『ブレイヴイマジン』第4章 グランド⑬
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帰りは急な上り坂となる洞窟からの脱出は、下る時よりも更に労力が要るものだった。今度はタイタスの制限時間がないので焦燥はなかったが、その分疲労が重く俺たちに伸し掛かっていた。
魔物や瘴気の影響を受けない横穴を見つけてその日は野宿をし、俺たちが脱出したのは翌日の夕刻だった。
「帰って来たあーっ!」
工房まで辿り着くと、シルフィは伸びをし、心の底から出た本音のような口調でそう叫んだ。
考えてみれば、今までのフォームメダル奪還作戦の中で、最も日数を掛け、最も危険度の高い冒険だった。極度の緊張から解放された事による疲労も凄まじかったが、それ以上に俺の心を満たしていたのは達成感だった。
「……ジーゼイド」
タイタスは、腰を曲げてストレッチをしているジーゼイドさんに言った。その手には、完璧な姿に戻ったフォームメダルがあった。
「本当にありがとう。あんたには、感謝してもしきれねえよ」
「私は鍛冶師として、そして友として出来る事をしたまでだ。タイタス、お前が本当に感謝を伝えるべきは、そちらの四人だ」
ジーゼイドさんは少々はにかみ、俺たちの方を示す。タイタスはこちらにも向き直り、改まった態度で頭を下げた。
「ケント、ユリア、アロード、シルフィ。この五日間、色々ありがとう。本当に、皆にはお世話になった。どうお礼をしたらいいか……」
「何言ってんだよ、タイタス」アロードは、タイタスの肩をぽんと叩いて爽やかに微笑み掛ける。「俺たち、親友じゃねえか」
夕日の下で笑い合う二人を見ていると、俺も自然に笑みが零れてきた。
俺たちは暫らく彼らを見つめ、微笑していたが、やがてシルフィが発言した。
「あの、一つ提案があるんだけど」
「どうしたんだ?」タイタスは、笑顔のまま振り返る。
「タイタスとジーゼイドさん、契約していないって言ってたでしょ? それ、今結んじゃったらいいんじゃないかな?」
「えっ?」「それは……」
彼ら二人は、顔を見合わせる。ジーゼイドさんが口を開いた。
「私は、本職が戦闘ではないぞ? 今回とて、あなた方に比べれば決して戦闘面に於いて、活躍出来たとは言い難いが……」
「ブレイヴフォースを破ったタイタスを見て、お分かり頂けたでしょう?」シルフィは、首を振って言う。「イマジンとブレイヴが本当に繋がっていられるのは、心の繋がりがあってこそです。今回、ジーゼイドさんはタイタスの為に持てる力全てを使って、理に挑みました。それ程にイマジンを想う心は、戦闘力以上にブレイヴに相応しいものなんですよ」
「……確かに、俺もそう思う」
黙ってシルフィの言葉を噛み締めていたタイタスは、そこでゆっくりと肯いた。ジーゼイドさんに向き直り、手の中に握り締めたフォームメダルを差し出しながら言葉を紡ぐ。
「ジーゼイド。平和になった世界を、一緒に見よう。魔物による災いを断って、こんな冒険を、いつか逸話として笑って話せるような日が迎えられるように……契約してくれないか? 俺のブレイヴになってくれ」
ジーゼイドさんは神妙な面持ちでそれを見つめた後、ふっと笑った。その顔に、光が差したように見えた。
「……喜んで。これからも、宜しく頼む」
俺たちは、手を叩いて歓声を上げた。ジーゼイドさんは更に続ける。
「共に戦おう、世界の為に。明日からはまた、ケント君たちは別の地へと進んで行くだろう。それでも、私たちの戦う理由──志は同じなのだから」
彼は言葉の最後に、俺たちの方にも視線を向けた。俺たちも肯き返す。
「進んで行く道は、異なりますけど……」
「それでも、同じ朝を迎える事は出来るから」
「はい!」
俺は、とても幸せな気分だった。
ここでまた一つ、人と人との繋がりが生まれた。この旅では、何度もこのような場面を目の当たりにし、その度俺は少しずつでも変われている気がした。
残るイマジンはあと二人。新たな繋がりは、また生まれるのだ。




