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親切
「この前、近所のおばさんに教えて貰ったんだけど」
と、次の授業の教科書を出しながら喜田君が言った。
「うん」
「昔、おかん、駅の階段でベビーカー持って上げたんだって」
「良いおかんだね」
「ちっちゃい赤ちゃんが泣いちゃって、抱っこしたは良いけどベビーカーどうしようって新米ママさん困ってたらしくて」
「へー」
「でも、その時三歳十五キロくらいの俺を抱っこしてたらしいんだよね」
「…」
「片手に俺、片手にベビーカー持ってさっさと階段上ってったらしいよ」
「おかんはターミネータかなんかなの?」
「普通のおかん」
「俺、この前米持たされたけど五キロでもキツかったよ」
あれ三袋分ってマジか。
「俺もそう思って聞いたんだけど、米は五キロでも重いけど子どもは十五キロでもいけるんだって」
「おかんは偉大だな」
「小さな赤ちゃんの時の方が重かったって言ってた」
「そんなことある?」
「雑な扱いできないからって」
「なるほど」
「数年後に、助けてあげたお母さんが子ども担いで走ってるの見たって」
子が育てば親も育つ。