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『ブレイヴイマジン』第8章 ラストバトル⑪

 壁と天井が完全に消滅すると、続いて床までもが崩落した。足場を失い、俺たちは悲鳴を上げる暇すら与えられずに落下を開始する。

 暗い、黒という色さえも知覚出来ないような、底なしの闇。しかし、周囲で絶え間なく流体が動くのを感じる。『ブレイヴイマジン』をゲームだと思っていた俺が、エヴァンジェリアに送られる時に感じたのと、全く同じ感覚だった。

 あの時俺は、この得体の知れないものを、サーバーに接続する際に脳に流し込まれる情報の残滓だと思っていた。しかし、そうではなかった。今では、これはまだ定義されていない時間と空間なのだ、と分かる。観測者が存在出来ない高次元空間、無数のマルチバースを繋ぐ、亜空間のような場所。

「皆ーっ!」

 俺が叫んだ時、ガーディさんが隣まで来て俺の手首を掴んだ。

「ケント、落ち着いて聞け。……ディアボロスは、先程遂にエヴァンジェリアを知悉した。奴はこれから、上位世界の特権を用いてエヴァンジェリアの(ことわり)を上書きするつもりだ」

「そんな事、出来るんですか!?」俺は、イマジン・ルーラーの言葉を思い出す。「あのルーラー……黒田さんだって、他世界には、それが下位であってもエターナル・フリーズ程度の干渉しか出来ないって……」

「序列の乖離が激しすぎたんだ。とはいえ、無論時間は掛かるだろう。これは、その間俺たちに邪魔されないよう、閉じ込めておく為の措置だ」

「ここは、一体何処なんでしょう?」

「変わらず、グニパヘッリル回廊だろう。しかし、魔界の門は世界系同士の境界。行き来出来るように、俺たちに知覚出来る形に具現化されたのが、あの岩窟のような回廊だ。……恐らくな」

 ガーディさんが言った時、同じように周囲を漂うユリアが上を指差した。

「あれ見て!」

 俺も皆も、頭だけを傾けて頭上を窺う。

 そこに、魔王ディアボロスが浮遊していた。オーラが解除された時に見えていた本体も変質したらしく、その巨躯は白銀色に染まり、神秘的とすら表白出来る巨人の姿になっている。だがその目に宿る狂気的な光は消えず、むしろ一層爛々と輝いて俺たちを睨みつけていた。

「マズい、完全復活しているわ。あのままエヴァンジェリアに出られたら……」

 コーディアが、焦燥を滲ませる。

「ケント、あれを倒すのはもう無理だ。だが、止める方法がないでもない」

「どうやって?」

 ガーディさんの言葉を聞きつけ、フィアリスが短く尋ねる。彼は、ディアボロスの更に後方を指差し「あれを見ろ」と言った。そこには、崩壊しなかったヘルヘイムへの扉が、俺がエヴァンジェリアへ送られた時のような白い光を放ちながら口を開けていた。

「上位世界の存在であるディアボロスは俺たちとは異なり、ここからでもエヴァンジェリアに向かう事が出来る。だが、こうして二つの世界系の接続が断絶した今、奴をヘルヘイムへ追い返す事が出来れば、他世界への干渉は不可能になるだろう」

「つまり、あの扉の向こうに魔王を押し込めばいいんですね?」

「そっか、それから扉を、この回廊と同じように破壊すれば……ディアボロスを封印出来る!」

 マティルダ、アスタークがそれぞれ言う。俺も希望が見えた気がしたが、そこで重大な事に気付いて彼に問うた。

「確かに、魔王は封印出来るかもしれません。でも、俺たちの誰かが押し込んでいる間に扉を破壊したら……その当人も、ヘルヘイムから出られなくなるのでは? 押し込んで、その後すぐに脱出する、なんて出来ませんよ。ヘルヘイムでの、ディアボロスの優位性を考えれば」

