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『ブレイヴイマジン』第2章 ウィンド⑥


          *   *   *


 防風林は予想以上に分厚く、そこを抜けた時には既に日暮れに近づいていた。このままではレーナの提示した「今日中」という刻限に間に合わないのでは、と思いもしたが、俺のその危惧は杞憂であり、林を出るとすぐに駐屯地らしきものは目視で確認出来た。

 林は土を盛り上げて高さを増した低い崖の上にあり、その下は不毛の土地に吹き荒れる風で土が散らされ、巨大な窪地となっていた。そこに、無数の天幕が張られ、柄に人間が巻き付いた剣の紋章をあしらった旗が何本か立てられている。窪地という地形のせいか、降りた先にある駐屯地に暴風は吹いていないようだった。

 俺とアロードは崖の上を、円形の窪地に沿うように歩き、ユリアの指定通り裏側へ回った。途中で林の方を見ると、ユリアたちが崖の下に滑り降りていくところで、その数秒後に窪地から銅鑼(どら)のような音が轟いた。村にあったスピーカーのような簡易的な放送設備から、見張りをしていたヴェンジャーズ兵の声も響く。

『敵襲! 敵はスピナジアの自警団、先頭に水のブレイヴ、及びシルフィ・アクアと思しき少女を確認!』

 それを合図に、哨戒をしていた兵士たちが一斉に自警団の方へと走り始める。各天幕からも、続々と兵士が湧き出してユリアたちに向かって行った。

 俺は目を凝らしたが、人数が多く黒々とした塊にしか見えない。レーナらしき姿は確認出来なかった。

「マズいだろ、さっきの放送は……」

 アロードが小声で毒()いた。

「俺とケントが居ねえって、暗に言っちまっているようなもんだ」

「でも、千人近い敵の注意が一気にこっちに向く事は防げた。早く行こう、ユリアに負担を掛けすぎる訳には行かない」

 俺は言い、変身しつつ窪地に降りようとフォームメダルを握り締める。その時、アロードが恐る恐るというように尋ねてきた。

「おい、ケント……一つ聞いとくけどよ。お前、本当にユリアに……惚れてたりしねえよな?」

 俺は咳き込みそうになった。いきなり何を言い出すのだ。

「違うよ! 俺はユリアの事を、友達だって思ってる。だから、居なくなって欲しくないだけだ」

 早く行くよ、と早口で言い、問答無用でメダルを構える。アロードは少々安心したようにほっと息を()き、メダルの中へと入って来た。こいつ、急に動揺させる事を言うなよな、と内心で呟きながら、俺は変身コマンドを口にする。

「トランスフォーム『アロード・ファイヤー』」

 ブレイヴに変身すると、砂と共に駐屯地へ滑り降り、手近な天幕の影に身を隠す。例に漏れず兵士たちは自警団の方へ走って行ったようで、隙間から覗き込んだが中は無人だった。

 素早く次の天幕へ移動し、中を覗く。ここも無人、リビィと思しき少女も囚われていない。それを何度か繰り返していくうちに、効率が悪い、と気付いた。天幕は百近く存在しているのだ。これでは幾ら時間があっても間に合わない。その上、幾ら正面から自警団が突入したといっても、駐屯地に居るヴェンジャーズ兵の全てがそちらへ向かった訳でもない。何度か遭遇し、信号を上げられる前に猛攻撃をして倒したが、このままでは危険すぎる。

(だけど、他にどんな方法が……?)

 俺は、窪地の上で自警団メンバー二人に付き添われ、こちらを見ているヴァレイをちらりと窺った。彼は目を凝らすようにこちらをじっと見ていたが、やがて空中に指を走らせた。何処かを指差しているようだったが、俺には確認出来ない。上を向いたまま眉を潜めていると、頭に直接アロードの声が響いてきた。

『馬鹿! 突っ立ってんじゃねえ、敵に目を付けられるぞ!』

「だけど……ヴァレイが、何か言っているんだよ!」

『イマジンは、契約したブレイヴの生体反応を感知出来る。その有効圏内まで近づいて、あいつにはリビィの居場所が分かったんだ』

「それを、俺に教えようとして……」

 その時、近くに山積みになっている箱の陰から兵士が一人飛び出してきた。彼は腰から小さな筒のようなものを抜き、空に向かって掲げる。その目は、窪地の上に居るヴァレイたちを捉えていた。

『マズい、ケント! 奴が信号を上げるぞ!』

「させねえよっ!」

 俺は叫びつつ、兵士に向かって跳躍する。アロードを憑依させた事で強化された身体能力の為か、一度の跳躍で前方の兵士に追い着く事が出来た。俺が剣を振るった瞬間、敵の持っている筒から小さな弾が飛び出す。

 倒れ伏す敵の肩を踏み台に、俺は垂直に跳躍した。加速しながら打ち上がろうとする弾を、可能な限りの速度で薙ぎ払う。

爆炎天翔斬バクエンテンショウザン!」

 弾が上下に両断され、弾ける前に火薬を散らしながら落下していく。そのまま跳躍を続け、窪地の斜面を爪先で捉えると、砂に足を取られないようにしつつヴァレイの所まで再び駆け上がる。

