第八話「美少女より演奏を見てよ……さあ!」
体育館のステージに上がった僕たち。この場所で演奏するのは、かなり久しぶりだ。
ーーガヤガヤ。
いきなり現れてステージに立っている僕らに、部活をしている生徒たちがざわめき始めた。
「さすがに目立つよな。楽器を持って、ステージにいるんだから」
「けど、なつかしー! ほとんど学校外でライブとかしてたから、ステージに上がることなかったもんねー」
「……だな。いつも通りに演奏できるか、ちょっと不安」
同好会でのギャルゲーソングを披露してきた場所は、ライブハウスや商業施設など。
本格的なバンド活動をしてきた僕らは、学校でやる機会はなかった。
当時は全校生徒にギャルゲーソングの良さをある程度広められたからという理由で、スルーしていた。
「わたしは初めてだけれど、ステージに立ってみると震えが……」
ギターを構えている芹沢さんは、少し震えている。彼女にとって、人前で演奏するのは初めてだろう。
ましてや弾くのがギャルゲーソングなのが、僕としては申し訳ない。
「大丈夫だよ、芹沢さん! もし途中で弾けなかったら、僕がカバーする!」
「……岩崎君」
僕の言葉に、芹沢さんは安堵するような顔を見せる。
ーーそうだ。会員募集のためにやるライフだけど、芹沢さんのこともきちんと考えなきゃだ。
芹沢さんは転校してきて、まだ間もないのに僕とギャルゲーソングを弾かなければならない。
彼女の評判を下げないためにも、ここは僕がなんとかしないといけないだろう。
「なんかラブコメみたいな展開のところ悪いけどー、そろそろ始めちゃわない?」
すでにマイクを握りしめていた響子は、僕らに向かって話す。
「ああ、そうだな!」
響子に言われた俺はそう返事をした後、マイクスタンドから叫ぶ。
「えー、僕らは音楽研究同好会です! いきなりですが、これからライブをやりたいと思います!」
ーーしぃぃぃん。
これからやるライブを高らかに宣言するも、誰一人として反応するものはいない。
僕らに構わず、体育館にいる生徒はランニングやらキャッチボールをしている。
ーーふっ、こんなものは予想通りだ。
悲しくなるような冷めた雰囲気の中、僕は余裕を見せた。
これまでどれくらい、こんな雰囲気を味わってきたと思っているのか。冷ややかなオーディエンスの目などには、すでに耐性はついている。
僕らの目の前に金本たちがいて、うんうんとうなずいていた。
「芹沢さん……オーディオ機器の再生ボタンを押してくれないか」
「え? あっ、はい!」
芹沢さんは僕に言われ、ステージの後ろに置いてあるオーディオ機器に向かう。
再生ボタンを押すと、しばらくメトロノームの音が鳴って曲のオケが流れてる手はずになっている。芹沢さんがカチッと指で押した音を確認した僕は、ギターを構え直した。
ーーカッカッカ!
予定通りにメトロノームの音が聴こえると、芹沢さんは駆け足で戻ってくる。
「芹沢さん。もう少しでメトロノームからドラムの音に変わるから、そこでギターをジャランだよ」
「はっ、はい! ジャラン……ジャララン」
小声で芹沢さんに出だしのタイミングを教える。それを聞いた彼女は、確認するようにジャラランと口で復唱する。
「……大丈夫かな? 間違わないかな?」
直に曲が始まる。いざ、本番に近づくと芹沢さんは不安を口にした。
初めて弾くギターの生演奏。ギャルゲーソングとはいえ、楽曲をみんなで披露するプレッシャー。
僕は芹沢さんが思う気持ちを、誰よりも理解している。だからこそ、僕は彼女に伝えなければならない。
「大丈夫だよ、芹沢さん。僕らが一緒にいるから……ライブは楽しんでやればいいんだよ」
ライブはなにも完璧に。上手く弾く必要はない。
ギャルゲーソングを楽しく弾き、その姿を観客に見せればいいのだ。まずは、自分たちが楽しまないと。
それは、僕が金本たちから学んだギャルゲーソングの楽しみ方だ。
ーーカッカッカ! ドンッドド!
甲高い音から、ドシンとくるドラムの音が聴こえ始めた。
僕はそのドラムに合わせるように、ギターのフレーズを奏でる。
ーージャンジャカ! ジャラランー!
