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『ブレイヴイマジン』第7章 オープンゲート⑧


          *   *   *


 俺がエヴァンジェリアに呼ばれてから、百日目にして仲間が全員集まった。夜が明けると、俺たちは朝食の席で全員が顔合わせを行い、それぞれの冒険について語り合った。

 セルナとロゼルは、再会するや否や固く抱き合った。

「セルナちゃん! 良かった、また会えて……」

「ロゼル、ごめんね。うち、あんたの事見捨てて逃げた……」

「いいの。お互い居場所を見つけて、ブレイヴも出来たんだから」

 アロード、タイタス、ルクスもだが、ミッドガルドではたった八人しか居ないイマジンたちの友愛は、人間よりもずっと強い表現で表れるらしい。

 皆が初めましての挨拶、或いは再会を喜び合う事を一段落させると、俺は手を打って皆に言った。

「今まさに、招集した全メンバーがここアーチェスレリアに集まりました!」

 おおっ、と皆が歓声を上げる。ユリアが俺の後を引き継ぐ。

「総督府は、私たちの作戦を承認して、協力してくれるって事だったわ。衛兵隊と地元の魔法使いを合わせて、私たちと戦ってくれる戦力は約八百人。ヴェンジャーズの戦力は、その十倍近く居る。だけど、心配しないで。人数では劣勢だけど、個人の戦闘力だったら私たちの方が優れているんだから」

「世界樹ガオケレナの警備隊は」

 ここ二週間で仲間たちと沢山会話し、大分標準語に近づいたゼドクが言う。

「今朝真っ先に俺に入った情報だが、とうとう崩壊を始めたらしい。ヘルヘイムへの道が拓かれたら、まず真っ先にガーディが踏み込むだろう。事態は、最早一刻を争うところまで来たんだ」

「警備隊が立て直される可能性は?」厳しい表情で、セルナが尋ねる。

「恐らく、それはもう諦めるしかないだろう。問題は、彼らが壊滅、そうなる前に撤退を始めた時、どれだけ早く俺たちが動けるかにある」

「作戦としては、まず速攻でヴェンジャーズ三侯のうち、ギデル、レーナを戦闘不能にする。マンティス総統が居なくなって幹部も多くが残っていない今、指揮権は彼らに委ねられている。彼らを押さえれば、最小限の犠牲で速やかに戦闘を終わらせられる。それを実行するのが、俺たち十九人だ」

 俺が言うと、リビィが思いついたように指を立てた。

「ブレイヴとイマジンを中心とする部隊ね。何だか、世界を旅して最終的に世界を救う事になる、冒険者ギルドみたい」

 この世界にはRPGという概念はないはずだが、やはりそういう英雄譚は伝説として存在しているようだ。へえ、と思いながら、確かにそうだなと考えていると、イヴァルディさんがそれを受けて発言した。

「ギルド『ブレイヴイマジン』というのはどうだろう? 安直すぎるかな?」

「いいと思います!」

 俺は、感動を覚えながら力強く賛成する。その名前は、ルーラーがフロントワールドから俺たち勇者を呼ぶ為に偽装した体験会で、そのゲーム名に便宜的に与えられたものだった。しかし、それが意図せずルーラーのまだ見た事のない未来で設立されるギルドの事を指していたなら、それは。

(因果律は、俺たちの存在を認めてくれている。俺たちが未来を繋ぐ事を、ちゃんと許してくれているんだ)

 俺は、深い満足と共に微笑した。

 アスタークが、「肝腎のガーディはどうするんですか?」と尋ねてくる。

「皆が敵の主戦力を制圧してくれている間に、俺が相手をするよ」

 俺がそう言うと、最初からそれを知っていたユリアやコーディア、ゼドクたちは表情を引き締め、招集したメンバーたちは、濃度はまちまちながらも一様に驚きを浮かべた。

「大丈夫なのか?」ジーゼイドさんが、低く問うてくる。「手紙に、彼は魔神族の力を使うと書いてあったな。ケント君はそれを、独りで相手に出来るか?」

「やります」

 俺は即答した。確かに今まで、俺はガーディさんに勝てなかった。しかし、彼に勇気を貰い、彼が同じアポストルとしての宿命を、また俺の選ばなかった道の先にある絶望を背負っている事を知っている俺だからこそ、相手をせねばならないのだと(ほぞ)を固めていた。