 彼の横に着地すると、アロードが分離して彼に掴み掛かった。

「何やってんだ、お前は! ユリアたちの行動を無駄にする気か!」

「仕方ないだろう! リビィちゃんを知覚出来たら、君たちに教えないと」

 ヴァレイは叫び返す。

「じゃあ、どうして俺たちが突入する前に言わねえんだよ?」

「知覚がついさっきだったんだ。前は……こんなはずじゃなかった」

「それって……」

 俺が言いかけると、アロードはぐっと押し黙った。やがて、「なるほどな」と低く呟く。「フォームメダルを奪われて、大分時間が経ったからな。ブレイヴとイマジンの契約が、自然消滅しかけているんだ」

「時間がないのは変わらない。ヴァレイ、リビィさんは何処に居るんだ? 詳細な場所を教えてくれ」

「あそこ。だけど、リビィちゃんの反応が何だかおかしい……藻掻いているっていうか、じたばたしているっていうか……」

 ヴァレイが、駐屯地のほぼ中央に位置している、他よりも一回り大きな天幕を指差す。他が野営用の簡易的なテントであるのに対して、その天幕だけは折り畳み式の建物の形をしっかりと保ち、パビリオンのようだった。

 見つめていると、その天幕から人影が現れた。続いて、あの鳥の魔物も足で歩きながら出てくる。

「あいつ……!」アロードが歯軋りをした。

 現れたのは、レーナだった。ハート型短剣の一本を抜き、右手の指先でペン回しの如く器用に回転させている。後ろに続く魔物の背には、短いキャミソールに肩を覆うスカーフ、ショートパンツという服装の少女が縛り付けられている。戦闘を意識してか、髪は首の辺りで短く切り揃えられていた。

「リビィちゃん!」

 ヴァレイが声を上げる。自警団の二人も、その名を呼んだ。

 どうやらあの少女がリビィらしい、と思った時、アロードが唸る。

「卑劣な……レーナの奴、ユリアに見せつける気だな。投降しなきゃ、リビィを殺すとかって脅して……!」

「俺たちで止めないと! でも……」

 俺は、周囲の天幕を見回す。俺たちが戦った通り、駐屯地内に留まっている兵士もかなり居るようだ。包囲されれば、幾らブレイヴとはいえ数の差で押し負ける可能性は大きい。

 どうしようか、と逡巡していると、ヴァレイが手を挙げた。

「……僕が、レーナに投降する振りをする。引き渡しの時一瞬隙が出来るから、ケントとアロードはそのタイミングでリビィちゃんを解放して」

「お前!」アロードが怒鳴った。「危険すぎる! 間違えばお前が……」

「僕は男だよ、君の言った通り!」

 ヴァレイが、声を張って彼の台詞を遮った。

「僕は確かに、イマジンだし自分だけじゃ戦えない。でも、戦う以外にもリビィちゃんの為に出来る事はある! アロードだけに助けて貰うんじゃない、僕だけじゃ出来ない事を、君には手伝って貰うんだ! 僕は……僕だって、好きになった女の子くらい、体を張ってでも守りたいよ!」

「……アロード」

 俺は、気付けばアロードの肩に手を置いていた。

「ヴァレイもリビィさんも、危険な目には遭わせない。必ず、どっちも助ける。俺たちになら、出来るだろう?」

「……分かったよ」

 アロードは言うと、再びフォームメダルへと戻って来た。俺は変身し直し、自警団の二人に言った。

「グリム団長の方に合流して下さい。俺たちは、レーナに直接接触して、リビィさんを助け出します」

「了解しました。……頼みましたよ」

 二人は順番に俺の手を握り締めると、身を翻して駆けて行った。俺は、もう一度窪地に降りる準備をしながら、背後のヴァレイに声を掛ける。

「俺から離れるなよ。時間がないから、敵を蹴散らしながら一直線にレーナの所を目指す。俺、ヴァレイなら彼女を助けられるって信じているよ」

「ケント……」

 彼はまた目を潤ませかけたが、すぐに拳を固め、強く肯いた。

 俺は跳躍すると、空中で剣技を発動する。障害物を除き、ショートカットを図る。

「アグレッシヴブレイズ!」

 降下しつつ、乱立する天幕のうち、進行方向を塞ぐように並んでいるものを一気に切り裂く。それは自分でも驚く程の”飛翔”だったが、ヴァレイは迷う事なく俺に続いて駆けて来た。

 今の攻撃に仰天した兵士たちが、一斉にこちらを見る。地上を走るヴァレイを狙って武器を構えたが、

「ケント、お願い!」

「任せろ!」

 彼の叫びと共に、俺は着地する。百八十度回転するかのようにデュアルブレードを薙ぎ、突進してきたヴェンジャーズ兵たちを一気に吹き飛ばした。俺の切り開いた道を、ヴァレイは素早く駆け抜ける。俺たちがそのまま真っ直ぐ接近すると、レーナは足を止め、こちらに顔を向ける。

 そして、寸分の躊躇いもなく短剣を逆手に握り、飛び掛かって来た。

「はあああっ!」

「……っ!」

 ガシャーンッ! という激しい金属音が響き、火花が散る。軽い短剣ながら、レーナはその細腕に見合わぬ腕力を有していたらしい。その一撃は、剣で確かに受け止めたにも拘わらず、こちらの両腕に激しい痛みを与えた。

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