『ブレイヴイマジン』第3章 クライメット①
ヴァレイのフォームメダルを取り戻してから、一週間後。ゲーム『ブレイヴイマジン』が開始されてから、十三日目だった。
俺とユリア、アロード、シルフィは、異国風の街並みが続く大都市の入口に立っていた。街の名は「フレイリオス」、石畳の地面に、赤褐色の屋根を持つ煉瓦造りの建造物が多く立ち並んでいる。人は多く行き交い、馬車の往来する音や人の声など、活気に満ちた雰囲気を醸し出す音が四方から飛んでくる。
「それにしても凄い街だな……」
「ねっ、情報収集には向いているでしょ? ミッドガルド王都、セイバルテリオの姉妹都市。でも、あっちよりも世界樹ガオケレナに近いし地脈は濃いし、発展してるっていえるかな。シェリカに会うには通らなきゃいけない街だし、丁度いいんじゃないかな?」
ユリアは、すらすらと固有名詞を混ぜながら説明する。
俺たちがこの街に立ち寄った目的は、空属性のイマジン、シェリカ・クライメットに関する情報を収集する事だった。彼女はこのフレイリオスの隣町ハルバードルズに拠点を置いているらしい。
シェリカの統率する空属性の魔物は、天候を操るスキルを有している、との事だった。彼女がそれらを監視出来なくなり、野放しになると、日照りや豪雨、極端な気温の変化などが起こる。現在ミッドガルドに起こっている異常気象は、大部分は空属性の魔物が原因と言っても過言ではなく、実際この周辺の村に於ける農作物への被害は想像を絶するものらしい。
シェリカからフォームメダルを奪ったのは誰なのか、どのような状況だったのか、奪還作戦を開始する為にも情報は必要だった。
ハルバードルズへ行く為、このフレイリオスという大都市を通る事はあらかじめユリアから聞いていたが、実際に訪れるとその規模には圧倒された。エヴァンジェリアに来て、初めてこれ程大きな街を見た。しかも現実世界で俺が住んでいた東京などとは一風変わり、「ファンタジーに登場する大都市」という感じで、これもまた趣がある。
この街が、全て3DCGを用いて造られたデジタルデータなのだ。改めて、クリエイター・黒田氏の情熱と技術力、そのモデルをビジュアライズするサイコドライバーの性能には舌を巻かざるを得ない。
「平和な時代だったら、こういう街でケント君とデートしたいところだけど……」
ユリアは言うと、声を潜めて俺に囁いてきた。
「こんなに大きい街だと、ヴェンジャーズが紛れ込んでいてもおかしくないよ。時短も兼ねて、ここからは別行動でいこう。私とシルフィはショッピングエリアを中心に聞き込みするから、ケント君とアロードは観光エリアを中心に調べてくれる? 二時間経ったら……」
彼女は、俺たちの居る街の入口の門から程近い広場に視線を向け、その一画にあるカフェを指差した。
「あのテラス席で待ち合わせ! いい?」
「分かった」
何だか本当にデートみたいだな、と思いつつ俺は肯く。ユリアはパンッと両手を鳴らし、シルフィと共にショッピングエリアの方へと駆け出した。
「じゃあ、また後でね!」
──後でね、か。
俺は、何やら高揚感のような気分を感じていた。現実で、このように女の子と待ち合わせの約束をした事などない。だがすぐに我に返り、頭を振りながら「浮かれている場合ではない」と思い直した。
「じゃあアロード、俺たちも行こう……って、あれ?」
言いかけ、俺は広場の奥のベンチに人影を見、おや、と動きを止めた。
ガーディさんが、そこに座っていた。誰か、人を待っているようにも見える。
(どうして、ガーディさんがここに? 俺たちを待ち構えていた? まさか、本当にこの街にヴェンジャーズが?)
「ごめん、アロード!」俺は瞬時に思考を巡らせ、アロードに言った。「少しここで待っててくれ。二分以内に戻るから」
「あ、おいケント……」
彼の返事も待たず、俺は駆け足で広場を横切り、ガーディさんに声を掛けた。
「あの……!」
いつもの切り出し方で発声したものの、何と言ったらいいのか考えていなかった。お久しぶりです、では皮肉めいているだろうか、などと考えていると、ガーディさんは頭を上げ、彼の方から口を開いた。
「ケントか。こんな人の多い所で俺と話していると、お前までヴェンジャーズに間違われるぞ。何の用だ?」
その言葉を聴き、俺は少々安堵した。この間スピナジアの村で話した時のような冷たさはなく、最初に宿屋で言葉を交わした時のような、ぶっきらぼうながらもこちらを気遣ってくれるような雰囲気を感じる。口調で分かる。
そう思い、俺は「あれ?」と自分で首を傾げた。
俺はこんなに、人の心情を敏感に察する事が出来る人間だっただろうか?
返事を忘れて黙り込んでいると、ガーディさんは続けて言ってきた。
「用がないなら、すぐに去れ。レーナがお前たちを探している。それにここには、あいつと同じ三侯のギデルも来ているはずだから気を付けろ」
また、少々驚いた。何故、彼は教えてくれるのだろう。
頭を捻ったが、すぐに疑念は安心に変わった。彼はやはり、本当は俺の事を心配してくれる"いい人"なのだ、という。
「はい! それじゃあ、また!」
俺は元気良くお辞儀をし、身を翻した。二分以内に戻ると言ったので、行きよりも速度を上げてアロードの方に戻る。彼は、何かを小声で唱えていた。
「百十五、百十六、百十七……」
「アロード! ごめん、待たせたね。……もしかして、二分数えてたの?」
「戻って来なかったら、先に行っちまうつもりだったからな。……因みに、残りあと三秒だったぜ?」
「そりゃ危なかった」
アロードって意外と几帳面なんだな、と思いながら応じる。彼は、まだガーディさんと話した後の余韻が抜けずに笑みを零している俺を見、訝しむような表情になって尋ねてきた。
「何してきたんだ?」
「いや、ちょっと気になる事があって。大した事じゃなかったから気にしないで」
聞き込みを始めようか、と言い、俺はユリアたちの駆けて行った方とは反対側、観光エリアに歩を進める。アロードもそれ以上突っ込んで尋ねようとはせず、俺の後に続いた。