 同時に、戦いが終われば俺は、フロントワールドへ帰らねばならない。その事はゼドクに「まだ皆には言わないでいて欲しい」と頼んでおいたが、ガーディさんとの戦いが終わったらそれも黙っておく訳には行かないだろう。それには、俺自身の覚悟が要る。ガーディさんと心を通わせるのも、やむを得ず倒さねばならなくなるのも、その選択は俺自身がしたかった。そうでなければ、与えられた結末を受領し、納得が出来なくても帰らねばならなくなるのだから。

 自分の意思に対して後悔出来なかった、という後悔は、残したくない。

「……ケントを信じるよ」

 スティギオが、俺を安心させるような口調でそう言った。

「俺たちは、今まで通り自分たちで出来る事をするまでだからさ。ケントだって、それがケントに出来る事だからやろう、っていうんだろ? お前はそういうところで、虚勢を張るような奴じゃねえ」

「スティギオ……ありがとう」

 俺が頭を下げると、彼はそこでニヤリと笑った。

「それに、ケントは俺たちのリーダーみたいなものだしな」

「そうなの!?」

 思わず素っ頓狂な声を出してしまったが、見回すと皆揃って「何で気が付かないのだ」というような顔をしていた。

 確かに、今までのフォームメダル奪還作戦の時も、俺は自然に学級委員のように振舞ってしまっていた。しかし、こうやって正式に「リーダー」と呼ばれる立場になると、どうも緊張してしまう。

(俺に出来ない事なら、誰にも出来ない、か……)

 フロントワールドで言われた無責任な言葉を思い出し、俺はトラウマが蘇りそうになる。しかし、ユリアと目が合うと、彼女は「大丈夫」と言うかのように瞳に光を宿し、俺を見て微かに肯いた。

 ──これが、「頼られる」ではなく「頼りにされている」という事なのか。

 そう思うと自然に、俺は胸の内の緊張が解けていくのを感じた。

「じゃあ、俺とユリアは街の人に、作戦開始について伝えてくるよ。準備が出来次第始めるから、それまで皆、リラックスしていてくれ」


          *   *   *


 ユリア、アロード、シルフィと一緒に、俺は総督府に向かった。樹の警備隊が壊滅(ワイプ)しかけているという報告が入ってから街の重役たちも警戒していたらしく、既に衛兵隊を街の東ゲートでスタンバイさせている、との事が告げられた。魔法使いも、既に大勢がその部隊に加わっているらしい。言われて初めて、街に昨日までより人の姿があまり見られない事に気付いた。

 この街に住む住民の三分の一程は魔法使いであり、ヴェンジャーズとの戦力差を埋める為にその大部分が駆り出されたのだ。彼らにも衛兵隊にも無論家族は居るだろうし、彼らももし作戦に失敗すれば、この街はヴェンジャーズによって真っ先に落とされると憂えている。残された者たちは皆、家族や友人の無事を祈って、家で警戒を続けているのだ。

「死なせたくないわね……誰も」

 総督府からの帰り道、ユリアがそう言った。仲間たちも今、待機場所で今回の作戦に参加する者たちと言葉を交わし、同じ思いを抱いているだろう。

 俺が肯いた時、突然すぐ近くから呼び掛ける声が響いた。

「ケント! ユリア! 何処に居る!?」

 ゼドクの声だった。すぐ目の前の曲がり角から聞こえ、咄嗟に曲がりかけた俺は駆け出てきた彼とぶつかりそうになった。

「あっ、ゼドク!」

「すまない、ケント。……大変なんだ、ヴェンジャーズが!」

 普段はすらすらとしたゼドクの声が、荒い息で乱れる。彼の後を継ぎ、すぐ後ろを走って来たルクスが言った。

「ヴェンジャーズが、街に入ろうとしている!」

「ええっ!?」俺は声を上げる。「落とされたのか、警備隊が?」

「ああ。彼らが撤退してすぐ、追い駆けるように奴らが街に入って来た。警備隊の生き残りは後援の魔法使いたちが手当てを行っている。だが、まさか奴らの方から追撃を掛け、街まで来るとは想定外だった」

「ガーディさんは、もう行動に移ったのかな。それで、俺たちが近づく以前に足止めをしようとして、兵士たちを送り込んできたんじゃ……」

「目下、皆がゲートを防衛ラインと定め、衛兵隊と共に戦っている。お前たちも、早く来てくれ!」

 ゼドクは叫びながら、既に身を翻していた。彼に急き立てられ、俺たちは人気(ひとけ)のない道を全速力で駆け出した。

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