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オタクと美少女はバンドでギャルゲーソングを知らしめたい?!  作者: 獅子尾ケイ
最終章!僕らのギャルゲーソングを紡ぐ物語は終わらない!ネクストステップ編
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第百五十八話「あの頃と同じならば、僕はきっと……」

 ジャスティンさんからの電話があった日からだいぶ時間が過ぎた頃に僕の日常を取り戻すようなことが起きる。


 きっかけはやはりこの男。


「いわさきぃぃぃぃぃ! いったい、全体、どういうことだ! この金本様に説明せいいぃぃ」


「どこからともなく、いつもの唐突に現れますね……金本先輩」


「おだまり! って、君一人か? 芹沢さんたちとは一緒ではないのか?」


 金本がそう尋ねると、そこで僕は黙ってしまう。


 芹沢さんたちとはしばらく会えていない。というのも、ミニコンサートの時が話題になったのがさらに各方面へと知られていき、今ではちょっとした有名人になってしまった。


 テレビ出演とまではいかないがインターネットのメディアが芹沢さんたちにインタビューをしたり、特集記事になるまで。


 そこに僕の存在はなく、完全に注目される女子高生バンドのようになっていた。


「ほふぅ……たしかにいろいろな記事が出ているな。けれど、なぜいギャルゲーソングのギャの字もないんじゃい!」


「まあ……よくある大人の都合ってやつじゃないんですか?」


 世間一般な事情などはわからないが、ギャルゲーソングがあまりいい印象を与えないのは昔からのよくある話だからだろう。


 それを変えるための僕らの同好会での活動だけれど、それが今だに達成できない大きな壁である。


「それに、うちの校長らもその話題性に乗っかって学校のイメージ戦略を狙っているのが丸わかりみたいな感じですし」


「たしかに……あのハゲ校長め、下衆の極みではないか!」


「ですから、しばらく芹沢さんたちとは部活は難しいそうです。今日も山本先生同伴で、音楽雑誌のインタビューを受けに欠席扱いですからね」


 最近はほとんどそんな感じだ。


 一人でいることのほうが多くなった僕は、こうやって廊下で黄昏ているのだ。


 そんな僕に金本は面白くないような顔をしながら話を続ける。


「この金本様はこんなちやほやされるために同好会を作ったわけではない! 岩崎……」

「はっ、はい……」


 いつも見せない真面目な目で僕を見つめ、金本の真剣な声のトーンに僕は息をのむ。


 彼からしたらギャルゲーソングを世に知らしめるための同好会である。それはあくまで曲の良さを知ってもらうためであって、アイドルを作るようなことではない。


 同好会長を引き継いだ身として、こんな結果にさせてしまったことに素直に僕は申し訳なさを感じる。


「今日の放課後……同好会室に集合だ」


「へ? あれ、怒らないんですか?」


「いいから来たまえ! どうせ、芹沢さんたちは今日も同好会の活動はしないのだろう?」


「はっ、はあ」


 そう言うだけ言って、金本はズカズカと歩きながら教室へと戻っていった。


 ――なにが起こるというのです?


