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『ブレイヴイマジン』第4章 グランド⑨


          *   *   *


 結局その夜は、アロードと互いに体を支え合い、仮眠を取りながら歩き回った。いつ日付が変わったのかは分からなかったが、俺たちの疲労が取れてきて、交替で眠る必要がなくなった頃、洞窟の奥から聞き覚えのある音が耳に届いた。

 一昨日、もしくは昨日、一日中ジーゼイドさんの工房から聞こえていた鍛冶用ハンマーの音だ。俺とアロードは互いに励まし合いながら、道が合っていた事を喜び、地下へと降りて行った。

 やがて、前方に光が見えてきた。行く手の突き当たりに洞窟の出口のような穴が口を開け、光はそこから漏れてきている。そこを抜けると、道は若干の上り坂となり、やがて信じられない光景が目の前に広がった。

「俺たち、山を地下に降りてきたはずじゃあ……?」

 アロードが、呆然と呟く。

 そこは、山頂のようだった。周囲を高い岩壁に囲まれているものの、何処からか光が溢れてくる。天井付近は相変わらず見えないが、それは闇によってではない。ゼドクの言っていた通り、澄んだ白い光が頭上を満たし、それはあたかも空から洞窟の中へ光が差し込んでくる様にも似ていた。

 岩壁からは、無数の結晶が生えている。その色は、見慣れたフォームメダルのものと全く同じだった。

「これが、魔鏡石?」

「無事だったか、ケント君、アロード君」

 音の源──工具を開き、金床(アンビル)の上でハンマーを振るっていたジーゼイドさんは、俺たちの方を見て言った。俺は「何とか」と答えながら、彼の方に近づく。傍には、昨日採掘したと思われる魔鏡石と鶴嘴(ピッケル)が置かれている。少し離れた場所には、ユリアとシルフィが抱き合うように眠り、タイタスが膝を抱えて座っていた。

「んん……っ。駄目だよケント君、そんな事しちゃあ……」

 ユリアは夢を見ているのか、可愛らしい声で何か寝言を言っている。俺は微笑み、彼女にも「お疲れ様」と声を掛けた。

「ジーゼイドさん、今は何時ですか?」

「午前六時だな。私は一時間前から作業を始めたのだが……」

 ジーゼイドさんの顔には玉の汗が浮かび、その息は荒かった。しかし、それらには熱がなく、青褪めた血色は寒々しさすら覚えさせる。どうやら相当、魔鏡石からのフィードバックが激しいらしい。周囲に剝き出しの石がある事も、相俟って彼を消耗させているようだ。

「ジーゼイドさん……本当に大丈夫ですか?」

「ああ、昨日も経験した事だ。あなた方もフォームメダルは持っているが、干渉を受けたりはしないだろう? 恐らく、加工が済んでしまえば問題はないのだろう。あと少しで……」

「無理は、絶対にしないで下さい。色々ありましたけど、俺たちは予定通り、一日でここまで辿り着く事が出来たんです。あとは、ヴェンジャーズが何かを仕掛けてこないかですが」

「あのコンデムたちは何処かに居なくなった。もしかすると、地中からまだ私たちを窺っているのかもしれない。ケント君とアロード君は、引き続き警戒に当たって欲しい」

「了解しました」

 俺は、周囲の地面を見回す。少なくともコンデムは、俺たちを最深部へと導く事はした。攻撃も、特にしてこなかった。俺たちのフォームメダル修復を妨害しよう、という意図で誰かが差し向けてきたものではなかったらしい。だが、タイタスが魔物の統制を失った今、彼らが単なる人間への親切で動いているとも考えにくい。それは、皆思っていた。

 俺たちが見張りを始めて十数分後、ユリアたちが目を覚ました。彼女らは俺とアロードの姿を認めると、飛びつかんばかりに尋ねてきた。

「ケント君! 大丈夫だったの!? ガーディは……」

「何とか動きを封じるつもりだったけど、ゼドクとルクスが助けてくれた。でも、もしガーディさんが彼らを振り切って、追って来たら……」

「私、ケント君だけには任せない」

 ユリアは、宣言するように拳を握り締めた。

「ケント君が私の事、守ってくれるのは嬉しい。王子様だって思う。だけど、ガーディに元々狙われていて、彼と戦わなきゃいけなかったのは私。それは、私も忘れないから」

「ユリア……」

 俺は彼女を頼もしく思いながらも、可能であればそのような事態にはならないでくれ、と心の底から祈った。俺自身も決意を固めたばかりだが、決意とは本来そのようなものなのだろう。