「そうだろうな」

 ガーディさんは重々しく肯く。その響きは、何処か殉教者めいた覚悟を孕んでいるような気がして、俺は「まさか」と彼の顔を見た。

「ガーディさんは自分も、一緒にヘルヘイムに封印されるつもりですか!?」

「俺以外に、誰がそれをする?」

 ガーディさんは事もなげに言う。俺は絶句した。

「ヘルヘイムの世界系に加わってしまったら、ルーラーでさえもその者を引き上げる事は出来ない。ヴェンジャーズに堕ち、魔神族と契約した俺を、ルーラーが排除出来なかったように。それを、ここで戦っている誰かに強いるのか?」

「だからって、ガーディさんが……」

「では、お前がするのか? よく聞け、ケント。お前は、フロントワールドを再び愛せる事を、自分で悟った。再び自分の世界で生き抜く事を、誰かに言われたのでもない、自分の意思で選び取った。俺は断言する、お前は帰るべきだ。絶対に、将来を閉ざされてはいけないんだ!」

 ガーディさんは力強く言うと、俺に容喙する隙を与えず宙を蹴った。リバイバルブレードを掲げ、一直線に魔王へと飛翔する。

 俺は、無我夢中で彼を追っていた。

「犠牲になんて、なる必要はないんです!」

 それは、俺も彼も、ここに居る皆も、全員に言える事だ。

「皆で、一緒に押しましょう! そうすれば、一人じゃ出来ない事だって!」

 俺が叫んだ時、周りで仲間たちが一斉に跳んだ。リビィ、アスターク、イヴァルディさん、マティルダ、ジーゼイドさん、フィアリス、スティギオ、コーディア、しんがりにゼドクとユリアが並ぶ。

「それを聴いて、安心した!」リビィが、俺とガーディさんを追い越しながらにっこりと微笑んだ。「私たちが皆で、一人ずつ魔王を押せばいい。途切れる事のない連撃なら、反撃される事なく行けるはず。最後の二人に、扉を壊して封印を完成させて貰えば!」

「……分かった。タイミングは、こちらで合図をする」

 ガーディさんは言い、剣技の構えを取る。リビィは肯き、まず最初に動いた。

「フォービデン・ホロロゲイン!」

 他の仲間たちも、次々に俺たちを追い越していく。

「スカイブレイク!」「ヴォーパルスラッシュ!」「インフィニットフォーチュン!」「プラネット・ヴァニシング!」「禍僻侵空裂(カヘキシンクウレツ)!」「絶雷動嶽衝ゼツライドウガクショウ!」「魔導黒瀷戟(マドウコクヨクゲキ)!」

 魔王は、押されながらも懸命に腕を振り上げ、反撃しようとする。ヘルヘイムの扉は、すぐ後ろまで迫っていた。

「ケント、行くぞ!」「ええ!」

 俺たちは、示し合わせたように同じ型を構える。それは、同じ火柱を伴って、暗い亜空間を煌々と照らし出した。

「アグレッシヴブレイズ!!」

「ヴォオアアアッ!!」

 絶叫しつつ、魔王が仰反(のけぞ)った。俺とガーディさんは、その胸を押したまま一直線に扉へ突入していく。技が終了したら即座に引き返そうと、俺たちが反転の準備をした時、

『私だけが、(いまし)められはしない』

 また、ディアボロスの思念が届いた。それは、今度は煮え滾るように熱く、俺の目を焼いたようだった。俺が思わず目を瞑った時、ガーディさんもまた閉眼した。

『貴様らにも、共に冥界を彷徨って貰う』

 そして、魔王の腹から、突如として黒い巨大な腕が突き出した。俺とガーディさんはそれに抱き込まれ、扉の向こうへと引き込まれた。

「あっ!?」

 俺が声を上げかけた瞬間、

「今だ! ユリア、ゼドク!!」

 ガーディさんが、二人に叫んだ。

 彼らは驚愕の表情を浮かべたが、いつでも動けるように構えていた事が、そのゴーサインに対し、意識的に抗う事をさせなかった。

「ケント君────っ!!」

 スパイラルストリームを繰り出しながら、ユリアが絶叫した。ゼドクもまた、何かを叫びながらナイトメアスクラッチを叩き込む。

 世界に亀裂が入り、そこから目も眩むような目映い閃光が漏れ出し──。

 そこで全てが暗転した。

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