゃいけないな」

 イヴァルディさんは立ち上がると、弱々しいながらもいつも通りの口調で言い、微笑んだ。俺は二人に武器を渡し、アンセスとマンティス総統を睨む。

 俺の蹴りによってよろめいたアンセスは、やっと体勢を立て直して振り向いたところだった。その目には瞋恚(しんい)(ほむら)が宿り、鞭の柄を掴んでいる拳はぶるぶると震えていた。

「お前たち……レーナ様から聞いていないようですね、ガス管イグナイター、フォールン・セラフの事を!」

「聞いたよ。だから、止めなきゃいけないんだ」

 俺が言うと、アンセスは更に顔を歪め、何かを叫ぼうとする。が、その肩にマンティス総統が手を置いた。

「……アンセス。貴様にはポラリス王宮の件で、まだすべき仕事が残っている。まだ死なれては困るな」

 総統の目は、俺たちを値踏みするかのような、否、既にこちらの能力に見当をつけたというような鋭さだった。あたかも、戦う前から警戒と脳内での対策を組立てているようだ。

 魔術師アンセスは、ぎょっとしたように総統の杖を見た。

「その魔具を使われるので? しかし……」

「アンティーク同然だ、とでも言いたいのか? 案ずるな、それが現在まで現存している事に、そのスペックが窺い知れるというものだろう」

 下がっていろ、と言うと、総統は俺たちの方に進み出てきた。

 近づかれると、確かに彼にはヴェンジャーズの指導者に相応しい風格があった。貫禄というより、威圧感に近い。俺たちはぐっと息を詰め、後退(ずさ)りそうになる足を渾身の精神力でその場に繋ぎ止めた。

「ブレイヴ……レーナやギデルから、話は聞いている。だが、数多の困難を打破し、我が同胞たちの魔剣にも打ち勝ってきたその力……我ら力なき者が、持たざる者が希求の果てに勝ち取った力に(まさ)るものかどうか、我が身を以て確かめさせて貰おう。窮鼠が猫をも噛む事を、力ある者の代表者として、貴様らに知らしめてやろう。……受けてみよ、デッドスパークルの(いにしえ)の技を!」

 マンティス総統の杖が、俺たちに向けられた。俺とユリアは視線を交錯させたまま(しば)し逡巡していたが、イヴァルディさんは真っ先に覚悟を決めたらしく、カリンガを振るって動いた。

鬼神殿(キシンデン)!」

「ブレイザブリク!」

 デッドスパークルというらしい魔具の先端から、極太のレーザー光線のような光が迸った。イヴァルディさんはクロス状の斬撃と縦斬り、計三連撃の剣技を繰り出していたが、相殺されてその場で蹈鞴(たたら)を踏んだ。

「イヴァルディさん!」

 ユリアが駆け寄るが、その瞬間またしても光の奔流が生じ、床を薙ぎ払う。ユリアは足を取られて俯せに倒れ込み、その背の上を光が通過していく。俺はぞっとし、彼女を見、すぐに総統を睨みつける。

灼炎界破刹(シャクエンカイハサツ)!」

「甘い!」

 俺の突き技を、総統の杖が押さえ込む。細い杖の先端で一点集中の技を受け止めた総統は、俺を押し返しながら次の魔法を発動した。

「ロアリングビースト!」

 俺と総統の間に黒い炎が出現し、それが獅子のような顔を形作る。俺がおっと叫んだ瞬間、実体なき獅子はこちらの懐に飛び込み、胸甲の隙間から肉に牙を突き立ててきた。俺は吹き飛ばされ、ユリアの隣に落下する。

 イヴァルディさんが再起し、崩瀑陣(ホウバクジン)でもう一度攻撃を仕掛けていく。だが、彼が総統の制空圏に侵入する前に、第三の魔法、ガストロープニルの黒炎が彼らの間に壁を作った。

「エアロブレード!」

 アンセスの風属性斬撃系統技が、足踏みしたイヴァルディさんの胴を激しく薙ぐ。彼は「ぐふっ」と呻き、ひび割れた床に片膝を突いた。

「強すぎる……これが、セイバルテリオの魔法なの?」

 ユリアの呟きに、マンティス総統はデッドスパークルの一振りで応じた。

「イルミンスールの遺産を甘く見るなよ」

「………」

 魔具を使っているという事は、マンティス総統には魔法使いとしての素質は備わっていないのか、と俺は思っていた。しかし実際は、総統もアンセスも、ユリアが最初に言っていたようなセイバルテリオ出身の強力な魔法使いであり、総統の方は元々強い魔具の能力を自分の魔法技術で底上げしていたようだ。

「あんたの何処が、『力なき者』だっていうんだ……!」

 イヴァルディさんは呻きつつ、更に立ち上がろうとする。しかし総統は、彼の努力を嘲笑うかのように接近し、ガストロープニルを解いた。デッドスパークルの石突きに付いたエッジを、彼の頭上に振り被る。

「王子よ……あなたが無能の兆しを見せたばかりに、私の家族は破滅に追い込まれたのだ。組織の存亡を優先した私だが、格別の──しかも、私的な恨みだけは消せぬのだ!」

「やめろ!」

 俺は、大ダメージを(こうむ)って起き上がれずにいるユリアを後方に抱き抱えて退避させ、横からマンティス総統の横に滑り込もうとする。しかしその時、視界の隅で獰猛な笑みを浮かべたアンセスに、視線が引き寄せられた。

 彼の手が、俺に向かって突き出される。また強力な魔法が来る、と思った刹那、その予想は裏切られる事がなかった。

「ジャッジメント・プロヴィデンス!」

 炎を纏った竜巻。火属性、風属性魔法のそれぞれ最高技の合体。

 これは防ぎきれない、と思った時、突然部屋の側面の壁が崩壊した。俺はそちらに視線を引き寄せられ、回避や防御が疎かになった瞬間アンセスの複合魔術に左腕を掠められた。

 傷口から炎を注入され、器官内を蹂躙されるような激痛と共に、俺は倒れ込む。壁の崩壊に気を取られ、マンティス総統は振り下ろしかけていたデッドスパークルを空中で停止させた。俺は顔を上げようとし、その瞬間鳥の爪のようなもので頭を鷲掴みにされた。

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