美和との出会い
大学では空手部に入ろうと考えていた。中学生の頃テレビで見た空手大会で、体の小さい選手が自分よりも大きな相手を華麗な足技で倒す姿に衝撃を受けそれに憧れ、いつか自分も空手をやりたいと思っていたからだ。
俺は子供の頃から体が小さく、心配した過保護な親の支配により部活をやらせてもらえず寂しい小中を過ごしていた。高校に入学した俺は空手部に入ろうと目論んだが、高校に空手部がなく同じように見えた柔道部に入部した。勿論親に内緒で。入部後数日経ってから親に話し至極当然の如く反対にあったが、高校は中学ほど親の目が行き届かないため振り切って部活を続けた。この3年間が後に大きな支えとなるとは思いもしなかった。
大学の授業後、空手部の見学に行った。黒帯の人達の動きがとてもカッコ良かった。部活が盛んな大学だったので、小さな道場を半分にして隣では合気道部が活動していた。空手部を見学しに行った俺に合気道部の1人が「あれ、鶴端!」と声を掛けてきた。高校時代の柔道部の先輩だった。これもまた付属高校ならではの光景だ。先輩に空手部に入りたいと話をすると、空手部は付属の全国レベルの強い人達の集まりだから初心者は厳しいと思うと教えられた。たしかに空手部はそれまで強者の集まりだったので、先輩は俺を騙そうとしたわけではなかった。俺は諦めて先輩のいる合気道部に入った。その年、なぜか初心者が数人隣の空手部に入っている光景を、同じ道場内で見ることとなった。
合気道部に入った初日の稽古後、既に入部していた1年生数人と道場の外で話しをした。女の子2人が俺に勢いよく入部するのかどうかを訊いてきた。色白のあまり部活には縁がなさそうな子と、髪の短い活発そうな女の子だった。活発そうな女の子は佐藤美和という名前で、小学校から高校までバレー部に入っていて高校では全国大会にも行った体育会系の女の子だった。俺は女の子と話したこともほとんどなかったので戸惑いながらも入部することを伝えた。
美和は明るく元気で、話すほどに俺は惹かれていった。そしてほどなくして俺は美和と付き合う事になった。初めて彼女というものができた。
部屋が整い、授業が始まり、部活が始まり、彼女ができ、俺の大学の基盤がここに完成を得た。