『ブレイヴイマジン』第4章 グランド④
* * *
破砕したフォームメダルの欠片を拾ってみると、細かく砕けてはいるものの、繋ぎ合わせれば歪ながらも一応円形にはなった。タイタスはそれがバラバラにならないように持ち、目を閉じる。どうやら、以前と同じようにメダルを通じ、魔物の様子を窺う事が出来るか試してみるらしい。
二、三分間、タイタスは動かなかった。俺たちが息を詰めて見守る中、彼はやがて徐ろに目を開け、残念そうに首を左右に振った。
「駄目だ、機能が完全にイッちまっている。俺はやっぱり、魔物の監視者じゃなくなっちまったんだな。……今のところは」
「となると、規定通りイマジスハイムに連絡が行って、三日後に後任者が派遣されるのを待ってお前は帰る……しかねえのか」
アロードは言ったが、「駄目だ」とすぐに自分で打ち消した。
「イマジン本人が寿命やら事故やらで死を迎えたならまだしも、メダルを壊されたせいで無能者になった事例なんて過去にねえ。タイタスが今世代に選ばれたのは、能力が高かったからだろ? イマジスハイムに帰って、後任者にもしもの事があったとしたら……次にまた、お前が選ばれる事になる。それじゃ、一人のイマジンに機会が二回与えられる事になって……ルーラーは、そんな不平等を許そうとはしねえ。良くも悪くも、ルーラーは神そのものだからな」
「って事はタイタス、このままイマジスハイムに帰ったら……」
ユリアは、恐る恐る口を開く。タイタスは、重々しく首肯した。
「ああ。俺は間違いなく、理の名の下に殺されるだろうな。その相手が、ヤークトからルーラーになるだけだ」
「タイタス、どうしてそんなに落ち着いていられるの? あたしやアローちゃん、本当に心配しているのに……」
シルフィは、心なしか咎めるような口調でタイタスに言う。彼は軽く頭を振ると、無理矢理かもしれないが微かに笑った。
「俺は『今のところは』って言ったんだぜ。後任者の派遣までは、あと三日あるんだろ? その間に……俺は、あいつに賭ける」
「あいつ?」
「そうじゃなきゃ俺も、イマジンのアイデンティティを自分からぶっ壊すような事はしねえよ」
タイタスは、砕けたメダルを拳の中に握り締めた。
「フォームメダルを修復するんだ。ここはランストゼルド、優秀な職人たちの村なんだぜ? そして俺が拠点にしている鍛冶屋の、経営者の男が特にいい腕を持っているんだ」
「あっ、それで……!」
シルフィは、早くも気付いたように彼の作業服を指差す。俺とユリアも、アロードも、そこではっと希望を込めた眼差しで彼を見つめた。
「そうだ、俺はそこの仕事を手伝っている。こうして村から出てきたのも、素材集めをするつもりだったんだ。……まさかヴェンジャーズに襲われるなんて、思ってもみなかったぜ」
* * *
草原を更に十分程歩くと、村に到着した。建物は排気用の煙突が付いた石造りの二階建てが多く、それらは一階は店舗、二階は彼らの住居になっているらしい。看板の上のベランダには、洗濯物などが見えた。
タイタスは入口から少し離れた所にある一軒の建物に行き、扉を開けた。入口には例に漏れず看板が掛かり、「Geezaid's Atelier」と書かれていた。
「ジーゼイド、仕事中すまん」
「失礼します……」
俺は軽く声を掛け、戸口を潜る。店内を見回すと、武具や農具、蹄鉄、装飾品などが並べられており、意外と鍛冶で作られるものは何でもあるのだな、と思った。中には木の実で作られたアクセサリや宝石なども陳列され、店名が「鍛冶工房」ではなく単に「工房」となっている理由が分かった。
奥にあるカウンターには、革エプロンを着、黒い指なしのグローブを嵌めた男性が座って何やら計算をしていた。真剣な表情であったものの、タイタスが声を掛けるとすぐに顔を上げた。
「タイタスか。戻らないから心配したぞ、一体何処まで行っていたのだ?」
「ヴェンジャーズに捕まっちまった」