 てっきり怒鳴られると思ったが、そんなことはなく突然部室に来いと。よくわからない展開に僕はとまどう。


 結局、言われるがまま僕は放課後になると部室へと向かおうと思った。


 そして僕は放課後になると約束通り、部室に行くために教室を出る。


「そういえば、僕が同好会に初めて行った時も放課後だったな」


 軽音楽部から入部を拒否されて、山本先生に相談をしたら金本たちがいる音楽同好会を紹介してもらった。


 山本先生から同好会がある教室へ連れて行ってもらったことを僕は歩きながら思い出し笑いを浮かべる。


 王道のロックバンドを組み、音楽の高校生活を送ろうと思っていた僕だったが、今ではギャルゲーソングをバンドでやる男になってしまった。


 いろいろなことがあったなと思い出しながら部室へと向かう。そして、去年とは場所は違うけれど、あの時と同じように扉の前に立つ。


 ――ガラガラ。


「金本先輩、やってきましたよー?」


 僕は部室のと扉を開け、中に入った。


 そこには金本だけではなく、和田や荒木、岡山とかつて一緒にギャルゲーソングを弾いてきた先輩たちが全員集合していた。


「ようこそ、我が音楽研究同好会へ!」


「いや、あの……いったい、なにが起きているんです?」


 目の前には金本たちが楽器を手に持ち構えていた。そして、金本はパソコンのキーボードをカチッと押す。


 すると、どこか懐かしくて聞き覚えのある曲が流れ始める。その後、その曲に合わせて金本たちが一斉に楽器を弾き始める。


 その瞬間。僕は初めて音楽研究同好会で聴いたギャルゲーソングだとすぐに気が付く。


 それは、僕がギャルゲーソングの良さと金本たちの弾く楽器の音に魅了された曲。


「……ははは、ピュアピュアLOVEだ」


 そのふざけたタイトルのギャルゲーソング。けれど、たしかに僕の心が躍り、ギャルゲーの価値観を変えてくれたものだ。


 金本たちはあの時と変わらない音とテクニックで、曲を完璧に弾きこなしている。


 なにより、彼は本当に楽しそうにギャルゲーソングを弾いている姿を僕は

 ただ見つめていた。


 CDの音がフェードアウトしていくと共に、金本たちの演奏も終わっていく。


 ――パチパチパチ!


 僕は無意識のうちに拍手を送っていた。


「いやあ、久しぶりに弾いたけど……腕が落ちたな」


「だなあ。俺なんて、ベースをしばらく弾いてなくて指が痛いわ」


「けっ、けどさ。それでもみんなで弾いてみると、やっぱりうまくできたよな」


「はっはっは! 貴様らは勉強なんぞばかりに集中をしているからだろう! たまにはギャルゲーソングを弾けい」


 演奏が終わった後。金本たちは自分らの演奏を振り返って、話が盛り上がっていた。


 その雰囲気はかつて彼らといた時となにも変わっていない。


「けど、どうしたんですか? いきなり、先輩たちが集まって曲を弾くだなんて」


「ああ。金本から岩崎君がものすごく落ち込んでいるって真顔を言っていたからね……」


「え?」


「そっ、それで、なにかできたらなって思ったら金本がいきなり部室でギャルゲーをソングを弾けってなかば強制的にさ」


「まあ岩崎君にもいろいろあるだろうから、僕らも久しぶりにみんなと弾けてよかったしね」


 金本なりの気遣いだろうか。めったにそんなことをしないのに、まさか僕を勇気づけるために他のメンバーを呼んだのか。


「金本先輩……」


「ふははははは! どうだい、岩崎君! これが真なるギャルゲーソングを知らしめ方ってやつだ!」


 その意図はわからないが、少なくともギャルゲーソングを純粋に聴いてその良さを再認識できた。


「まあ、芹沢さんたちはチヤホヤされてはいるが、ギャルゲーソングを知らしめることは忘れていないだろう」


「そうそう。まあ、話題になってしまうのは仕方ないし、超展開に気持ちが追い付かないのも理解できるさ」


 僕はそこまで落ち込んでいたのだろうか。ここまで顔に出ていたのかと思うと実に情けなさを感じる。


 それでも、金本たちの演奏を聴いた時にはそんな気分ではなく、ただ楽しい気持ちになっていたのは事実だ。


「まあ、あれだ! 今は、なにも考えずギャルゲーソングを楽しむがよい」


「そうですね!」


 いろいろとくすぶっていたのは本当のことだ。ミニコンサート以来、自分の中でなにかしら変化はあったし良いも悪くいも起きていることは仕方がない。


「よし! それじゃあ、せっかくだし……岩崎君も入りたまえ! 今日限りの元祖音楽研究同好会バンドを再結成だ!」


「……え?」


 ノリで金本はそう言ってはいるが、てっきり僕もこの場に入ってみんなでなにか弾くと思っていた。


 それは和田たちも思っていたことだろうけど、金本の目的はどうにも違うように思えてくる。


「あの、金本先輩……なにを始める気ですか?」


 とても嫌な予感がしてきた僕は、そう金本に尋ねると彼はニヤリと笑って答える。


「ふふふふ……再結成だと言っただろう? つまりはそう、ゲリラライブだ!」


「「えええええええ?」」


 金本以外の全員がいきなりの言葉におどろきの声を上げる。


 そして、本当に今日限りの初代ギャルゲーソングバンドのゲリラライブが始まろうとしていた。

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