第二十四話「来たるスーパーマーケットライブ。アゲイン!」
ついにスーパーマーケットでのライブ当日。
さっそく店に着いた僕に、店長らしき人が近づいてきた。
「やあやあ! 金本の後輩君たちだね。今日のイベントに参加してくれてありがとう」
「は、はあ……あの、代表の岩崎です。今日はよろしくお願いします」
やたら陽気な店長にペコリと頭を下げると、みんなも同じように会釈をする。
簡単な挨拶を交わした後に、店長さんからイベントの流れを教えてもらう。
「……というか、バンド演奏するのは僕らだけなんだな」
「ですね。てっきり、イベントに出るのはバンドマンだけかと思いましたよ」
店長さんと話終わりイベントが始まるまでの間、楽屋みたいな小さい部屋に案内された僕らはそう口にする。
僕ら以外にイベントに出るのは、三組。
地元の無名なマジシャン。ご当地ヒーロー。そして、どこかで聞いたことのあるお笑い芸人。
店としてはお笑い芸人をイベントのメインにするような組み合わせ。
「なんか、思ってたイベントとは違うな」
「なにこれ……ありがちなスーパーマーケットの催しじゃん」
響子は期待はずれをしたように不満を口にする。金本からの提案だからと思っていたが、なんら普通のイベントだ。
「やあやあ! 皆の衆、集まっているかね?」
噂をしていると、金本が部屋に入ってきた。すかさず僕らは、金本へと詰め寄った。
「ちょっと、金本先輩! なんですか今日のイベントは」
「なにって、君らの初ライブだろう?」
「そうだけど金ちゃん! なんで、あたしら以外の出演者がバンドマンじゃないのよ! マジシャンにお笑い芸人って」
「あっ、当たり前ではないか……スーパーマーケットの開業イベントなんだから」
思っていたのと違うこと話すと、金本はたじろいながら答える。
「バンドのイベントじゃないんですね……」
琉偉たちも後ろのほうで、ぼそっとつぶやく。
「なにをいうか! こういうイベントの中でこそ、ギャルゲーソングの良さを広めるにはうってつけだろうに」
「いや、どう考えても客の目的がお笑い芸人のライブでしょうよ」
「お子さまには……ヒーローショーでしょうし」
ギャルゲーソングを知らない人たちに向けての演奏をするのはいいのだが、初ライブではハードルが高すぎる。
いくら良さを知らしめるとはいえ、聴く人がいるのか不安になる組み合わせだ。
「ええい! そんなことでクヨクヨするでない! 芸人目当ての客や、お子ちゃまがいようともギャルゲーソングを弾いてやればいいのだ」
「でも……あたしら、トップバッターですよ」
瑠奈はもらったイベントの予定表を見ながら、そう口にする。
「本当に、大丈夫なんですかね。俺らの初ライブが一番最初で」
僕らはともかく、一年生の二人は初バンドのライブパフォーマンス。
二人はライブをやったことがないことに加え、もしかしたらスベるのではないかという不安がある顔をしている。
もちろん、芹沢さんもだ。
「とにかくだ! ガッカリだとか、一番手で不安がらずに全力でゆけい! ギャルゲーソングをスーパーマーケットに響き渡らせるんだ」
そう言って金本は部屋を出て行った。
「いや……俺たちがやるのは、アニソンなんですけど」
琉偉の正確な指摘を聞くことなく金本が去った後、入れ替わるように店員さんが入ってくる。
「もう少しでイベントが始まりますんで、とりあえずリハーサルをしてもらっていいです?」
「は、はあ」
慌ただしく店員さんに言われ、僕らはとりあえず楽器を持って着いて行く。
しばらく歩いたら、広いフロアに着いた。
イベント会場となるフロアはすでに出来上がっており、それらしいステージが設置されている。
「リハーサルって言っても、普通に買い物客があちらこちらで歩いてますね」
「人通りが普通にある中でやるんだ……」
「バンドのリハーサルって、人がいる中でやるものなの? 岩崎君」
初ライブ組である三人は、周りの買い物客を見ながらそれぞれ口にする。
芹沢さんに尋ねられた僕は、苦笑いを浮かべながら答えた。
「ライブハウスじゃあないからね……スーパーマーケットとかなら、この中でやるしかないよ」
もはや本番に近いような形で、僕らはこれからリハーサルをやるのだろう。
恥ずかしさは、もはや本番よりも大きいかもしれない。
「それじゃあ、ステージに立ってもらって楽器を鳴らしてもらっていいですか?」
「あっ、はい!」
そんな僕らに構うことなく、店員さんに急かされるとステージに上がる。
言われるがまま、指示に従って楽器を構える。
アンプにギターを繋げて、立つ。
ーーリハとなると、やっぱり曲は弾かないとだよな。
ステージから辺りを見渡すと、買い物客がチラチラと視線を向けてくる。
「……やっぱり、視線が気になるな」
これまでバンドのライブをやってきたから、変な目で見られるのはわかる。しかし慣れてはいるものの、複雑な気持ちになる。
「このままでいかないな。気持ちを切り替えないと」
こんな心理状態ではいいライブはできない。僕は目の前のことに集中して、リハへと挑む。
ドラム、ベースと音のボリュームを調整して店員さんからオーケーサインが出る。
「それじゃあ、次はギターですね。ギター担当の二人、音を出してもらっていいですか?」
ささっと琉偉たちの番が終わり、僕と芹沢さんの番がきた。
ーージャラランー!
正面にいるPAさんらしい人が、だるそうに機材をいじっている。
「あの、岩崎君。わたし、この音量でいいのかな?」
「いいんじゃないかな? 細かい設定はPAさんがしてくれるだろうし、ボリュームはフルテンで」
芹沢さんがギターに付いているボリューム、トーンを回しながら尋ねると、僕はそう答えた。
問題はバンド全体の音が正しく調整されているかだ。そのためには、みんなで音を合わせなければならない。
「よし! それじゃあ、軽く曲を弾いてみるか」
僕はみんなにそう声をかけて、ライブてやる曲を弾こうとしていた。
ギターを構え直しマイクに口を近づけようとした時、店員さんから思いがけない言葉を投げかけられる。
「すいませーん! お笑い芸人さんが早めに入られたんで、とりあえずステージから降りてもらっていいですか?」
「え? いや、リハーサルは? 曲の全体を把握しないと」
「音量はバッチリなんで、大丈夫ですよ。ささ、降りて降りて」
店員さんがステージに上がり、追い出すように僕らをステージから降ろす。
その後、お笑い芸人さんが丁重に案内されると店員さんとなにか話始めた。
「先輩……大丈夫なんですか? すごい扱いが雑になりましたけど」
「相手はお笑い芸人だしねー。あたしらみたいな学生バンドとは、扱い方が違うよー」
「なんか、嫌な感じっすね」
ステージから追い出されたみんなは、傍からそう不満の声を上げる。
僕はふつふつと怒りを覚え始めた。そして、僕はみんなに声をかける。
「みんな……あんなお笑い芸人より、すごいライブをやるぞ」
こんな扱いをされて、バンドとして怒らないやつはいない。
よくある接待イベントなど、僕らがぶち壊してやる。ギャルゲーソングもとい、このアニソンで。
今日のイベントで、なにかしら爪痕を残す。
僕はそう使命感のようなものを抱きながら、ライブ本番を待った。
そして、怒涛のアニソンライブが始まる。




