第十七話「美少女も特訓すれば、キュートギタリストへ変わる」
金本と和田にやるギターレッスンは、気が付けば毎日やっている。
「まあ、勉強ばかりだから息抜きもしないとね」
そうは言ってくれているが、放課後に僕らの練習に付き合っていた。それも、長い時間。
忙しい時期であるのだろうけれど、このレッスンによって芹沢さんのギターテクニックは遥かに上がっていた。
ーージャーン! ジャラランー!
彼女のギターからは、はっきりとメリハリがついた音が鳴っている。
「ふむ! よいではないか。見違えるほど、いい音だ」
「そうだね。きちんとコードは押さえているし、教えたことができているね」
金本たちは芹沢さんの弾く音色を聴きながら、そう口にする。
「それに比べて、岩崎君! 君はなんだい」
クルッとこちらに顔を向けて、金本は険しい顔を浮かべた。
「なんだいって……どういうことですか、これはー!」
芹沢さんに弾き方を教えてると同時に、僕に難問を押し付けてきた。
本来、芹沢さんの弾くパートから鳴らせる音を、僕が弾くギターに上乗せされる。
「曲のギターは君を中心に回っているのだ! 何年ギターをやっているのかね? これくらい、やりたまえい!」
「いいますけどね! 地味に難易度が上がってるんですよ? ジャカジャラ弾く以外に弾くところもあるし」
「だから、君に丸投げ作戦なんだろう!」
芹沢さんのために考えられた僕、岩崎にすべて丸投げ作戦。つまり、彼女が弾かないところを僕が弾くというもの。自分のパートをしながら。
「けど、この曲はシンプルなバンド構成だからそこまで高いテクニックはいらないよ」
「その分、僕のギターが目立つじゃないですか……ボーカルもやるんですよ」
ボーカルも兼任するとなると、いくらシンプルでも慌ただしくなる。
「ごめんね、岩崎君……」
「いやいや! 大丈夫だよ、芹沢さん。僕に任せて」
僕は謝ってくる芹沢さんに、余裕があるように答えた。
「けど、岩崎君の負担が少なるように頑張らなきゃ」
「芹沢さん……」
そう言って芹沢さんはまたギターを練習し始める。その姿に僕は、嬉しい気持ちになった。
「なんだ? あの、ラブな雰囲気は……フラグを立ててんのか」
「ははは、青春しているねぇ」
金本たちから妬ましい視線が送られてくる。
「いらあ……なんか、気に入らないぞぉぉぉ!」
金本が嫉みの一言を言った後、立ち上がって僕に話す。
「さぞ仲良くしているんだろうねぇ、岩崎君。ならば、もう二人でギターは弾けるよねぇ?」
「なっ、なにを言っているんです?」
嫌な予感がした僕は、金本にそう答えた。
「ならば……練習はここまで! 二人には曲をサビまで弾いてもらおうか!」
「え……」
教えてもらいながら弾いていた芹沢さん。そんな彼女と一緒に弾くのは、まだ早いのではないかと思う。なにより、僕自身がそこまで完璧に弾ける自信がないのだ。
しかし、あの金本が放つオーラに断ることはできない気がした。目が怖すぎる。
「さあさあ! 君たちの演奏を、僕らに披露したまえ!」
「どうしよう、岩崎君。やらなきゃダメだよね?」
「うーん……そうだね。とりあえず、失敗していいから合わせて弾いてみようか」
「うっ、うん」
僕と芹沢さんは椅子から立ち、ギターを構える。金本たちが見つめる中、僕らは曲のイントロから弾くことにした。
「ふむ! では、弾いてもらおうか。岩崎君たちの実力とやらを」
「まあ二人とも、リラックスして弾けばいいよ。金本のことは忘れて」
和田はそう話すと黙り、僕らの演奏を待つ。
ギターが上手い二人の前で弾くのは、今になっても少し緊張する。
「よし……それじゃあ、芹沢さん。せーので、弾こう」
「わかったわ。岩崎君、わたし……頑張るね」
ギターのネックを握り、右手でピックを構える芹沢さんを確認した僕はうなづき、同じように構えた。
「ふうー! それじゃあ、いくよ! せーの!」
僕は一呼吸した後、声を大きくかけ声を上げた。僕らは同時にギターの弦へとピックを振り下ろし、音を奏でる。
ーージャカジャカ! ジャラン、ジャララン!
