『ブレイヴイマジン』第5章 サンダー⑥
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半壊したバウエ船長の船は、ドダイさんたちの船に結び付けられ、牽引される形で港まで運ばれた。そこには、消滅する前に解体されたロゴトゥムヘレの肉が積まれている。これで半月は沿岸部の住人が食糧に困らないぞ、と彼らは喜んだが、何だかあまり食べたくはないな、と、ユリアと囁き合った。
港に着くまでの間、俺たちはスティギオに、セルナに語ったのと同じ話をした。何度も繰り返した事なので、俺もユリアも、旅の話を効率的に語る術がすっかり身に着いていた。
「ブレイヴフォース……か。どんな事でも考えつくんだな、ヴェンジャーズは」
スティギオがしみじみと呟き、セルナが「でも」と言った。
「うちのブレイヴになるのは、スティ君だもんね。そしたらスティ君も、あの人たちを見返せる。もしもうちが……」
「セルナ。俺はもう誰かを見返すとか、そんな事はいいんだ。今の俺は山の猟師じゃない、海の漁師だ。そして、セルナとの生活がある。それだけで、もう十分じゃねえか。確かに、逃げたのは事実だけどさ」
スティギオの言葉に、組合の皆も黙り込む。セルナは「色々」と言っていたが、その事情は既に組合の者たちには伝わっているらしい。俺たちは深く詮索はせず、誰かが次の台詞を発するのを待つ。スティギオが、言葉を続けた。
「だけど、そのささやかな生活さえもヴェンジャーズが奪おうっていうなら、俺も全力で阻止するぜ。俺は今までも、ずっとセルナの為に戦ってきた。そして、あの時は敵わなかった奴らともう一回戦えるなら……願ったり叶ったりだ」
「ありがとう、スティギオ」
ユリアは微笑むと、前方に見えてきた陸地に視線を移した。
「でも、皆結構穏やかだったよね? 街にヴェンジャーズが入り込んだにしては、って感じだったから、まだレーナたちはここに来ていないのかな?」
「まっさかー。あたしたち、ランストゼルドを出たのは彼らより後なんだし、ユナモモ騒動で二日間足止めを喰らったのよ? あたしたちが追い越しちゃったっていうのは考えにくいと思うんだけど」
シルフィが言う。アロードは、「いや、もしかしたら」と応じた。
「あの村は封鎖されていた。それでヴェンジャーズは、峠を迂回するルートを採ったのかもしれねえぞ。それだと大回りになるから、俺たちより後に街に着くって可能性もねえとは言い切れねえだろ」
「それもそうか……」
「それに」セルナは、控えめに手を挙げて発言した。「ユリアちゃんたち、マウンテンエリアにはまだ行っていないんだよね?」
「マウンテン?」
「ブレディンガルは、三つのエリアに分けられるの。この港町がシーサイドエリア、中央の石造りの建物が密集している一帯がセントラルエリア、山の猟師たちの集落がある辺りがマウンテンエリア」
「ああ、山の集落ね。確かに、まだ行ってないわよ」
「うちら、太刀使いに襲われた時はマウンテンエリアに居たからね。もしかしたら奴ら、山で捜索をしているのかもしれない」
セルナの呟きを聞き、確かにそうかもしれない、と考える。街に戻ったらまず、山の上まで登り、集落まで行ってみよう。
俺は早速それを提案しようとしたのだが、その時スティギオが顔を強張らせた。
「あそこか……」
彼の呟きを聞き、どうかしたのか、と尋ねようとした俺は、すぐに自分の迂闊さに気付いて恥ずかしくなった。スティギオとセルナは、山の集落から逃げてきたという話だったではないか。今では彼らに追手が掛かっているという事もないようだが、それでも彼らが山へと足を運ぶのは、まだ気持ちの上でかなりハードルが高い事なのかもしれない。
ユリアも気付いたらしく、ぱっと輝かせかけた表情を再び沈ませた。スティギオは俺たちの心情の変化を察したのか、慌てた素振りで両手首を振った。
「ああ、すまん。話は……セルナから聴いているよな?」
「ごめん、スティ君。うちもすっかり頭から抜けていた。今回はうちらも、皆と共同で作戦に参加するんだから」セルナが言う。
「大丈夫よ、山の集落への聞き込みは私たちだけでする。それで何か手掛かりが掴めたら、そこから二人に協力して貰う事にするわ」
ユリアは数秒間考え込み、そう言った。
「もし山に、本当にレーナたちが居たら……その時も、私たちだけで戦う。ブレイヴフォースを阻止する最良の方法は、イマジンを彼らに接触させない事だから。でももし、別行動をしたヴェンジャーズの誰かが、私たちの居ない間にセルナを襲ったら大変だから、スティギオはセルナの傍に居てあげて」
「何か、色々すまないな。これは俺たちの問題なのに……」
「心配するなよ、スティギオ」
俺は、彼とセルナをしっかりと見ながら言い切った。
「君だって、セルナをここまでずっと守ってきてくれたんだ」
「それじゃあ俺とセルナは」スティギオは、少し考えた後に宣言した。「俺たちは、セントラルエリアで聞き込みをする。街にヴェンジャーズが居る可能性だって、否定は出来ない訳だからな。まだ街の皆に広まっていないだけで、探せば見た人が居るかもしれないから」
「分かった。そうなると、私やケント君が一箇所に固まるのも危険かもね」
「それじゃ、俺とアロードがマウンテンエリアに聞き込みに行くから、ユリアとシルフィは、シーサイドエリアを頼む。何かあったら……そうだな、伝書は特になくてもいいから、スティギオが海鳥を飛ばして合図をして。今日、岬の家に連絡してきた時みたいに」
俺が言うと、皆がそれでいこう、というように肯いた。
取り敢えずの方針はこれで決まりだな、と俺が得心した時、そこで漁業組合の人たちが、何やら物珍しそうな目でこちらを見ているのに気が付いた。
「な……何ですか?」
何故かやや気恥ずかしい気がして、俺は誰にともなく尋ねる。ドダイさんが、「いや、何というか」と口を開いた。
「最近の若い子たちも、自分たちでそうやって意見を出し合って、ヴェンジャーズと戦うなんて事も出来るようになっているんだからなあ。感心しちまうよ、俺もそういう頼りになる息子が欲しいもんだ」
「組長の婚期は手遅れでしょう、もう」
誰かが茶々を入れ、ドダイさんは「誰だ悪口を言った奴は」と顔を顰める。
ユリアは微笑むと、俺の右腕に自分の両腕を絡めてきた。胸が当たらないように気を付けながら肩に顎を預けてくるので、俺は気恥ずかしさに更に追い討ちを掛けられて赤面する。
「ケント君は特別なんですよ。私の自慢の彼です。ねっ?」
息子にはあげませんよ、と彼女が言うと、シルフィが突っ込んだ。
「その言い方だと、ユリアちゃんがケント君のお母さんみたいに聞こえるよ」
「もう! シルフィの馬鹿!」
ユリアが頰を膨らませ、その愛らしい仕草に皆が和んだ。
港に帰る頃には、夕方四時をとうに過ぎていた。昼を抜いた組合の男たちは、その場で捕獲したロゴトゥムヘレの肉を網焼きにしたが、これにはさすがに、俺やユリアたちは食欲をなくした。
が、空腹で胃が痛むので、組合の特製ダレに浸したそれを恐る恐る口に運ぶと、これがそれなりに美味だったので少々悔しいような気分になった。




