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オタクと美少女はバンドでギャルゲーソングを知らしめたい?!  作者: 獅子尾ケイ
再始動!新しいギャルゲーソングバンド編
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第二話「転校生。それは舞い散るアレみたいな人」

 同好会に新しい人が来ないまま、数日が過ぎた頃。僕のクラスに転校生がやってきた。こんな時期に転校とは珍しい。


「ねえ、がんちゃん。転校生って、男の子かな? それとも、女の子?」


「……知らないよ。そんなことより、このままじゃあ同好会がなくなっちゃうよ」


 前の席に座る同じくクラスメイトのひなたがそう僕に聞いてくる。今は転校生イベントなど、どうでもいい。それよりも、同好会でのバンドのほうが重要だ。


「よーし! みんなが待ちに待った転校生の紹介だ! さあ、入ってきなさい」


 担任の山本先生がそうテンション高く話すと、転校生が姿を現す。


「……芹沢(せりざわ)あきらです、よろしくお願いします」


 教室に入って来たのは、女子だった。


 すらっとした体に、肩まである黒髪。独特なオーラを放つ彼女は、静かに自分の名前を口にした。


 その容姿から、クラスの男子は歓喜の声を上げる。


「静かに! えーっと、芹沢の席は岩崎の隣だな」


 山本先生に言われ、転校生の芹沢さんが俺の隣の空いている席に座った。


「よろしくお願いしますね」


「あっ、ああ。よろしく」


 芹沢さんからそう一言話すと、釣られるように僕は返事を返した。


 授業が終わった後、山本先生から芹沢さんに放課後に校内を案内するように頼まれた。


「いやいや、山本先生……なぜに僕なんですか?」


 他の男子生徒から睨む視線を感じながら、そう尋ねる。


「席が隣だから」


 そう一言だけ言って、先生は教室を出て行く。


「はあ……これから部活があるっていうのに」


 僕はため息をついて口にしていると、芹沢さんから声をかけられる。


「ごめんなさい、岩崎君。時間を取らせてしまって」


「いやいや、大丈夫だよ! とりあえず、放課後になったら学校の中を教えていくね」


 申し訳なさそうにする彼女に、僕はそう答えた。


 ーーとなると、今日は同好会に行くのはなしだな。


 放課後になり、僕は芹沢さんと校内を歩いては各教室を案内する。


「そういえば、芹沢さんは部活動とか決めているの?」


 この学校では、生徒は必ず部活に所属しなければならない。僕はなにげなく、彼女にそう尋ねた。


「いいえ、まだ。一応、先生から部活について教えてもらったのだけれど、たくさんあって」


 たしかに、部活は様々だ。その中で、自分がやりたいものを決めるのだから迷うはず。


「仙道君は、どの部活に? 背中のギターを背負っているから、軽音楽部?」


「いやあ……僕は」


 側から見れば、軽音楽部に入っていると思うだろう。


 僕だって、入学した頃は軽音楽部に入りたかった。まあ、見た目がアレだから拒否されたけれど。


「にっ……似たような部活かな? ははは!」


 はぐらかすように芹沢さんに答えていると、金本の姿が見える。


 ーーあっ、金本先輩だ。


 僕が女の子と二人でいると、まるで鬼のような顔をするに違いない。


 そう思っているとこちらに気づいたのか、金本が近づいてくる。


「岩崎君ー! さあ、今日も部室で新作チェックを……あああああ!」


 どうやら僕が芹沢さんと一緒にいるのを見たのか、でかい声で叫んだ。


「岩崎ぃぃ! きさまあー、なぜ女の子と一緒に歩いているんだあああ!」


 ーーやめてくださいよ、廊下で叫ぶだなんて。恥ずかしいじゃないですか。


 僕は周りの目を気にしながら、ため息をつく。


「岩崎君、あの人は?」


「え? あ、ああ……えっと、部活の先輩」


 本当は芹沢さんに、金本先輩とは出会わせたくなかった。


 なぜか、会わせてはいけない。そんなふうに思ってしまったからだ。


「なるほどなるほど、転校生とやつか。こんな時期に来るとは、まるでエロ……ふがががが」


 僕は金本がそれを言い切る前に、口を塞ぐ。


「先輩……それ以上は言わんといてください。僕という存在が、危ぶまれますんで」


 芹沢さんはどう見ても、その手のジャンルとは無縁だろう。


 そんな彼女に、僕がムフフなゲームをしている。ましてや、そんなゲームの曲を部活で弾いていると知れたらどうなるやら。


