ヤク
「最近おとん、仕事忙しいみたいでさ。俺が寝てから帰ってきて起きる前に仕事行っちゃうんだ」
「へー」
移動教室の為、廊下を歩きながら俺は頷いた。
「じゃあ全然会えないんだ」
「うん」
「寂しいね」
「寂しいっていうよりも心配かな。疲れてるみたいで、たまに見るとげっそりしててさ」
「そっか」
「もうこれ飲まなきゃやってらんねえって言って」
ビールとかエナジードリンクかな? コーラとかコーヒーかも知れない。喜田君の言葉にうんうん頷きながら俺は答えを想像した。
「ヤクきめてた」
「ふーん」
何だ。ヤクか。
…ん?
「ヤク?」
え? ヤクって? あれ? 俺の聞き間違いかな?
「うん。ヤク。これさえあれば無敵だぜー! って言いながらはしゃいでた。気持ちは分かるけどちょっと恥ずかしいよね」
え? 気持ち分かるの?
「おかんもきめてて、あんたもきめる? って言うからきめたけどさ」
え? え?
「あ。そうだ。この話、外で話すんじゃないよって言われてたんだ。ごめん。忘れて」
「え? ちょっと待って。え?」
ヤクは駄目でしょう。ヤクは。
「き、喜田君! ちょっと!!」
教室に入りかけた喜田君の肩を掴んだ。
「え?」
「ち、ちょっと待って! や、ヤクって何のこと?」
「え? ヤクルト」
ヤクルトかーーーい!!!!
後で、何で外で言うなって言われたか聞いたら「ヤクをきめる」って言い方がヤバいからだと。中途半端が一番ヤバいわーーーい!!