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『ブレイヴイマジン』第7章 オープンゲート⑦


          *   *   *


 更に三日後。

 ユリアたちと共に宿屋から出ると、中央広場の方で誰かが叫んだ。

「気を付けろ! 魔物が降下して来るぞ!」

(魔物!? こんな街中に?)

 俺はぎょっとし、空を見上げる。枝葉に覆われた一角に、大きな黒点が見えた。

 俺たちが駆けて行く途中で、丘の麓で野営をしていたゼドクとルクスがこちらに走って来た。彼らと俺たちは無言で肯き合い、広場を目指す。そこでは既に、魔法使いたちが手を空に掲げ、魔法の射出準備を行っていた。

 急降下する黒点は次第にはっきりと見えるようになり、怪鳥の姿をしていると分かる。マティルダが進み出、街の魔法使いたちと一緒にツインクリングタクトを掲げてそれに狙いを付けた。

「念の為離れていて下さい。スプラッシュ……」

「ストップ!」唐突に、シルフィが叫んだ。「撃っちゃ駄目!」

「えっ?」

 魔法使いたちもそれを聞きつけ、困惑したように彼女を見る。俺は、接近してくる魔物に向かって目を凝らした。よく見ると、その背に人影がある。

「あれは、もしかして……」

 ロゼルとシェリカが、ほぼ同時に呟く。お腹の見える短いキャミソールに、肩を覆うように巻いたスカーフを翼の如くはためかせる少女。柔らかそうな髪はポニーテールに結ばれ、それが背後で彼女に掴まって乗る全身緑ずくめの少年の顔に激しく打ちつけていた。彼は幼さの残る顔を伏せ、目をぎゅっと瞑っている。

「ヴァレイ!」

 ルクスが、彼らに手を振る。ヴァレイの方は、契約者の少女戦士──リビィに掴まるので精一杯のようだが、リビィはぱっと顔を輝かせ、同じように手を振る俺たちに叫んできた。

「おーいっ! 久しぶりーっ!」

「皆さん、大丈夫です!」俺は、戸惑う街の人々に言った。「あの魔物は、俺たちの仲間を連れて来てくれたんです! 街を襲う事はありません!」

 段々、騒ぎが収まってくる。彼らが場所を空けると、魔物はゆっくりとそこに舞い降りてきた。リビィとヴァレイがその背から降り、着地すると、魔物はやり切ったように誇らしげな声で鳴き、再び上昇して飛び去って行った。

「ユリア、会いたかったっ!」

 リビィが、ユリアに飛びつく。ユリアも彼女を抱き締め返したが、リビィはそのまま彼女の足を浮かせてぐるぐると踊るように回った。

「やっ、皆が居る」

 ヴァレイは、同期のイマジンたちを見回して久闊を叙す。

「シルフィ、アロード、ルクス、タイタス、シェリカ、ロゼル。こうして皆で会ったの、何年ぶりだっけ……セルナが居ないけど」

「よっ、ヴァレイ」

 ルクスが、持ち前の陽キャ精神で彼の肩をぐいっと引き寄せた。

「何だよ、さっきの情けない格好は。ああいう時は、男が前に乗るもんだぜ」

「し、仕方ないだろう……僕、高所恐怖症気味だし」

「ふうん。そういうとこは変わってねえみてえだけど、成長したな。魔物の統制、決行上手くなってんじゃん」

「そりゃ僕も、イマジンだし。ただのヘタレじゃなく」

 ヴァレイは、やや誇らしげに胸を張った。シルフィが、空の彼方へ飛び去って行く魔物を見ながら言う。

「でも、あれに乗って来たにしてはちょっと到着遅くない?」

「私たち、最初からあの子に乗って来た訳じゃないんだよ」

 リビィがユリアを抱いたまま振り返り、彼女の肩に顎を載せながら言う。

「ヴァレイと徒歩で来ようと思ったんだけど、彼が近道するって言って、山の中に入ってね。そしたら彼、道間違えて迷っちゃって」

「おいおい」アロードが、眉間を押さえる。「ヴァレイ、お前ほんとドジだなあ」

「大丈夫だったの?」シェリカも尋ねた。

「だけど、ちゃんと彼、格好良いとこ見せてくれたんだよ。三日くらい山の中でうろうろしていたら、さっきの魔物に会ってね。風属性だったから、ヴァレイがお話ししてくれたの。それで、ここまで運んで貰った」