          *   *   *


 ジーゼイドさんが作業を終え、メダルに紋章を刻み終えると、それはタイタスに手渡された。時刻は午後三時となっている。

 これでもし失敗だったとしたら、万事休すだ。魔鏡石に囲まれた空間で佇むうち、俺やユリアにもその効果は影響を与え始めていた。イマジンたちには大した事はないようだが、息が苦しく、体が重くなってくる。恐らくはこれ以上の干渉を受けながら作業を行ったジーゼイドさんは、もう限界に近いはずだ。

「……じゃあ、やってみるよ」

 タイタスはメダルを受け取ると、三日前と一昨日にしたように、手の上に載せて目を閉じる。俺たちは祈るような気持ちで、彼が再び目を開け、言葉を発するのを待った。

 そして──永遠にも感じられる数分の後、彼ははっと目を見開いた。

 成功か、と思い、俺たちは一瞬湧き立った。だが次の瞬間、タイタスの口から飛び出したのは、俺たちの期待を遥かに超えて鬼気迫るものだった。

「皆、避けろ!」

「えっ!?」

 俺は叫びながらも、脊髄反射的な速度でその場から跳び退()く。ユリアやイマジンたちもバラバラの方向に跳んだが、消耗したジーゼイドさんは出遅れた。彼が呻き声を上げた、と思った時、激しい震動を伴って地面から魔物が現れた。

 樽の如く太く、膨張した胴体を持つ土竜(もぐら)の魔物。その太鼓腹には針めいた剛毛が生え、口には凶悪な乱杭歯が覗いている。魔物はジーゼイドさんの足に噛みつき、地面から這い上がりながら吊るし上げた。

「ジーゼイド!」

「タイタス、避けて!」

 叫んだタイタスを押し退()けるように、ユリアが飛び出した。変身しないままレジーナソードを抜き、スピニングマリンで魔物の後頭部を強撃する。

「ゲアアアッ!」

 本物の土竜であれば絶対にそんな(ふう)には鳴かない、というような歪んだ太い声を上げ、魔物が口を開く。噛みつかれたジーゼイドさんは真っ逆さまに落下したが、さすが戦闘職兼務なだけであって、彼は顎を引いて頸椎を守り、両腕全体を使って受け身を取った。

「コンデム……?」俺が呟くと、

「いや、あれはビファドルドだ。コンデムじゃねえ、その親分だな」

 タイタスが答えた。ジーゼイドさんに手を差し出して起き上がらせ、「怪我はしてねえか?」と尋ねる。彼は肯き、起き上がってヴァンガードアームズを抜いた。俺は慌てて止める。

「ジーゼイドさんは休んでいて下さい。ここは俺たちが……」

「俺たちが、どうするの? ねえ、ケ・ン・ト・君?」

 最深部の入口から、挑発気味の声が飛んできた。俺ははっとしてそちらに目を向ける。ビファドルドが唸り声を上げ、壁際で土煙が立った。

 洞窟の入口に、レーナ、ギデルが立っていた。レーナは「はい、お疲れ」と言い、ブレスレットを回す。土煙の一つが動き、誰かが声を出すよりも早くタイタスの方に黒い矢のような影が飛んだ。

「うわっ!」「タイタス!」

 ユリアが叫んだが、彼女もまたその場で足踏みをした。

 彼女の背後から、コンデムの一体が組み付いたのだ。攻撃をするでもないが、彼女はバランスを崩してよろめき、タイタスに飛び掛かった影の動きを阻止する事は叶わなかった。

 タイタスの腕を、コンデムが掠めた。彼の(てのひら)から一筋血飛沫(しぶき)が飛び、その朱の緒を空中に引き摺るようにして、魔物は俺の頭上を跳躍する。その口から何かが飛び出た、と思った時、既にそれはレーナの手の中にあった。

「直してくれてありがとう、タイタスのフォームメダル」

 レーナが指で摘まんでいるのは、ジーゼイドさんによって修復されたフォームメダルだった。一瞬で、彼女は俺たちからそれを略奪したのだ。

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