第百五十六話「浸透する話題性!そして、僕は」
ミニコンサートでのイベントも終わり、いつも通りの学校生活に戻っているのだがどうにも違和感がある。
――ひそひそ。
廊下を歩けば、誰かにウワサをされているように感じる。
それは嫌な感じとかではないのだけれど、どうにも気になるものだ。
「いったい……なにが起きているんだ?」
この校内で起きていることに僕は理由がわからず、もやもやした気分が続く。
「どうしたの? いつにもなく死んだような顔をして」
「おー、ひなたか……いやあ、それがさあ」
同じクラスメイトであり、乙女ゲームプレイヤーの申し子たるひなたに僕はここ最近の違和感を相談する。
すると、ひなたはぽかんとした顔をして答える。
「いや……がんちゃん。あんた、ネットを見てないの?」
「え? なんで、そこでネットの話題になるんだ?」
いきなりネットの話になって困惑する僕に、ひなたはため息をつきながら話を続ける。
そして、ひなたは自分のスマホを僕に見せてくる。
「……なんだ、これは」
スマホの画面には、この前やったミニコンサートに関するSNSの記事がたくさんある。当然、MARINAに関することが目立つが、その中の動画には僕らの演奏しているシーンばかりだ。
「この前からミニコンサートの投稿がすごいのよ! あのMARINAと一緒にやった高校生はどこの学校だって、ネットで大騒ぎよ」
「おおう……けど、僕らの演奏が認められたってコト?」
「いや、話題なのは可愛い女子高生がギャルゲーソングをやっていることなのよ! オタクが歓喜に満ち溢れているの!」
「いや……僕は?」
「え? がんちゃん、その場にいたの? 動画には映ってないし、誰も男がいたなんて書いてないよ」
――観客のオタクどもめが……なんという捏造記事を書いているんだよ。
あれだけセンターでギターを弾いて男性ボーカルだったのに、それすら記憶に残っていないことにおどろきと殺意が湧いてくる。
だが、まさかここまでネットで話題になるとは思いもしなかった。
無名に等しい高校生バンドであるものの、いろいろな人が演奏についてつぶやいている。
「まだギャルゲー界隈の人たちだけが盛り上がっているけど、動画だけを見たら他の人も魅力的だなあって思うよ! 芹沢さんや馬場さんかわいいしさ」
「うむう……まあ、そうだが。そんなサクセスストーリーみたいにはいかないだろう」
話題性ありな芹沢さんたちであるのは間違いないが、そこまで僕らの演奏が知れ渡るとは思えない。
去年、金本たちと似たようなことはあった。だが話題になったのは一瞬で、それからはまったく話題にもならないくらい沈静化したものであった。
こういった経験から、今回もそこまでとはいかないだろうと思っていた。
「なんかさー。ちらちらとあたしらを見てる感じがするよねー」
「そうだね。なんだろう? なにかわたしたちって、学校で問題を起こしていたのかな?」
しばらくして、芹沢さんと響子がそう不満げに話しながら教室に入ってくる。
二人はまだ事情を知らないのだろう。僕と同じような感じに陥っているようだ。
僕とひなたは芹沢さんたちを呼んで、このことを話す。
「「えええー?!」」
二人は話を聞いておどろく。
知らぬところで話題にされているのだから、良い気分とは思わないだろう。そう思っていたが、響子だけは違った。
「マジでー! いやあー、もしこれが芸能界とかの目に止まったらどうしよー! ギャルゲーソングで成り上がる美少女バンドマン……ありだね!」
「ねーよ! あってたまるか!」
「あら、やだー! キョウちゃんてばー、自分がまったく印象に残らなかったからってー八つ当たりしないでよねー」
「きぃぃぃぃ! もう、しらん!」
「わはははは! 図星だわ、ウケる―! ねえ、芹ちゃん?」
「はははは……」
図星をつかれたわけでもないが、響子の茶化す言葉に僕は怒りを爆発させたようにさけんで、思わず席を立って教室を出ていこうとする。
「え? 岩崎君、もうすぐ授業が始まるよ?」
「腹痛で欠席にしてもらって! すこし、精神を整えてくるからさ」
そう僕は芹沢さんに伝えて、教室を後にした。またに、意味不明な行動である。
しばらく廊下を歩くも目的地がない。僕はとりあえず、部室に向かうことにした。
「ふう……」
結果的に授業をさぼった形になったが、誰もいない部室にいるのも悪くはない。普段はガヤガヤとした話し声と楽器の音が聞こえる部室。けれど、今は本当に静かだ。
僕は部室の椅子に座り、思いにふける。
ミニコンサートでのことを振り返るのだが、やはりMARINAさんがサプライズ登場した場面だろう。
一緒にやると口約束をしたものの、実際にやってしまったのはよかったけれど僕がまったくパフォーマンスができなかったことに再度、後悔してしまう。
「ちくしょう……MARINAさんめ」
SNSで話題になったことも相まって、少しMARINAさんに恨み節を言ってしまった。
だが、演奏全体を考えるとそのすごさを改めて実感する。
あのMARINAさんに僕らの音と合わさって曲を弾いたのだから。それは、本来ならばありえない話だ。
まるで夢物語が叶ったかのような気分に、僕はどうにも複雑な心境だ。
しかし、これからどう活動を予定していこうか。
ギャルゲーソングを世に知らしめる活動をやってはいるが、それほど大きく影響を与えてはいない。
いろいろな人にギャルゲーソングを弾いて聴かせてはきたが、ギャルゲーソングを好きになってくれた人がいたかはわからない。
「校内でもギャルゲーソングが浸透していっている雰囲気もまだ少ないし、僕らの活動もまだまだか……」
今回のミニコンサートでの活躍でなにかしら変化があるかと思っていたが、蓋をかければ芹沢さんたちの可愛さとバンドをするかっこよさのみが知れ渡ったようなものだろう。
ここは現同好会の会長として、どうにかしなければならない。
――ブルルルルッ!
そう考えていると、マナーモード中のスマホが揺れる。画面を見ると、ジャスティンさんの文字があった。
「はい、どうしましたか? ジャスティンさん」
「ヘーイ! 岩崎ボーイ! ナウ、時間ありますかー?」
「はっ、はあ……一応ありますけれど」
授業をサボって部室にいるため、電話をするのは問題ない。僕はそうジャスティンに伝えると、彼がよくわからないことを口にする。
「岩崎ボーイ……ギャルゲーソングをやりませんカー?」
ギャルゲーソングをやらないかとはどういうことだろうか。すでにギャルゲーソングをやっているに決まっているのに、ジャスティンの言葉の意味が不明である。
けれど、その後に話す内容を聞いた僕は思わずスマホを落としてしまった。
それくらいの衝撃であった。