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『ブレイヴイマジン』第8章 ラストバトル⑩

覇山焔龍昇ハザンエンリュウショウ!」

 一人の人影が動き、十メートル程の距離を一秒足らずで駆け抜け、俺の前へ飛び出して来た。魔王はぎょっとしたのか、放とうとしていた技を取りやめ、近距離用剣技の型を形成する。

 ガシャーンッ! という音が響き、二本の剣がぶつかり合った。俺は割り込んできた人物を見つめ、驚きに目を見開いた。

「ガーディさん!?」

 そう、彼は太刀使いガーディさんだったのだ。いや、現在握っているのは太刀インフェリアブランドではない。俺のデュアルブレードに似た、というより柄や鍔の部分は完全に同じ、片手直剣(ロングソード)──。

「ガーディさん、それは」俺は、回らない舌を必死に動かす。

「リバイバルブレード、以前お前に見せた、俺が勇者だった頃に使っていたデュアルブレードを、アーチェスレリアの鍛冶師に鍛え直して貰った」

 彼は言うと、ディアボロスの剣を跳ね上げて後方に跳び退(すさ)る。ユリアが、混乱が収まらない、と言いたげに目を白黒させた。

「ガーディ、どうしてここに居るの……?」

「病室の窓から、お前たちが出発するのが見えた。昨日、俺が呼び覚ましてしまったディアボロスと決着を着けに行くのだと、それで分かったのだ。俺も、まだ体調は万全とは言い難い。だが、お前たちと共に戦いたいと思った。それが俺の贖罪、否、ケントへの恩返しだ」

 彼は言い、ディアボロスを睨み上げる。「魔神族の力でではなく、もう一度あの頃の俺のように戦いたかった。だからこの剣を修復していたのだ。遅くなってしまい、すまなかった」

 彼は、先程火のブレイヴとしての技を使った。俺のアグレッシヴブレイズの如く、アロードの技を自らのものとして修得し直していたのだ。それが未だに忘れられていないという事は、彼の中で勇者としての”ガーディ”は生き続けていた、という事なのだろう。

 俺が更に声を掛けようとした時、彼は左手で目を押さえた。彼にも、ディアボロスの言葉が届けられたらしい。彼が何を受け取ったのかは分からなかったが、それから彼の見せたのは、仄かな笑みだった。

「今は、ケントの……そして、既に記憶は消されていたとしても、確かに俺と共に戦った者たちの友として、お前と戦うつもりだ」

 ガーディさんは再び剣技を発動し、魔王に向かって行く。彼らは激しく斬り結び始め、俺たちは加勢も忘れてただそれを見つめ続けた。

 斬り結びながら、ガーディさんはディアボロスと交信し続けているようだった。時折位置取りが変わり、彼の表情が俺にも見えるようになる。その度、彼は何やら感慨に浸るような、過ぎ去ったものを幻視に見るかのような目つきをしているのが分かった。

「……確かに」彼が、小さく紡ぎ出す。「確かに俺は、私怨で動いていたのかもしれない。俺自身が生を受けた世界に対する、どうしようもない程の破壊衝動が、それを利用したエヴァンジェリアに向けられていたのかもしれない。自分が抗えなかった運命への受容を、這ってでも生きようと足掻き続ける者たちへ強制しようとしていた事も否定しない……だが、俺は一人の少年に出会い、彼が、俺が選ばなかった道を歩いているのではない事を知った。俺たちは同じ道を歩いていて、何処まで行けるかが異なっただけだったのだ。

 故に俺は、もう一度勇者として立ち上がれる事を知った。彼は、ケントは、俺が忘れかけていた奇跡を思い出させてくれた。そんな彼が……ケントが存在し、愛して守ろうとしたエヴァンジェリアを、俺はもう破壊しようとは思わん!!」

(ガーディさん……!)

 俺の目に、また涙が滲んできた。

 魔王ディアボロスは、ガーディさんの言葉を処理するのに時間が掛かったようだったが、その隙にガーディさんが剣技を発動した。

業火纏燐靭(ゴウカテンリンジン)!」

 俺とアロードが、まだ修得していない火属性技。螺旋状の炎の渦を纏ったリバイバルブレードが、防御の崩れたディアボロスの腕に肉薄する。直前で渦は拡散し、まず回転する炎の(やいば)が腕に当たって魔王を怯ませた。オーラの守りが解除されたその胴体に、今度は刀身本体がぶつかる。それが会心の一撃(クリティカルヒット)となった事を示す、激しい光と衝撃が拡散した。

「ヴヴヴヴォオオアアアアアアッ!!」

 恐らく今までで最も深い切創を刻まれた魔王は、過去最大のボリュームで咆哮し、両手を天に掲げた。そこから剣が落下し、床に当たる前に粉々に砕け散る。切創から光が漏出し、魔王を包み込んでいく。

 勝ったのか、と思いながら、俺はガーディさんに目を向ける。

「ガーディさん!」

 俺は叫んだ。言いたい事は山程あり、上手くまとめられない。ので、俺はたった一言だけ、しかし心から言った。

「ありがとうございました!」

 ガーディさんはちらりと俺に視線を向けると、微かに笑った。

 魔王の巨躯が、ゆっくりと後傾していく。光は這うようにその体を包み込んでいったが、やがてそれが全身に広がると──突然、傾倒が止まった。

 このままディアボロスが消滅するとばかり思っていた俺も仲間たちも、皆たちまち表情を引き締める。と、その時、ガーディさんを除く俺たちの中で最も魔王に近い場所に居たゼドクが声を上げた。

「おい、皆避けろ!」

 えっ、と反応する間もなく。

 ディアボロスを覆っていた光が、無数の帯のような線となり、四方八方に向けて射出された。皆防御や回避が間に合わず──間に合っていたとしても、別の光線にやられていただろう──、四肢や胴を次々と貫かれていく。俺たちを貫通すると、光は先程ディアボロスの使った技の如く、赤黒い電撃の如き形に変化した。

「皆!」

 俺は、左の肩口を貫かれた激痛を堪え、呼び掛けた。

「皆、大丈夫か!?」

「ええ!」「何とかだけど!」

 随所から反応が返ってくる。どうやら皆、頭や心臓など、致命的な部位に命中した者は居なかったようだった。ひとまず安堵したが、それで済む訳がない。

 俺たちは、黒い影のような姿に変化したディアボロスを見つめた。魔王は、小刻みに蠕動しながら黒い煙を放ち続けていたが、やがてまた耳を(ろう)せんばかりの咆哮を上げた。しかしその声は、今まで聴いてきたような魔物に近いものではなく、文字に起こす事の出来ないような複雑さを持っていた。

「歌……?」

 その凄まじい音量の中で、何故かユリアの呟きははっきりと耳に届いた。

 そう、それは確かに、歌のようだった。連続音のようでもあるが、確かに一定の高低差があり、複雑な音の羅列を作り出している。それもランダムに紡ぎ出されたようなものではなく、一定のパターンを繰り返すような……

 俺がそう考えかけた時、広間の壁に亀裂が入った。壁際に居たフィアリスやマティルダ、ジーゼイドさんらが素早く距離を取る。亀裂は天井まで広がると、音に押し出されるかのように、部屋を構成する岩石を虚空へ飛ばし始めた。地底世界というものの、本来世界系の連続性がないエヴァンジェリアの地上にそれらが飛ぶ事はなく、俺たちの頭上に現れたのは、果てしない黒い空間だった。

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