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喜田君ち  作者: 水藍
13/13

責任

「昨日、おかんがおとんに『男なら自分のした事の責任を取れ!』って激怒してさ」


 ジャングルジムの上に座って喜田君は空を見ながら呟く。…あの、久し振りに思うんだけど、それ小学校でしていい話?


「おとん、正座させられて泣きながら『そんな事言ったって』とか『お前、そんな女じゃなかったじゃん』ってぼそぼそ言ってて」


 小学校云々の前に小学生に見せて良いの? 

そういう親の姿。


「…喜田君」


「ん?」


「そういう親を見て、喜田君どう思ったの?」


 事の成り行きを聞く前にそう質問したら、少し考えた様子の喜田君はやがてこんな事を言う。


「おかんの剣幕に、男はやったことの責任を取らなきゃいけないんだって思った」


 恐怖政治じゃん。


「でも、おとんは弱さを晒す勇気も必要だって言ってた」


 喜田君、迷走している模様。おとん、本当に何したの?




 昨日は日曜日。良く晴れた穏やかな休日だった。


「おとんは掃除。おかんは洗濯。俺はテレビを見てました」


 と、喜田君は昔話の始まりのようなことを言う。これが終わったら皆でお昼ご飯食べに行こうねー。なんて笑っていた幸せな家族をある訪問者がぶっ壊したらしい。え? 女? おとん浮気?


「突然二階から『きゃー!!』という悲鳴」


 おかんか!? どうした!?


「激しくドアを閉める音の後、階段を駆け下りてくるおとん」


 おとんかい。


「蜂が入ってきた。アシナガバチだよ。ヤバいよヤバいよ」


 ひーひー言っているおとんにおかんは事情聴取をしたそうだ。網戸をうっかり開けたら蜂が入ってきたから窓もドアも閉めて逃げてきたとおとんは自供する。


「どこの部屋?」


「寝室」


「あんた馬っ鹿じゃないのー!!?」


 もう全てにおいて信じられない。何でドアも窓も閉めて出てきたの? 勝手に出てってもくれないし姿が見えなくなったらもっとヤバいじゃん! このまま無かったことにして、夜そこで寝るつもり!? 正気か!!? と問い詰めてもおとんはぴーぴー泣いたまま首を振る。


「でもあいつヤバいんだってー!!」


「もおおーー!!」


 と、おかんは棒状に丸めた新聞紙を持って二階に向かった。そして何故か追いかけていったおとんの悲鳴とおかんの怒鳴り声が聞こえること五分。


「窓の近くにいた蜂をおかんが新聞紙の棒で突っついて外に出したらしいんだけど、その間おとんが背中にくっついて悲鳴を上げて邪魔しまくったんだって」


 おとん、本当に何しに行ったの? 因みに喜田君は危ないから一階で待機命令が出ていたそうだ。


「その後おとん、めっちゃくちゃ叱られてた」


 だろうね。もう叱られない部分がない。そして冒頭の言葉に繫がるらしい。


「お前、何でそんなに変わっちゃったんだよ。結婚前は蠅にだって悲鳴上げてたじゃんー」


 と、おとんは余計な油を注ぐ。


「だから何だよ。お前はそんなあたしを笑ってたんだからできるだろうが!」


「でもあいつに刺されたら死ぬかもしれない」


「あんた刺されたことあるの?」


「無いけど」


「無いならあたしよりは危険度少ないだろ!? こっちはもう刺されたことあるんだよーー!!」


 イライラが頂点に達し、きいいー!! と奇声を上げるおかん。


 アナフィラキシーショックね。あの、蜂に対するアレルギーがあると刺されて死んじゃうかもしれないやつ。一回目よりも二回目以降に刺された方が出やすいらしい。おとん、弁解の余地なし。


「そこまで知ってるなら子どもを守れや! あたし達が刺されるのは構わないけど子どもが刺されたらどうすんだーーー!」


「うううう」


 胸ぐらをつかまれ振られるおとん。地獄絵図。


「その間、喜田君は何してたの?」


「他の部屋の掃除機かけてた」


 おとんとおかんに息子の同級生からお願いです。夫婦喧嘩とかしてないでまずは息子さんを褒めて上げて下さい。




 その後、本当はファストフードのハンバーガーを食べに行く予定だったけど、おとんの奢りでちょっと良いハンバーグを食べに行ったそうだ。


「で。おとんが、おかんが席を外した時にこっそり言ってたんだけど」


「うん」


「恥ずかしいところ見せて悪かったな」


 ほうほう。おとん。急に大人に。


「でも、これが世の中の真実だ。目を逸らさずに見ておきなさい」


 あれ?


「大人でも男でも怖いものは怖い。弱さを晒す勇気も時には必要なんだ」


 凄くいいことを言っている感じだけど今じゃない。それにもっと…なんだ? 他にも大切な教えが色々あるでしょ? ね? ある筈だ! さぁ! おとん!!


「あと、網戸は迂闊に開けちゃ駄目」


 それじゃない。

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