弾くギターの音色に録音された金本たちが弾く音が重なった。
ギャルゲーソングのイントロが、波を打つかのように流れてスピーカーから鳴る。
たとえ別録りされたものだろうと、その高いレベルの演奏を目の当たりにする。
まるで僕の横でいつものように弾く金本たちの姿を感じるように。
ーージャカ……ジャカジャカ。
そこに小さく自信がないような、か弱いギターが入ってくる。芹沢さんは下を向きながら、懸命に弾く姿を横目で見た。
ーー芹沢さん。ゆっくりだよ? 間違えてもいいからね。
芹沢さんの姿を昔の自分に重ね合わせて、僕は彼女の弾くギターに合わせる。
体育館に鳴り響く音に、まだ他の生徒は見向きもしない。
響子はマイクを握り直し、僕らが弾く音にタイミングよく歌い始めた。
ーー久しぶりのライブなのに、おまえは変わらずいい声を出してくれるな。
さすがギャルゲーソングを多く歌ってきただけはある。しばらく歌っていないとはいえ、完璧なパフォーマンスだ。
歌が始まると、少しずつ雰囲気が変わっていく。わずかながら、僕らのライブに耳を傾けている生徒がちらほら見えた。
「そこだあああ、岩崎君! そこは素早く正確にぃぃ! 感情を込めてぇぇ」
曲の途中、金本がいきなり叫び出す。
人の目など気にすることなく、僕の演奏に大きな声でダメ出しをしていた。
ーー金本先輩。応援してくれているからだろうけど、すごい浮いてますよ。
僕らき負けず劣らず、金本は体育館で浮いている。その姿に、荒木や和田が呆れている。
演奏に反応しているのは金本たちのみ。
そう思っていると、体育館から聴こえる音楽に他の生徒が中に入ってきた。
「なんだ? 軽音楽部の練習か?」
そんな風に話しながら、興味を持った生徒がぞろぞろと現れる。
ギャルゲーソングをやっているとは知らず、ステージで演奏しているのが珍しいから見に来たのだろう。
だが、目的の一つである観客を集めることは成功だ。
この中に僕らと一緒にギャルゲーソングを広めてくれるやつがいるかもしれない。
僕はそう思いながらギターを弾くと、マイクに向かって歌を歌う。
響子が歌う音程にハモるように、僕は声を上げた。その声量はさらに大きくなる。
本来のメインボーカルを食い、ハモリがリードする。それが、僕らのバンドの特徴だ。
「おい、ステージにいる女の子……かわいくないか?」
「だよな。ギターを懸命に弾いてる姿にグッとくる」
男子生徒はギャルゲーソングではなく、ギターを弾く芹沢さんに目をやっている。
ーーおいおい、ギャルゲーソングを聴け!
曲などそっちのけで、聴いている男は芹沢さんばかり注目していた。
そんな男子の視線など気づいていない芹沢さんは、慣れないギターを弾いている。
ちらりと僕のほうに顔を向けると、ニコリと笑う表情を見せた。
ーーよかったです。芹沢さんも楽しそうにしてくれているな。
彼女の演奏はめちゃくちゃだけど、それ以上にギャルゲーソングを楽しく弾いてくれている。
それだけで、今回は充分だろう。
数分の曲を弾き切った僕らは、無事にゲリラライブを終えることができた。
「えー、僕らの音楽研究同好会はギャルゲーの主題歌などを中心に……」
演奏が終わった後、僕は同好会員の募集をマイクに向かって話す。
芹沢さんという注目される要因があるものの、ギャルゲーと聞くやさっさとしらける。
僕の話を聞かず体育館に来た生徒たちは去り、部活をしていた生徒は練習を再開する始末。
「はあ……結局、誰も同好会に入りたい人は現れなかったな」
部室に戻った後、僕はがくりと肩を落としてそうつぶやく。
「ごめんなさい! わたしがもっと上手く弾けてたら」
「いやいや、芹ちゃん! 最初にしてはよかったよ。それに、みんなが芹ちゃんの弾く姿に目がハートだったしー」
申し訳なさそうに謝る芹沢さんに、響子はそう感想を述べている。
たしかに、ライブとしては残念な結果となったけれど注目された点に関してはよかったのだろう。
やはり、女の子がギターを弾いているのは男子にはポイントが高い。
「けど、新入会員さんが集まらなかったし」
「まあ、仕方ないよ。そんなすぐには廃部にならないし、ゆっくり集めていこう」
「ギャルゲーソングっていうのが、みんな嫌なのかなー?」
「いや! 必ず誰かしら、このジャンルに共感する人が現れるはずだ! そして、いつか必ず部室の扉を叩くだろう!」
ここでめげていたら意味がない。とりあえず、今後は継続して、学校でゲリラライブを開催していこうと考える。
ーーコンコン。
そう芹沢さんたちに話していると、部室の扉を叩く音が鳴る。
「誰だ? 金本先輩たちが来たのかな」
僕は扉のほうへ向かい、ドアノブを回した。
「先輩方! ゲリラライブの感想でも言いに来たんです……か?」
扉の前には、見知らぬ生徒が二人立っていた。




