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『ブレイヴイマジン』第2章 ウィンド⑤


          *   *   *


「それじゃあ、本当にヴァレイ君は……」

 スピナジアの村の西側、防風林が黒々とした影を落とす空地。そこに、自警団は家を破壊された村人たちの使用していたようなテントを設え、林の向こうに駐屯地を形成しているヴェンジャーズの侵攻に備えていた。

 俺とユリアが自己紹介をし、二人で交互にヴァレイの今日の行動や、その意図を説明すると、グリム団長は息を呑んで彼を見つめた。

「何も、君が悪かった訳ではないじゃないか。それなのに、どうしてそう簡単に、自分の命を投げ出そうとするんだ?」

「じゃあ、団長たちは」ヴァレイは、ごしごしと涙を拭った。「どうしてリビィちゃんを見捨てたんですか? 見捨てられるんですか?」

「私たちだって、見捨てたい訳ではないんだ。だが……」

「理屈を聞いているんじゃないんですよ! 分かっているんです、僕も……でも、それだけじゃ消せないんです。村を壊滅させる訳には行かない、団長はそう仰いたいんでしょう。じゃあ、何でさっきはヴェンジャーズと戦おうとしたんですか。レーナがビーストサモナーだって分かっていながら……リビィちゃんが諦められないのは、僕と同じじゃないですか。それなのに、勝手すぎますよ」

 ヴァレイの糾弾に、グリム団長も他のメンバーたちも、皆()まり悪そうに顔を見合わせた。シルフィが「皆さんも」ととりなす。

「皆さんも、自警団としての手前仕方がなかった決定なんですよね? 本当は、リビィちゃんを諦める事が出来なくて、最大のネックになっているレーナが単身で現れたのをいい事に、一か八かで仕掛けた」

「本当に、ちぐはぐなものです」

 団長は少々自虐的に、寂しそうな笑みを浮かべた。

「自警団で筆頭の主力戦士であったリビィもまた、村人の一人なのですから」

「私たちが、リビィさんの救出に協力します」

 ユリアは膝を進め、「お願いです」と言いながら頭を下げる。

「私とケント君は、ヴァレイのフォームメダルを取り戻しに来たんです。私たちも、スパロウ兵長に襲われていて。話によると戦力は敵の方が圧倒的なようですし、あのレーナも居るとなれば……皆さんの力も、必要になると思います。どうか、私たちと結んで頂けませんか?」

 俺も彼女に倣い、頭を下げる。団長は「こちらこそです」と言い、俺たちの姿勢に対して慌てたように両手を振った。

「ブレイヴのお二人の力添えがあれば、我々が取り得なかった作戦を展開する事が出来る。リビィもヴァレイ君も、皆が犠牲にならずに村を救う事も出来るでしょう。お願いするのは、こちらの方ですよ」

「では……」

 ユリアが早速、本題に入っていく。俺は、状況の進展に何も貢献出来ていないような気がし、ちらりとイマジンたちの方を見た。

 ヴァレイは、最早泣いてはいなかった。ただ、自分のブレイヴが助かるかもしれないという予測に希望を見(いだ)したらしく、俺たちの話に耳を傾けている。だが、(いささ)かではあるが、肝腎のリビィ救出作戦に単身では戦う事の出来ないイマジンとしての己にもどかしさを感じているようではあった。そんな彼の苛立ちや焦りを、アロード、シルフィは無言で宥めているようにも見えた。

「駐屯地の規模は分からないですが、あなた方は二ヶ月前の襲撃の際、どれくらいの兵士が攻め込んでくるのを見ましたか?」

「敵方の主戦力が魔物だった為、正確な事とは言えないかもしれないですが……そうですね、こちらよりも倍以上多かった事は確かですから、五百、下手をすれば千人以上が詰めている可能性があります」

「ギアメイスを襲った部隊が、大体五十人程度だったと記憶しています。となれば、十から二十倍近い戦力が敵にはある訳ですね。正面からぶつかり合っては、確かに渡り合うのは難しいかも」

 ユリアは考え込むと、指をぴんと立てた。

「日限は今日一日だけです。駐屯地の構造把握から、少なくともリビィさん救出は一回で行ってしまわないと。まず、自警団の皆さんが私、シルフィと一緒に正面から攻めます。レーナたちも、こちらにブレイヴが居る以上自警団が正面から来る蓋然性はある、と思い始めたはずです。上手く行けば、注意を引きつける事が出来る。でも、彼我の戦力差から考えて、それでも持たせられるのは長くて一時間程度でしょう。実際には、もっと早く退却せねばならないかもしれません。皆さんが殲滅されるような事になってしまったら、意味がありませんから」

「でも、それじゃあ救出は……」

 ヴァレイが口を挟みかけた時、ユリアは俺の方を向いた。

「並行して、ケント君とアロードが裏側から駐屯地に入って、リビィさんを探すの」

「俺が?」

 思いがけない提案に、俺は驚いて顔を上げる。

「駐屯地でトップに立っているのはレーナよ。ブレイヴを含む集団が攻めて来たってなれば、彼女は出てくると思う。だけど、駐屯地には他にも、さっきレーナに拾われたガーディが居る」

 つい、拳に力が込もった。やはり、俺はガーディさんと剣を交える事になるのだろうか。それは避けられない宿命という事なのか。

 俺の心情を読み取ってか、ユリアは首を振った。

「ケント君は、あの災厄の化身みたいな男と話す事が出来ていた。希望的観測かもしれないけど、もしかしたら、この作戦の間だけは戦う事を避けられるかもしれない。あいつらの本命はフォームメダルで、さっきはガーディも、レーナが何か脇道に逸れるような事をしているのを責めているみたいだったもの」

「………」

 先程ヴァレイは、レーナが自分本人も狙っていると言っていた。リビィの捕縛と彼女を人質にしての脅迫は、そのヴァレイ本人を用いた何らかの計画を遂行する為なのだろう、と。ガーディさんが、それに難色を示しているような気配もあった。もしかしたら、リビィの救出自体は彼も看過するのではないか。

 ユリアの言う通り、確かに希望的観測だ。しかし、そうであって欲しい、という願いは、俺の中にも存在していた。

「……分かった」

 俺は答え、「でも」と付け加えた。

「なるべく、彼とは遭遇しないように頑張るから。それから、出来るだけ早く俺のノルマを達成して、ユリアたちの戦いが長引かないように努力する。だから、ユリアも……あんまり危険な戦い方はしないでくれよ」

 そう言った時、ずっと真面目な顔で話を進めていたユリアが相好を崩した。

「ケント君、私の事ちゃんと気遣ってくれているんだ……ちょっとキュンとしちゃうなあ……」

 グリム団長もイマジンたちも、きょとんとした顔で俺とユリアを交互に見つめてくる。俺は「人の見ている前ではやめてくれ!!」と思いながら、やはり俺には格好良い台詞は決めきれないのか、と少々落胆した。

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