 リビィが説明すると、ヴァレイは苦笑いを浮かべた。

「リビィちゃんを迷わせてしまったのも、助けたのも僕って事」

「好感度はプラマイゼロか?」

「そうでもないよ」

 アロードの言葉に、リビィは首を振ってからヴァレイに微笑み掛けた。

「森の中で野宿(ビバーク)したのも結構楽しかったし、そういう彼だから私も好きなのよね」

「ありがとう、リビィちゃん」

 くすくす笑い合う仲良しカップルを見ていると、皆は自然に笑顔になった。ルクスが「くうっ!」と叫んでゼドクを横目に見る。

「何でヴァレイに先を越されるんだよ……俺も可愛い女の子と契約したかった」

「ルクス、お前にはロゼルが居るだろう」

 ゼドクは、心外だ、と言わんばかりに肩を竦める。ルクスは慌てた。

「わー、そういう事を言うなって!」

 また、仲間たちから笑いが起こる。(ほとん)どの者たちがまだ初対面だというのに、既に打ち解け合いつつあるようだ。

 人付き合いが苦手だった俺に、仲間を作る事に恐れを抱いていたゼドク。村人たちの前で気を張らなくてはならなかったユリア。俺は考えるうちに胸が一杯になり、熱い衝動が喉元を駆け上がるのを感じた。しかし、ここで泣くのは違うと思い、精一杯幸福感に身を委ねて笑った。

 笑いすぎて、堪えられず涙が滲んだ。


          *   *   *


 二日が過ぎ、三日目の明け方。俺が目を覚ましかけた頃、夜風を入れる為に開けておいた窓から誰かが飛び込んできた。俺は飛び起き、アロードを起こして照明を点ける。デュアルブレードを取り、鋭く誰何した。

「何者だ!?」

「わあ、ちょっと待ちなよ! あたし、曲者(くせもの)とかじゃないから」

 毛皮の蓑に身を包んだその人物は、狼狽したように声を上げつつ両手を振った。俺自身も急に照明を点けて目が眩んだという事もあり、相手の姿がよく見えていなかった。その声が可愛らしい少女のもので、しかも聞き覚えのあるものだったので、俺は目頭を揉みつつ相手を見た。

「久しぶりだね、ケント!」

「フィアリス!?」

 それは、ブレディンガルで出会った山の猟師の弓使い(アーチャー)、フィアリスだった。

「どうしてここに?」

 アロードが驚いたように尋ねると、彼女は肩を竦めた。

「まっ、あたしはメインじゃないんだけどね。窓の外、見てみな」

 言われた通り窓辺に歩み寄り、通りを見下ろすと、下で二人の若い男女が手を振っていた。男性の方は、海の漁師にして雷のブレイヴ、スティギオ。女性は彼と契約を結んだイマジンのセルナ・サンダーだ。

 俺とアロードは、夢中で手を振り返した。それから、フィアリスと共に宿の外に出る。俺たちが駆け寄ると、スティギオは片腕でセルナを抱き寄せながら、軽くこちらに会釈してきた。

「来てくれてありがとう、三人とも」

「俺たちこそ、その節は世話になった」スティギオははにかむ。

「どう、二人の新婚生活は? 上手く行ってる?」

「籍を入れるのは、もう少し先になりそう。うちがあと半年で結婚出来る年齢になるから。でも、今でもとっても幸せ。フィア姉には申し訳ないけど?」

 セルナが惚気(のろけ)る。フィアリスは「だから」と溜め息を()く。

「あたしは、スティギオの事そういう目では見てないって」

「へへっ、じゃあ遠慮なくうちが可愛がって貰うね」

 セルナは、スティギオの腕にぺったりとくっつく。フィアリスは何処となく悔しそうに口を結び、彼の反対側の袖を気持ち程度に摘まんだ。

「両手に花だな。っていうかスティギオ、よくフィアリスを連れて来られたな? 山の集落で、色々言われたんじゃねえか?」

 アロードが言うと、フィアリスがスティギオの代わりに答えた。

「確かに、あたしもセルナも、まだ受けるべき罰は終わっていないよ。スティギオもセルナと一緒に戦わなきゃいけないし。でも、世界を救うのはそれとは別に、あたしがしなきゃいけない事だから。自分で言い出した事だし、祖父ちゃんも認めてくれたからさ」

「俺もセルナもフィアリスも、皆この戦いが終わった後も、それぞれの使命ある人生があるって事を見据えているって事さ」

「当ったりめえよ」アロードは、強く肯いた。「それじゃあ、絶対に誰も死なねえように勝たなきゃな。こういう時普通は、命張っても、みてえな事を言うのが伝説の勇者なんだろうけどさ」

「覚悟だけはそれで行くんだよ。でも、絶対誰かと刺し違えても、なんて自棄(やけ)は起こさない。世界を救うのは、手始めだ」

 俺は言い、俺自身と十八人の仲間たちの未来に思いを馳せた。

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