タイミング良く二つの音は重なり、曲のイントロ部分を弾く。
貸しスタジオで弾いた時より、芹沢さんの弾くギターは上手くなっている。
三つの弦しか押さえない彼女だが、正確にポジションを押さえてスムーズに弦をはじいていた。
ーーやっぱり教えてもらったおかげか、コードチェンジが綺麗にできている。
ギターを押さえる指を懸命に見ている芹沢さんを僕はそんな風に感じていた。
テンポも良く、原曲のリズムで弾く彼女は大きく変わった。間違いなく、ギターを弾けている。
「ほう! よいぞよいぞ、芹沢さん。曲のイメージ通りに弾けているではないか!」
金本は芹沢さんのギターを聴きながら、満足げな顔を浮かべて話す。
僕のギターも負けじと、手際よく弾く。
芹沢さんが他に弾く音を僕が代わりに鳴らす。自分のパートに付け加えられた部分をこなしながら合わせて弾く。
ーーえっと、ここで小指をこの位置で……うわ、次はこのコードか。
忙しくなる自分のギターフレーズにあたふたしながら、芹沢さんの音に重ねていく。
ほとんどソロギターみたいな弾き方に、僕は悪戦苦闘する。
けれど、弾いていく内に段々と慣れてくる。一生懸命に弾く芹沢さんに、僕も弾かなければならない気持ちになった。
イントロからサビへと繋がり、気がつけば曲のギターを弾きこなせていた。
ーージャン! ジャラランー!
キリのいいところで僕らはギターを弾き終わる。
「やった……やったよ、芹沢さん! なんとか弾けたね!」
「うん! けど、わたしのギターはきちんとできていたかな?」
「もちろんだよ! ちゃんと、サビまで弾きこなしていたよ! すごいよ!」
「えへへ」
ギターをうまく弾けたことに僕と芹沢さんは大きく喜んだ。僕は思わず、彼女の手を握り大きく振る。
「わ、わわ! また思わず握ってしまった……ごめん、芹沢さん」
「う、ううん。大丈夫、気にしないで」
お互いに恥ずかしくなってしまったのか、手を離した後にもじもじした。
「……」
そんな僕らに、金本たちはじっと睨みつけながら黙っている。
「あっ、先輩。どうでした?」
僕はすっかり金本たちを忘れてしまい、改めて感想を尋ねた。
「うん、悪くなかったよ。岩崎君が多少もたついた感はあるけど、きちんと曲のギターになっていたかな」
和田は演奏を聴いて、そう感想を述べる。
「きえええい! ラブコメしやがって、実にけしからーん! だが……この短期間ではまずまずだな」
「なんか、喜んでいいのかわからんない感想っすね……金本先輩」
「だまらっしゃい! この程度で喜ぶのは早い! この曲を弾いたキャラの心情を理解して、さらに完璧なギターにしなければならんのだ」
「は、はあ……」
「特に岩崎君! 君にはさらにハードできつい練習をさせなければならん。さあ、ギターを構え直せー」
襲うように僕に迫る金本は、僕にギターを無理矢理構えさせてくる。
「でも、このくらいできたなら他のパートに合わせても大丈夫じゃない? なんなら、馬場さんに歌ってもらうのもありかも」
「あの、このわたしが弾いたギターでもいいんですか?」
「うん、とりあえずは。けど、慣れてきたら岩崎君にやらせた部分も弾けたらさらに良しかな」
「はい、頑張ります!」
和田に芹沢さんはそう話すと、ギターをじっと見つめる。
金本たちからの指導は一旦区切りをつけ、次は響子たちの前で弾くことになるだろう。
「よし! 芹沢さん、もう一回弾いてみよう」
「うん!」
金本を払い除け、僕は芹沢さんともう一度ギターを弾く。
あいつらを驚かせるために、僕らは今一度練習を始めるのだった。