 ーー岩崎君がギャルゲー? 変態なんですね。


 そう冷ややか視線で言われ、その後はクラスでも無視される。


「いやああああ! せめて、教室の中だけでは普通の生徒にいさせてえええ!」


 勝手な妄想に、僕は思わずそう叫んだ。


「大丈夫ですか? 岩崎君、あの……先輩が白目をむいて顔面が真っ青だけど」


 芹沢さんに言われて金本を見ると、今にも泡を吹きそうな状態になっている。


「うわ! 気持ち悪い!」


「気持ち悪いとはなんだ! いきなり、口を塞いで僕を始末するつもりか!」


 正気に戻った金本が、怒った顔をして僕に話す。


「とっ、とにかく! 芹沢さんは転校生で、今は案内中で忙しいから部活には行けません」


「ぐぬぬ、せっかく岩崎君が好きそうなタイトルを持ってきたのに……」


「というか、先輩……受験勉強してくださいよ」


 勉強をしている素振りもなく、未だに一人だけ同好会に来る金本に呆れてしまう。


 すると、僕らのやりとりを聞いていた芹沢さんが思いがけないことを口にした。


「岩崎君が同好会で、どんな活動をしているか見てみたいです」


「……え?」


「おお! なんと、素晴らしい提案だろう。さては、まだ部活は決まっていないとみる」


「はい! 岩崎君が楽器を弾くところも、見てみたいですし」


 ーーいやいや、芹沢さん。せめて、まともな部活を見学してから思いついて。


 先ほど、音楽系の部活に入っていると話したから興味が湧いたと思ったからだろうけれど、あきらかにそれは間違い。


「せっ、芹沢さん。せめて、他の部活を見学してからがいいんじゃないかな?」


「え、どうしてですか?」


 芹沢さんは僕の言葉に、疑問を持つように答えた。


「いや……僕らの同好会って、きっと芹沢さんにはハードルが高いような」


「さあさあ! 岩崎君など気にせず、部室に向かおうではないか! ささっ!」


 僕の言うのをさえぎるように、金本は芹沢を連れて部室に向かっていく。


「あばばばば……まずい、まずいぞ」


 先に行く二人を追いかけて、慌てて走り出した。


 部室に到着すると、すでに金本と芹沢さんは中に入っている。


 いつも通りならば、今日も僕と金本しか部室に訪れない。他の連中は、受験で忙しいはずだから。


 金本をどうにかして、芹沢さんには適当に僕のギターを聴かせて帰ってもらう。


 ギャルゲーやマニアックなアニソンでなければ、問題ない。僕はそう考えて部室のドアノブを回す。


「やっ、やあ。岩崎君」


「お、やっと来たのか。久しぶりだね」


「キョウちゃん! 転校生だって? もしかして、同好会に入会希望者を連れてきたのー?」


 中に入ると同好会員が勢ぞろいしていた。


「なんで……みんなが、部室に来てんだよおぉぉ!」


 あまりにも絶望的な状況に、僕は思わず叫んでしまう。


「……みなさん、個性的な人たちなんですね」


 狭い部活の椅子に座っている芹沢さんは、少し困り顔をしながらみんなに話している。


「ふふ、部室に来いと呼ばずに全員が集まるとは……まさに絆!」


 金本は高らかに笑いながら、まるで役者にように台詞を吐く。そして、ギターを肩にかけていた。


「今、僕が言った通りだ! さあ、みんな楽器を持てい! 久しぶりの演奏じゃああ!」


「はあ? いきなりか? しばらく弾いていないから、指が動くかわからんぞ」


「けっ、けど。新しい会員を増やすチャンスだよな」


「岡山の言う通りだ! 昔、岩崎君が我が同好会に来た時のように、我々の活動を披露するのだ」


 金本がみんなに声をかけ、それぞれが楽器を取り出す。


「わあ! なにが始まるんですか?」


 芹沢さんはこれからやることに、ワクワクしている。


「さあ、岩崎君! ギターを持って真ん中に立ちたまえ! 君の大好きな演奏会だ」


 金本に引っ張られ、無理やりギターを持たせられた僕はマイクスタンドの前に立つ。


 僕の思惑は見事に崩れ、ほぼ強制的に演奏をしなければならない状態だった。


「まずは……芹沢さんでいいんだっけ? 我が音楽研究同好会にようこそ! 僕らの活動の一つを見ていただこう」


 金本は芹沢さんにそう話す。それは、僕が初めてこの同好会に来た時と同じ台詞だ。


 ーーギャルゲーソングを世に広めるべく立ち上がった同好会。


 その始まりである、ギャルゲーソングを今から弾く。転校生である、芹沢さんの前で。


 僕らの新たな物語が、スタートする最初のイベントだった。

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