タイタスは、わざとなのか軽い口調でさらりと言った。ジーゼイドと呼ばれた男性は、筆記を行う手を止める。
「彼らは、既にお前からフォームメダルを略奪したはずだ。何故、お前本人を捕まえる必要がある?」
「それは……この四人が知っている」
タイタスは一歩脇に避けると、俺たちを示した。俺は前に出、名乗る。
「ケントです。こちらは仲間のユリアと、イマジンのアロード・ファイヤー、シルフィ・アクア」
「ジーゼイドです。鍛冶屋だが、細工師や鉱山警備員の仕事も兼ねている」
男性は腰を四十五度折り、丁寧なお辞儀をしてきた。第一印象は、職人気質の真面目な人、という感じだ。
客ではない事を示したが、リビィや、アスターク、マティルダ兄妹の時とは違い、ピンチに介入した訳ではない、初対面だがどう切り出すべきか、と俺は暫し頭を悩ませた。が、俺が逡巡している間にユリアが発言した。
「鉱山警備員って事は、ジーゼイドさんは戦闘職兼務なんですか? それじゃあ、タイタスとブレイヴの契約なんかは……?」
「いや、あくまでそちらはボランティアとしての活動だから。私の本職は生産職の方で、最高傑作の両手用戦斧、ヴァンガードアームズを使用する事も殆どない。経営が厳しくなったら、売却するつもりですらいた」
ジーゼイドさんは、カウンターの向こう側に立て掛けられた無骨な斧を指差す。確かに、主武器にしては新品同然のように見えた。
「だから、タイタスとの契約はしていない。無論、戦えぬ訳ではないが……ユリア嬢とケント君、だったな。あなた方は、そちらのイマジンのお二人と、ブレイヴの契約を?」
「はい。幸い、この二人はまだメダルを奪われていませんから。しかし、タイタスには……お気の毒な事をしました」
ユリアは、そっと目を伏せる。タイタスが進み出、ジーゼイドさんの座るカウンターの台上にフォームメダルの欠片を置いた。
「これは……!」
「俺、やっちまったよ」
ジーゼイドさんが目を見開くと、タイタスはぽつりと言った。
* * *
俺とユリアは、口々にブレイヴフォースや今までの旅について語った。タイタスとジーゼイドさんは時折簡単な質問を挟むだけで、信じられない、などと余分な容喙はせずに話を聴いてくれた。
話が先程の事まで及ぶと、最後はタイタス自身がイマジン・ヤークトによる急襲の事を語り、一段落した。最早あちこちで何度も繰り返した説明なので、俺たちは簡潔かつ的確に説明する術を身に着けていた。話が終わると、ジーゼイドさんは唸り声を上げて腕を組み、考え込んだ。
「なるほどな。それで彼らがタイタスを……しかし、まさか半ば伝説上の存在と化していた、ヤークトまでが姿を現すとはな」
「ヴェンジャーズによる、イマジンの弱体化による世界のヘルヘイム化。そんな出来事は、確かにエヴァンジェリアの歴史上ありはしなかったからな。イマジンが自決をする必要も、それを渋ってヤークトが派遣される事も、今までは全部例えばの話に過ぎなかったんだ」
タイタスは言うと、台上に両手を突いて頭を下げた。
「頼む、ジーゼイド! フォームメダルがこのままじゃ、俺は三日後イマジスハイムに送還される。そして、理によって殺されてしまうんだ! これを……あんたが直す事が出来るなら、それを頼みたいんだ!」
「俺からも頼む!」
アロードも、彼の横に手を突き、額を擦りつけた。
「タイタスは、俺たちにとっても友達だ。こいつが自分からフォームメダルを犠牲にしたのは、俺たちを助ける為だった。それでこいつが死ぬような事になるなんて……ダチの命を犠牲にして生き延びるなんて、俺はごめんだ」
お願いします、と、俺、ユリア、シルフィも頭を下げる。ジーゼイドさんは断片を手に取り、暫し検分した後「そうだな……」と呟いた。
「難しい作業になるだろう。だが、タイタスを友と思っているのは、私とて同じ。特殊魔力の宿った石など、人間が加工したらどうなるのかは分からないが……やれる限りの事はやってみよう」
「宜しくお願いします!」
俺たちは、声を揃えて強く肯いた。




